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レジェンドメイド「メイドカフェを文化に」するための取り組みとは

連載・先駆者に聞く #4「メイドカフェ」 インフィニア執行役員兼CBO・志賀瞳

秋葉原で生まれ、海外にまで広がっている「メイドカフェ」。現在メイドカフェで行われている接客スタイルの基礎を作ったメイド「hitomi」である志賀瞳氏は、2012年にインフィニア(あっとほぉーむカフェ運営会社)の社長に就任。18年の退任後も経営に携わりながら17年間接客を続けている。「メイド」を文化にすることを掲げた背景を聞いた。(聞き手・昆梓紗)

連載・先駆者に聞く:新たな学問や文化の領域を切り開く先駆者たち。彼らはなぜその分野を開拓してきたのか。6人の先駆者の声に耳を傾けた。

世界観の確立と徹底

―メイドカフェとはどのようなところでしょうか。
 私たちはエンターテイメントカフェと呼んでいます。普通のカフェとの違いは、世界観がしっかりあるということ。(あっとほぉーむカフェでは)お店は「お屋敷」、働く従業員は「メイド」、そこに来店するお客様は「ご帰宅されるご主人様、お嬢様」です。お店でのサービス内容は、ご案内からお食事の提供をサポートのほか、お話などのコミュニケーションをしています。またメイドがステージでのパフォーマンス(※コロナで休止中)を行うこともあります。
 この世界観は、カフェで行われるすべての工程に反映されています。メニュー説明一つとっても、例えば普通に「こちらが一番人気のミックスジュースです」ではなく、「こちらの『ふりふりしゃかしゃか♪みっくすじゅーちゅ』は、メイドとご主人様で萌え萌えな言葉を言いながら、ふりふり♪しゃかしゃか♪していくメニューでございます」というようにお伝えしています。また、マイナスな印象を与えかねないお会計の時も、「ご主人様はとーってもお忙しい方なので、スケジュールが詰まっております。そろそろご出発の準備をお願いします」とお伝えして、「お家賃(お会計)」を回収します。
 ご帰宅からご出発まで、世界観を常に途切れさせないようにコミュニケーションしています。

―この世界観は「メイドカフェ」全体のスタンダードのようになっていますが、メイドカフェの歴史とともに徐々に作られていったものなのでしょうか。
 あっとほぉーむカフェが開店したのが2004年なのですが、それ以前にもメイドカフェはありました。ただ初期はアニメやゲームの要素が強いもので、今のような世界観はありませんでした。05年頃からメイドカフェがブームになり、テレビで多く取り上げられるようになると、多く取材を受けていたあっとほぉーむカフェでの私の接客スタイルが好評で、それを軸に世界観をきちんと作っていくようになりました。
 もともと楽しんでほしいという気持ちが強かったので、現在のようなパフォーマンスを取り入れたポップなスタイルになりました。世界観は今でも日々アップデートされています。

hitomiブロマイド

―現在約400名のメイドさんが働いています。世界観を共有するための取り組みは。
 メイドの応募が月に約200名ほどあり、そこから実際にメイドになれる人は20名いないくらいです(月によって変動あり)。メイドのマニュアルもあり、そこにはルールや世界観が書かれています。これを頑張って覚えてお屋敷に立ちたいと思う子にメイドになってほしいというメッセージでもあり、重視しています。
 また、働くメイドにも「メイド検定」があり、マニュアルの習熟度と接客、SNSでの発信をチェックしています。最上級では私の面談が必須で、キャラクター力やメイドとしての想いもしっかりチェックします。検定とは別に、優れたメイドには「プレミアムメイド」の称号が与えられます。制服のリボンを自分専用カラーにでき、オリジナルグッズが製作されるなどの特典もあります。
 検定や階級の大きな目的は、メイドのモチベーションアップです。メイドたちはお給料というよりも、誇りややりがいを持って働く子が多いので、働くメイドたち自身が楽しみながらやりがいを持って働ける空間づくりを目指しています。

―あっとほぉーむカフェの特徴として、リピーターが多いことがあります。世界観を楽しんでもらい、ファンを増やすための工夫とは。
 まず、初来店の方に“1200%”楽しんでもらうことが一番重要だと思っています。初来店の方を大切にするためにも、「はじめてのお客様」ではなく、「とっても久しぶりのご主人様」ですし、マニュアルも一回目のご帰宅を無駄にしないために作られています。
 リピーターの方には季節ごとのメニューやイベントが好評です。その時だけのメイドの服装や、グッズなども製作します。ですが、メイドとのコミュニケーションを深めることを楽しみに来る方が多いです。

偏見を乗り越えた先に

―「メイドを文化にする」を目標に掲げて活動を続けています。
 08年、秋葉原無差別殺傷事件をきっかけに来店客が減少しました。それでもお店を続けていたところ、「事件を目撃し怖くて秋葉原に来られなくなったけれど、メイドさんたちが頑張っている姿を見てまたお店に来ることができました」というご主人様がいたんです。私たちの仕事は心のしこりを和らげることができるんだと実感しました。そこから、「メイドを文化にしたい」という思いが強くなったように思います。
 職人さんは長年技を磨くことで研ぎ澄まされていきますが、メイドは長く続けても年齢とともに消費されるお仕事と思われがち。でも、私は結婚出産を経た今も、メイドを続けたいと思っています。今や海外にもメイドカフェがあり、世界中にメイドがいます。メイドという仕事には偏見が多くありますが、胸を張って働けて、長く働くことで研ぎ澄まされる仕事にしたいです。

―近距離での接客ということで、コロナ禍の影響もあったと思います。
 全席にアクリル板やガラスパネルを設置し、消毒を徹底しています。また、コロナ禍以降酒類の提供をやめているのですが、それをメイドが伝えるときに「キッチンの妖精さんの魔力が足りなくて、お酒を作ることができなくなってしまいました」とお話するなど、ご主人様に楽しんでもらえるように努めています。

感染症対策を徹底した店内

―20年夏に「バーチャルあっとほぉーむカフェ」もスタートしました。
 コロナ禍前から構想していたのですが、たまたま発表時期がコロナ禍に重なりました。バーチャルカフェ専任のメイドがお給仕し、リアル店舗に行くのに抵抗がある方や、遠方や身体が不自由な方も来店できると好評です。

―12年にはインフィニア(あっとほぉーむカフェ運営会社)の取締役社長に就任し、18年の退任後も執行役員兼CBO(Chief Branding Officer)として、あっとほぉーむカフェのブランンディングやメイドの働きやすい環境づくりなどに携わりながら、メイドとしてお給仕も続けています。
 経営には現場の意見を反映でき、現場には経営の意思を伝えていくことができます。よりよいお店にしていくために、両方の目線を持つことが重要だと考えています。経営、メイド、どちらかだけに優れた人は他にもいると思いますが、両方の立場で働けることが私の強みだと思っています。

―今後の展望は。
 メイド文化を子どもたちにも楽しんでもらいたいと思い、子ども向けのメイド服を作りました。最近は家族で来店する人もいます。今までよりも、もっと多くの人に知ってもらいたいし、来店してほしいと思います。

【略歴】しが・ひとみ  2004年、「あっとほぉーむカフェ」のメイドとして入社。12年インフィニア社長就任、18年取締役CBO。秋葉原観光親善大使。著書に「たった7坪のテーマパーク」(KADOKAWA)、「叶えたい夢の見つけ方」(春陽堂書店)。
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「レジェンドメイド」かつ「執行役員」という肩書の大きさを感じさせない、温かく柔らかな雰囲気で接してくださった志賀さん。さすが人を癒すメイドさんだなと感じました。偏見も多いメイドカフェのお仕事ですが、高い志と技術を磨き続けているからこそ、ブームで終わることなく、長く愛されるお店になっているのでしょう。

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