東京五輪でアピールの機会失った「タッチ決済」。それでもビザが示した将来像
五輪はスポンサーにとって、自社の新商品・技術を社会に広める好機になる。米ビザは東京五輪の最上位スポンサー、ワールドワイドオリンピックパートナーの1社。パラリンピックでも最上位スポンサーにある。東京五輪はほぼ無観客開催になったが、ビザブランドのクレジット、デビット、プリペイドの各カードの新決済手法「タッチ決済」の認知度向上に取り組んだ。(戸村智幸)
タッチ決済はカードを店舗の端末に差し込まず、タッチだけで決済できる。サインや暗証番号は不要だ。平均約8秒と現金の半分の時間で済む。
世界の約200の国と地域で利用でき、ビザは日本でも普及活動を進めてきた。対応するカードは、3月末時点で4670万枚が発行されている。また、実数は非公表だが、同月時点の店舗の対応端末は、前年同月の約2倍に増えた。6月のタッチ決済の取引件数は、前年同月の約5倍に増えた。
ビザは東京五輪の競技会場や関連施設を訪れた人々に、タッチ決済を体験してもらう施策を準備していたが、ほぼ無観客開催になり、実現しなかった。ビザ・ワールドワイド・ジャパン(東京都千代田区)は施策の内容を公表していないが、タッチ決済の認知度を高める機会を失ったことは確かだ。ただ、「タッチ決済の利便性を体験していただく」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン)ために、全ての競技会場、選手村、放送センターの店舗に決済端末を設置した。また、観客を入れた宮城県と静岡県の競技会場では、観客もタッチ決済を利用できた。
競技会場での認知度向上はかなわなかったが、別の手段も取った。大会公式のタッチ決済対応カードだ。東京五輪・パラリンピック組織委員会が発行するクレジットカードとプリペイドカードだ。
ビザと関係が深い三井住友カードが実際の発行業務を担う。特徴的なのは、リストバンド型のクレジットカードとプリペイドカードだ。それぞれ2020本限定の発行だ。
タッチ決済はカード以外のデバイスでも利用できる。リストバンドのようなウエアラブル端末なら、カードよりも素早く決済でき、タッチ決済をより生かせる。限定商品だが、タッチ決済の将来像を提示したと言える。
ウエアラブル端末によるタッチ決済普及に取り組むかについて、ビザ・ワールドワイド・ジャパンは「決済シーンや消費者の利便性に合わせ、多様な選択肢を検討する」と表現するにとどめる。
一方で、新興のエブリング(東京都中央区)がタッチ決済対応の指輪型端末を5月に発売するなど新たな動きが出ている。東京五輪が開かれた2021年は将来、決済手法の転換点になったと言われるかもしれない。