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日本のアート界は明るいか?気鋭の芸術家が語る未来

現代アーティスト・新井文月
日本のアート界は明るいか?気鋭の芸術家が語る未来

写真提供:美術手帖

昨今のアートブームについて

昨今のアートブームには目をみはるものがある。書店に足を運べばビジネスとアートの関連本がズラリと並び、人気の展覧会では人数制限がされ予約でいっぱいだ。

アートマーケットの世界でいうとNO.1はアメリカだが、いま米国企業は人材を採用する際にMBAホルダーよりもMFA(美術学修士)に需要がある。ビッグデータとロジックによる戦略だけでは、サービスに限界がきたのだろう。さらにコロナ禍で世界全体が先行き不透明だ。だからアップルやスターバックスのように、デザインとアート感が漂う魅力的なストーリーを生み、光明を見いだしたいのかもしれない。

では実際、アート業界はどうなっているのか?私は現代アーティストとして活動を続けている。おかげさまでギャラリストや、美術館学芸員、コレクターなど様々な人達と知り合い、現場の声も聞いた。その経験から、日本のアートシーンの未来を正直に語りたい。

世界のアート界の現状

日本を語る前に、世界の動向を伝えたい。まず欧米主体のアート界は、21世紀になり世界各国でフェアは全盛期を迎えた。スイス、アメリカのバーゼル、アーモリーショウ、スペインのアルコ、イギリスのフリーズ…コロナ禍以前は各国にて毎月どこかで開催されてきた。実際に香港アート・バーゼルに足を運ぶと、ピカソの油彩画(21億円)や、森美術館で来場者数60万人以上を記録した塩田千春の巨大インスタレーションなどが集結しており、美術に関する知識が無い人でも驚くはずだ。

香港アート・バーゼル2019 (筆者撮影)

また作品のパワーもさることながら、会場は人々の熱気で溢れかえっており、いやでも体温が上がる。そんな海外アートマーケットは約8兆円とされる。コレクターにとって日本との大きな違いは、アートは資産運用のひとつとしても取引されており、税制上のメリットもある。もちろん純粋にアートをコレクションし、作家と一体になりたい気持ちが前提にある。

ちなみにアメリカにはジェフ・クーンズ、イギリスにはダミアン・ハースト、中国では艾未未といったスーパー・アーティストが存在する。ただ日本では、アートメディア以外あまり登場しない。かわりに謎の壁画アーティストがキャッチ―なのか、バンクシーは度々メディアに登場する。

日本のアート界について

対して日本国内のアートマーケットは約400億円。世界水準からすると0.2%である(市場規模を2000億円超とする資産もあるが、古い洋画、日本画、古美術、工芸を含めている。海外ではアンティークという位置づけとなる。現代アートの市場規模は400億円)。1998年バブル期の日本経済はGDPが世界2位であり、クリスティーズやサザビーズといった巨大オークションハウスも存在した。ところが、今や30分の1の規模となってしまう。つまり当時100万円だった日本画も、価格は3万円に値崩れしたことになる。私がコレクターだったらプンプンと憤慨するだろう。通常、経済とアートの価格は連動するが、日本のアート界には大きな溝が存在した。

そして世界のアートシーンからすると日本はアジアの極東、さらに島国に位置する。そのため良くも悪くも、美術文化は非常にガラパゴス的となった。日本は縄文時代の土偶からはじまり、水墨画、詫びさび、江戸の浮世絵に至るまでユニークでオリジナルな文化が育った。同時に、それらの作品を愛でる気質も日本人の心にはある。ところが芸術と金を結びつけるのはとんでもない、と嫌う傾向にある人も多い。

日本独自の文化として、新聞社とテレビ局が主催する企画展がある。ポスター・新聞・WEBと大々的に広告を出し、その期間だけ何十万人も動員する。伊藤若冲やフェルメールは大人気のため、3時間ほど待たされたあげく、「立ち止まらないでください」と歩きながら鑑賞する展覧会が成立するようになった。最後にポストカードやTシャツなどのグッズ販売はあるが、もちろん本物は購入できない。

いっぽう心が豊かになるアートに対しては、それを資産とする考え方が世界中にある。だが国内ではその対価として、正当な金額を支払う感覚は浸透していない。アートには部屋の装飾的な役割もあるが、確実に人の心を揺さぶる力がある。海外の富裕層は、資産のポートフォリオで10~20%をアートに充てている人も多いが、もちろんそれ以上に心揺さぶるアートの方が装飾的アートよりも評価が高いと考えており、インテリアアートとは取引される金額も天と地の差がある。

小松美羽作品 (ホワイトストーンギャラリー提供)

日本のアート界は明るい

私の作品がはじめて売れたのは2012年で、購入者はドバイの外交官であった。たまたま知り合った彼女は、当時20代で世界のアートに興味があり、名もない私の絵を100万円で購入いただいた。アーティストがひとつの作品を創るのは容易ではなく、どんな表現でも作家は全身全霊で制作しているはずだ。そこに高額で売れた体験は奇跡だった。おかげで創作活動も続けることができ、特に2018年頃からは日本人でも30~50代の会社員の方にアートを購入していただく機会が多くなった。現代アートのコレクター倶楽部などは、一年に一作品を購入する人達の活動もあるほどだ。

さらに国内ではITと連動したサービスも登場している。それは絵画のレンタルサービスでもあり、オンラインで直接購入できるギャラリーもある。著名アーティストの作品を複数でオーナーとなるシェアオーナーもあり、ブロックチェーンの発達による偽造防止をふくんだ品質証明書を発行するサービスも登場した。

こうしてアート界に明るい兆しが見えはじめた。コロナ禍において、ドイツのモニカ・グリュッタース文化相は「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」とし、国から500億ユーロを捻出したのは記憶に新しい。

やや遅れたが日本も同様に、文化庁から音楽家や芸術家たちに500億円の予算を投じた。ただ資料提出が苦手なのか、応募総数が300億円に満たず再募集をかけている。これでは予算も削減されるのでは危惧されたが、それでも国は文化・教育・科学技術関連に2020年度より57億円増えた5兆3969億円の予算を設けた。ここ20年間、日本の近代美術が低迷を続ける要因は、アートに資金力を導入しない点だったので、この事実により明るい希望は確信となった。

これだけ世界はアートを必要としているにもかかわらず、日本でアーティストを目指すというと常に肩身が狭い思いをしてきた。アーティストは情熱・作品・知性・プロデュース力・運と総合力が求められるし、次世代の子供達には憧れの職業になってほしい。そうなると今まさに日本のアートは連携し変化するタイミングなのだ。いずれは日本の税制も変わり、芸術文化を牽引する国になるだろう。

筆者:新井文月
現代アーティスト。幼い頃、足の病気で歩くことができず、空想の絵を描く日々を過ごす。絵を描くうち足は治癒し、多摩美術大学に進学しストリートダンスに出会う。ダンサーとして活動する傍ら、目に見えない力を意識するようになる。2011年、東日本大震災では被災地での似顔絵制作をきっかけにアートボランティア活動を開始。2012年には石巻市の仮設住宅の壁に70mの龍をボランティア100名と一緒に描き、再生の象徴とした。2014年には「Flower Project」展(在ニューヨーク日本国総領事館)を開催。
2015年には「Arab Week 2015 Art Exhibition」に出展し日本アラブ友好感謝賞を受賞。信濃毎日新聞書評委員。新井文月オフィシャルサイト:https://araifuzuki.com/
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