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新型コロナでSDGsはターニングポイント。ブームで終わらないためには?

活動のヒント SDGsアクション #2 SDGsの基礎
新型コロナでSDGsはターニングポイント。ブームで終わらないためには?

 

経済・社会・環境のバランス

2020年はSDGsにおいてターニングポイントなのかもしれない。2020年はSDGsの達成期限である2030年まで残り10年なので、国連は「行動の10年」と呼び、実際のアクションを起こすように働きかけている。国際社会が協調して気候変動対策に取り組む「パリ協定」も2020年がスタートだ。そして2020年、新型コロナウイルスが世界的に流行し、経済や社会に大きな傷跡を残した。
 感染を防ぐため世界各地で自粛や都市封鎖の措置がとられ、経済活動が停滞した。仕事を失った人、もしくは収入が減った人が増えて、貧困層が増加した。社会的な弱者ほど新型コロナの影響を受け、社会不安が増している。

環境面では、気候変動を招く温室効果ガスの排出量は大幅な減少が見込まれている。新型コロナ感染を防ぐため経済活動が抑えられ、エネルギーの使用が減ったためだ。ただ、環境だけプラス、経済・社会活動がマイナスでは、SDGsが目指す経済・社会・環境のバランスがとれた成長は達成できない。コロナ禍でバランスの難しさがあらためて浮き彫りとなった。

問われる本気度

そのためか、コロナ時代のSDGsが議論されているのだと思う。アフターコロナやWithコロナでのSDGsについて、さまざまな方と話す機会があった。筆者(松木)の考えるWithコロナ時代のSDGsについて整理したい。

まず、問われるのがSDGsへの取り組みが「本気かどうか」だ。
 SDGsに取り組むための資格はない。ISO14001のように認証基準もない。誰でも「SDGsに賛同する」と表明でき、どの会社でも「SDGs推進企業」と名乗ることができる。特別なルールがないため、多くの企業がSDGs に参加できた。

ただ、ハードルの低さのマイナス面を指摘する声もある。2000年代からCSRを研究する早稲田大学の谷本寛治教授は、日本の現状を「SDGsブーム」と表現する。筆者との取材で谷本教授は「SDGsは『乗りやすい』と言った方がいいかもしれない。17ゴールのどれかに得意分野を当てはめて『やっている』と言えば済む。事例集も簡単にできてしまう」と語っていた。
 CSRはコンプライアンス(法令順守)が問われ、環境経営は規制や認証への対応が要請された。一方、SDGsには基準やルールはなく、「SDGsを推進している」と自主宣言すれば済む。ちょうど「SDGsウォッシュ」の批判も出ている。SDGsのアイコンをホームページに掲載して取り繕っただけの「やっている振り」が、SDGsウォッシュだ。
 SDGsウォッシュのレッテルを貼られないために「本物」である必要があり、そのために「本気」であることが問われる。では「本気」とは、どういうことか。

SDGsに取り組む理由を語れ

谷本教授は「経営層が説明責任を果たし、自社がSDGsに取り組む理由を発信することだ。SDGsも自社の問題を掘り下げないと機能しない。SDGsを理解したら本来、どういう社会を目指すべきか考えるはずだ。経営者は哲学を語るべきだ」と語っていた(日刊工業新聞2020年6月26日付)。
 つまり大事なのは、SDGsに取り組む理由を説明できることだ。

企業を取材してSDGsに取り組む理由を聞いても、「世の中の潮流だから」「ビジネスチャンスだから」「政府が推進しているから」程度の回答しか返ってこないことがある。「浅い」と言うと叱られると思うが、こういう理由だと本気さが感じられない。谷本教授の表現を借りると「SDGsに乗っているだけ」だ。
 他社と似た回答、模範的、パターン化された回答もある。よく耳にするのが「経営理念や創業以来のDNAが一致するからSDGsに取り組む」という回答だ。おそらく企業が抱える課題は1社1社で違うはずだ。同じ業界・業種の企業同士なら同じかもしれないが、それでも社内の課題に違いはあるはずだ。SDGsに取り組む理由も競合企業と横並びであるはずはなく、多少なりとも違いはあると思う。

模範解答からの脱却が共感を呼ぶ

自社の課題に向き合えば、SDGsに賛同し、経営に導入する理由にも個性が出てくる。模範的、パターン化された説明から抜け出し、しっかりとした根拠もある「深み」の理由が出てくるはずだ。
 SDGsを理解し、新しい目標を設定したり、新しい事業を始めたりした企業担当者は明確な理由を語ってくれる。九州の工務店であるエコワークス(福岡市)の小山貴史社長は、ゴール5(ジェンダー平等)のターゲットを理解し「産休や育休の制度はあるが、不十分だった」と気づいたという。人材不足が深刻化してきた現状もあり、女性社員が出産で退職したら戦力ダウンになる。自社が産後に復職しやすい職場なのか問い直し、2030年に社員の女性比率を50%(2019年6月現在30%)、新任管理職の女性比率も50%(同13%)にする目標を設定した。

自社を取り巻く課題に気づいた時、経営者は不安になるはずだ。その危機感とSDGsに取り組む理由がセットになっていると本気さが伝わり、本物と感じる。
 多くの企業に、自社なりのSDGsに取り組む理由を発信してほしい。理由が明確であるほど、顧客や取引先などステークホルダーにも共感される。真剣さも伝わり、ファンになってもらえるのではないだろうか。そして何よりも、堂々と語れる理由があればSDGsウォッシュを防げる。
(「SDGsアクション <ターゲット実践>インプットからアウトプットまで」より一部抜粋)

新刊の紹介

書名:SDGsアクション <ターゲット実践>インプットからアウトプットまで
 著者名:日刊工業新聞社 編、松木喬・松本麻木乃 著
 A5判、304頁、2,420円

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<書籍紹介>
国連加盟国によって採択されたSDGsは、17の目標と169のターゲットで構成されている。本書では、日本企業が取り組みやすいターゲットを取り上げ、企業が実践しやすい具体的な活動を、ターゲットごとに整理。企業規模、産業分野などの垣根を越え、70以上のケーススタディを紹介する。
他社が実際に行っている活動から、SDGsを推進したい企業関係者に具体的なSDGsの取り組みのヒントを与える。

松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
自社の存在意義を伝えるのにSDGsは便利なツールと思っています。「いい会社だ」と思ってもらえると、従業員も取引先もファンになってくれるはずです。なので「SDGs達成に貢献します」とホームページに掲げるだけでなく、「このままだと将来の経営が危うい。だからSDGsをヒントに事業を見直した」などの想い・理由を知りたいのです。「SDGsバッジをつけました」だけでは見分けがつきません。

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2030年を期限とする持続可能な開発目標(SDGs)が試練を迎えている。新型コロナウイルス禍で政府は目先の景気対策を優先し、企業もSDGsは後手に回りがちだ。しかし、海外に目を転じると、欧州連合(EU)は環境と紐づけた景気対策「グリーン・リカバリー」に大きく舵を切り、SDGsで世界をリードしようと動く。

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