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季節の異常性を予測するシステムの高度化。ウミガメの観測データを生かす

季節の異常性を予測するシステムの高度化。ウミガメの観測データを生かす

海洋観測データの取得に利用したウミガメ。背中に測定器をつけている(海洋機構提供)

近年、気候変動の脅威が深刻化している。11日からの主要7カ国首脳会議(G7サミット)では気候変動対策が主要議題の一つに挙がるなど、日本だけでなく世界的な取り組みでの解決が求められる。そんな中、海洋研究開発機構では世界の気候変動を予測する技術の開発に取り組んでおり、今後発生する異常気象を先取りできる仕組みの確立を目指している。(飯田真美子)

【海の水温構造】

海洋機構と東京大学は、ウミガメの観測データから数カ月先の海水温の変動を予測するシステムを開発した。5頭のウミガメに深度計や水温計を付けて海に放ち、熱帯域の海の水温構造を観測した。ウミガメは海底に生息する生物を捕らえるために深度100メートル以上の潜水を繰り返す特性がある。取得したデータはウミガメに取り付けた送信装置で人工衛星に送られる。ウミガメを利用し、水面下の水温情報を取得した。

季節の異常性を予測するために海洋機構が開発した「季節予測システム」に、測定した水温データを取り込むことで、数カ月後の周辺海域の水温変動の予測精度を高めることに成功した。熱帯域で動物由来の観測データを季節予測システムに適応した例は初めてだという。

動物由来の観測データが同システムに統合され、大きな海と縁辺海の複雑な相互関係の理解が進めば、それらの変動予測シミュレーション技術が向上・発展すると期待される。

海洋機構の松永是理事長は「観測技術を向上させてさらにデータを取得し、ビッグデータ(大量データ)などを使った取り組みを増やしたい」と語った。また、海洋機構は農業・食品産業技術総合研究機構との共同研究で、コメと小麦、トウモロコシ、大豆の収量変動を3カ月前から予測できるシミュレーションの要素技術を開発した。

日本付近の海面水温と海流の強さをシミュレーションした結果(色相は海面水温、明るさは流れの速さを表す=海洋機構提供)

【最大2年先まで】

海洋機構は最新の観測データを駆使し、気候不順が発生した場所と種類を最大2年先まで予測できる技術を持つ。気温や降水量などの変数以外も考慮し、予測精度を向上させた。一方の農研機構は、主要4作物の成長と生産プロセスを解析する技術がある。これらを組み合わせて予測技術を開発した。冬小麦の収量変動の予測精度が特に高かった。

ただ、予測技術は開発段階であり、気温や降水量などの精度を向上させることが課題だ。予測技術が確立されれば、極端な気候不順が発生した時の影響評価や作付けの変化に対応できるという。海洋機構の土井威志副主任研究員は、「予測技術が確立すれば、環境条件に適応する『適応行動』の探索ツールとしても発展できる」と期待する。

気候変動は日本も大きな影響を受けている。最近では2019年10月の台風19号では、関東地方を中心に大きな被害を出したほか、20年7月には九州地方を中心とする豪雨被害が発生した。21年は梅雨入りが例年より早いなど、今後が懸念される。

海洋機構では大気と海洋の変化から変動を予測するシステムの開発を急ぐ。変動予測ができれば、環境の変化に応じた防災や産業、農林水産業などの対策も可能となり、利便性は計り知れない。

日刊工業新聞2021年6月7日

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