アクサ生命保険CEOに直撃、日本企業のSDGsはホンモノか?

安渕聖司氏インタビュー

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安渕聖司氏

右をみても左をみても産業界はSDGs(持続可能な開発目標)の大合唱だ。持続可能な社会を志向することに異議を持つ人はいないだろう。ただ、過去にも企業が社会と向き合ってきた取り組みは一過性のブームに終わったのが日本の企業史でもある。いつかきた道をたどらないのか。欧米系の「SDGs先進企業」でトップを務めてきたアクサ生命保険社長兼最高経営責任者(CEO)の安渕聖司氏に日本のSDGsがどのように映っているか聞いた。(聞き手 栗下直也)

ー仏アクサグループは10年以上前からCR(企業の社会的責任)を経営戦略に組み込んでいます。世界最大の保険グループとしてESG(環境・社会・ガバナンス)投資も盛んです。いわばSDGsの先頭を走ってきたと言っても過言ではありません。日本企業の取り組みをどのように見ていますか。

「本気で考える企業が増えてきている印象です。SDGsは人、ビジネス、地球環境に関する部分に大別できます。例えば、地球環境に関する部分をないがしろにすると、ビジネスの前提条件がそもそも成り立たないことに皆、ようやく気が付き始めたのではないでしょうか」

「人の重要性も再認識しているはずです。SDGsはジェンダー・イクオリティから貧困・飢餓まで多岐にわたりますが、医療健康の問題が日本ではこれまで以上に無視できなくなっています。日本はご存じのとおり人口が減ってきています。労働人口が減ってきている中で、企業の99%が中小企業です。つまり、1人の労働者の重みが日本は重くなる一方です。SDGsについて関心が無かった企業も、考えざるをえない状況になっています」

ー一方で、必要性は認識していても、実行できるかは別の問題でもあります。例えば、日本の大企業は役員が誇らしげにSDGsバッジを付けていても、自社のパワハラや過労死には目をつぶったりしかねません。「貧困問題を訴えながらも自社の社員を全く大事にしていないのでは」と違和感を抱く人も増えています。

「違和感を抱く人が社内外に出てきたのが重要ですね。一昔前ならば『俺たちの時代はもっとひどかったんだ』と上司がいうのを『そうですよね。頑張ります』と部下は受け入れていました。疑問を抱いたとしても第三者にわかる形で違和感を示す人はほとんどいませんでした。『村』の恥を表に出すようなものでしたから。それが、今ではSNSの発達などもありますが、大きな声になっています。こうした声が出てくるのが解決に向かう一歩です。『昔は許されたけれども今はアウト』を理解できない人は外から批判されて初めて、考え方を切り替えられます。それでも切り替えができない人がいるとすれば、それは今の時代では会社にとってはもはやリスクでしかありません」

 

ー「昔はもっと酷かった」と叫ぶ体育会系オジサンは消滅しますか。

「多くの企業が、体育会系のノリはパフォーマンスが良くないことに気づき始めています。例えば、ESG投資のインデックスを見ていてもダイバーシティがある企業の方がイノベーションが起こりやすかったり、会社の業績が良かったりします。つまり、日本企業の体育会系文化は大半の従業員は疲弊しますし、経済効率も悪い。まだ残っているとしたら、良いことがないのに慣習として続いているだけです」

「私は米GEグループで経営を舵取りしていたこともありましたが、GEでは20年近く前からダイバーシティを繰り返し強調しています。繰り返し言い続けることで、それが良いことならば、会社の中に賛同者が増え、企業文化になります。日本企業も変化の時期にさしかかっています。ここでアクセルを踏み込めるかが重要です」

ーダイバーシティの実現や働き方改革に向けて、いろいろな仕組みを日本企業も模索しています。

 

「形だけ整えても意味がありません。制度を導入する際は、なぜやるのか、何のためなのかをしっかり考えなければいけません。制度だけ入れると制度だけが一人歩きしてしまいます。当たり前に聞こえるかもしれませんが、これが自社のことになると皆さん、徹底できません。ですから、理念を共有して制度が理念に向かっているかを常に確認しなくてはいけません。本来、日本人は換骨奪胎が得意でした。自分たちの目指すゴールにたどり着くように、アメリカやヨーロッパの制度のいいとこ取りをすればいいわけです。それが、目的地をはっきりさせずに、『我が社も頑張るぞ』と制度だけいきなり据え付けるから、『えっ?なんでこんなことするの』と多くの社員は戸惑います」

「理念の重要性とも重なりますが、そもそも、成功事例はそのまま真似できません。成功は事例として紹介されているファクトよりも、実は背景が重要です。会社の細かな状況やその時点での関係者の人間関係や思いはどうだったのか。コンテキストに目を配らずに、事例だけとり出して『うちもこれやろうよ』では成立しません」

―まず理念があり制度があっても現実も変わります。アクサでは制度と現実の乖離をどのように見直していますか。

「まず、私たちには大上段にパーパスがあります。企業の存在意義ですね。そして、その下部構造に、パーパスを実現するため、何年か先に目指すべきビジョンがあります。ビジョンを達成するためには当然、戦略を考えます。ただ、ご指摘のように、外部環境も変わりますので、私たちは年に最低2回は戦略を見直します。その戦略が果たして適切か、うまく機能していなければ何が問題なのか。外部環境が原因なのか、組織体制の問題か、それとも制度がおかしいのか徹底的に検証します。それは日本だけでも見直しますし、日本とフランスの本社の間でも検証します」

「うまくいかなかったら見直す。これは企業としては至極当然の取り組みですが、目先の利益に走ってしまうと制度と実態の乖離は大きくなる一方です。経営者は会社の業績に責任を持つべきですが、それは結果です。経営者の本来の役割は問題を発見して解決することです。自社は何のためにビジネスをしているか、そしてそれはぶれていないか。常に自問自答していれば、SDGsの実現も近づくのではないでしょうか」

1979年、早大政経卒、同年三菱商事入社。90年ハーバード大経営大学院修了。99年リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。UBS証券マネージングディレクター、GEコマーシャル・ファイナンス・アジア上級副社長を経て、09年GEキャピタル・ジャパン社長兼CEO、17年ビザ・ワールドワイド・ジャパン社長。19年より現職。

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