形骸化する「インターンシップはキャリア教育」。早大・明大・青学・立教の決断
大学はインターンシップを「キャリア教育」と位置付け、多くは夏休み中に就業効果が見込める5日以上の中長期プログラムで学生を受け入れてもらえる関係を企業・団体と形成している。事前や事後の研修も用意して手厚く学生を支援する。しかし、今や学生にとってインターンシップは、企業が主催する1-3日程度の短期プログラムだ。就職活動の一環として業界理解を進めるイベントと認識しており、一般的なインターンシップ市場において、大学が考えるキャリア教育(※)という目的は形骸化している。さらにコロナ禍ではオンライン活用が広がり、プログラムの短期化が進んだ。その中で、インターンシップに参加する学生の支援のあり方を見直し、大きく方向転換する大学も出てきた。(取材・葭本隆太)
※大学が考えるキャリア教育としてのインターンシップ:大学は就業体験を通して学生が将来を考えたり、次の学びのテーマを設定したりするなど大学生活にフィードバックするための機会と捉えており、就職活動の入り口ではないと認識する。
低学年向けプログラムに方向転換
「方向転換を図ります」―。明治大学就職キャリア支援センターの小林宣子就職キャリア支援事務長が決断を明かす。同大は全学年を対象にした事前・事後研修付きで5日以上の就業体験を含むインターンシッププログラム「ALL MEIJIインターンシップ」について、2022年度から対象を1-2年生に改める方針を固めた。これまでのメーン対象である3年生は、企業主催の短期プログラムへの複数参加が一般化する中で、大学側があえて3年生向けに実施する意義を見出しにくくなったからだ。
同時に、“本当のインターンシップ”は就業体験を積むことで職業観を育む重要な「キャリア教育」の機会という強い思いが背景にある。短期プログラムは業界理解などにつながるため、ガイダンスではその種類などを学生に伝えるが、就業体験を積むには不十分なプログラムが多いと認識する。だからこそ、“本当のインターンシップ”の機会を学生に提供するために、1-2年生を対象にした方向転換が必要と判断した。
多くの大学は、インターンシッププログラムを設けている。1997年に当時の文部省・通商産業省・労働省が「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」を取りまとめたことが起源とされ、大学は「高い職業意識の育成」などを目的に00年代に相次ぎ設置した。一方、10年代には企業主導による短期プログラムの実施が「採用後のミスマッチを防ぐために自社を深く知ってもらう準備工程」(リクルート就職みらい研究所の増本全所長)として広がり、今では学生が就活を意識してそれらに参加するケースが一般化した。
また、コロナ禍の20年は中長期プログラムの実施が難しくなり、オンライン活用による短期プログラムが増えた。学生の意識が就活としての短期プログラムに向いている今、大学はそれに合わせた学生支援を進めている。
コロナをきっかけに対応を変えた
早稲田大学は、コロナを機に企業主導の短期プログラムとの向き合い方を変えた。これまでは事前・事後研修付きで5日以上の就業体験を含むインターンシップだけを学生に紹介していたが、今年から数多ある短期プログラムについて活用のポイントなどをガイダンスで紹介するようにした。同大キャリアセンターの塩月恭課長が説明する。
「“本当のインターンシップ”はあくまで5日以上のプログラムと線引きしていたのですが、学生が捉えているイメージはまったく違います。短期プログラムへの参加が当たり前になっています。特に、昨年はコロナ禍でオンライン化が進み、短期プログラムがさらに増えました。その中で、我々が理想を追いかけるばかりに(情報を提供せず)学生が不利益を被ってはいけません。学生の実態に合わせて支援していかなくてはいけないと判断しました」。
企業主導のプログラムに対策講座
青山学院大学は他大学と同様に事前・事後研修付きのインターンシップ「青学枠インターンシップ」という仕組みを持つ。しかし一方で、短期を含む数多ある企業主導のインターシップも、以前から学生に参加を積極的に推奨してきた。大手就職ナビサイトでエントリーが始まる6月に間に合うように、4―5月ころには対策講座を開き、選考を通過するための準備を後押している。同大進路・就職センターの遠藤明主任が背景を説明する。
「(企業主導の短期プログラムは)多様な業界を知り見比べる好機です。そこに参加することで学生は視野を広げられます。自分自身の先入観で本番(の就職活動)に入ると、結果的にミスマッチが起きます。それを防げるメリットがあります」
だからこそ、学生の短期プログラムへの参加が当たり前になった今、あえて「青学枠」を設ける目的を明確化しにくくなっている。
「確かに一部の学生だけを対象に事前・事後研修を行うのもどうなのか。長い目で見ると(青学枠という仕組みを)考え直したり、変えていったりする時期は来るのかなと思います」(遠藤主任)
大学主体のインターンシップをあえて実施する意味を自問自答する大学が増える中で、その重要性を改めて強調する大学がある。立教大学だ。「立教型インターシップ」として事前事後の研修付きで5日以上の就業体験を含むプログラム実施している。同大の工藤秀夫キャリアセンター事務部長が力を込める。
「『立教型』の対象は明確で、我々が背中を押して上げないとなかなか社会に向き合わない学生です。『立教型』ではそうした学生が安心して参加できる企業を我々が紹介し、事前・事後の研修も行うことで成長を促します。これからインターンシップが世の中にどれだけ溢れても、対象となる学生はいると思うので、続ける価値はあると考えています」
大学のインターンシッププログラムの規模(参加企業・団体数/参加学生数)
ALL MEIJIインターンシップ:(2019年度)245社/703人
青学枠インターンシップ:(例年)20社程度/30―50人程度
立教型インターンシップ:(2019年度)87社/145人
WIN(早稲田インターンシップ):(2019年度)39機関/44人
オンライン化が変革を起こす
コロナ禍に伴うオンライン化は、結果としてインターンシップの短期化を促した。「就業効果が見込める日数の基準である『5日以上』を満たすプログラムは減った」(私大キャリアセンターの関係者)という。青山学院大が「青学枠」の基準を従前の「5日以上」から「4日以上」に改めるなど、大学が主体的に関わるプログラムにも変化をもたらした。一方、このオンライン化が中長期でさらに大きな変革を及ぼすという見方がある。早稲田大学キャリアセンターの塩月課長は個人的な意見と断りを入れた上で強調する。
「インターンシップや就職活動の早期化・長期化は、学業の妨げになるからよくないというのが大学にとっての通説でした。しかし、オンラインで(一定の就業体験などができるようになり、)移動時間が削られ、授業との両立はしやすくなりました。だとすれば、1―2年生からでもインターンシップに積極的に参加して、企業活動に接し、そこでの気付きを大学での学びにつなげるという形がスタンダードモデルになるのではないでしょうか。仕事を経験して将来を考えた上での方が学びにも身が入りますから。いつまでも変わっていくことに抵抗しているのはおかしいと思います」
企業主導の短期インターンシップの広がりは、大学に対応を迫った。コロナを経たオンライン時代のインターンシップのあり方においても大学には変化が求められそうだ。
連載・本当のインターンシップ
#01 インターンシップに悩む企業。コロナ禍でオンライン化進むも「対面したい」事情(7月26日公開)
#02 データ活用人材の新卒採用競争。“特別な”インターンシップが「前哨戦」に(7月29日公開)
#03 早稲田・明治・青学・立教の決断。「インターンシップは教育」形骸化でどうする?(8月2日公開)