海洋プラスチック問題、海洋機構が「しんかい6500」やAIで挑む
自然界で分解されにくいプラスチックは、海まで流れることで海水や海底の堆積物などに含まれる「海洋プラスチック」になる。毎年800万トン以上のプラスチックが海に流出していると見られるが、その80%以上が不法投棄など地上から流れるゴミ由来だという。2050年には海中のプラスチック量が魚類の生物量を上回ると予想されており、早急な対策が必要だ。(飯田真美子)
渦にたまる
海洋研究開発機構の海洋生物環境影響研究センターでは、さまざまな手法を使って海洋プラスチックの回収や分析、生物への影響などを調べている。
研究チームは、千葉県房総半島沖の近海に存在する「渦」にたまる海洋プラスチックに注目。有人潜水調査船「しんかい6500」を使って海中と海底の堆積物中の海洋プラスチックを分析するため、大型台風が通過する前後に海洋プラスチックを回収して解析した。
台風が通過する1日前ではプラスチックが見られず、通過直後は多くのプラスチックと木片を確認した。一方、台風通過2日後には通過前のプラスチックがない状態に戻っていた。渦付近の海中の動きや流れが、他の場所に比べて特に速いことが明らかになった。
しんかい6500以外の手法でも海洋プラスチックを調査しており、研究船「よこすか」で相模湾や伊豆小笠原海溝を調査した。また、19年12月から開催された「日本―パラオ親善ヨットレース」では、参加艇に調査設備を搭載して連続観測を行った。同機構の松永是理事長は、「パラオの子どもたちにも設備を体験してもらい、海洋リテラシーにつながったと感じる」と強調する。
海洋プラスチックの海洋生物への影響も調査している。具体的には、深海の二枚貝などが体内に取り込んだ時の行動や代謝・ホルモンなどの異常の変化などだ。海洋プラスチックは海洋生物の体内に取り込まれると濃縮される。中には性別の変わる生き物がいることも知られている。プラスチックに含む紫外線吸収剤の影響や、圧力変化によって生物の体内からプラスチックの成分が溶出するかなどを調べている。
光の波長
同機構では、NECと共同で人工知能(AI)によって海洋プラスチックの材質の分類や形・大きさの判別などを自動で解析するシステムを開発。画像認識技術を応用し、海水や堆積物から海洋プラスチックを分類・分析することに成功した。
さらに、より多くの画像の波長を取得できる「ハイパースペクトルカメラ」でプラスチックの材料ごとに異なる光の波長を測定し、材質や大きさなどを自動で分析する仕組みを構築している。
研究チームの土屋正史副主任研究員は、「すべて手作業だった作業を自動化できた。製品化に向けて開発を進めたい」と力を込める。
海洋プラスチックの研究は世界中で行われている。だが回収方法や海に流さないための工夫など、決め手となる対策はまだない。まずはより詳細な海洋プラスチックの海洋分布や性質などを調査することが求められる。