怒りを感じた時、どうすればプラスに変えられる?
怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」が注目されている。仕事だけでなく、日常でも人間関係を円滑にできれば豊かな人生につながる。日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんに聞いた。(取材・昆梓紗)
「縁」と怒りの意外な関係
―なぜ今アンガーマネジメントが注目されているのでしょうか。
社会的な背景でいうと、「多様性」と「無縁性」が挙げられる。一見相反するようだが、この2つは関連している。
政府も提唱している多様性のある社会。性別や背景に関係なく全員が活躍できることを目指している。ところが多様性は怒りの種をものすごく生む。なぜかというと、われわれが怒るのは他者との違いを目にしたときだからだ。多様性を実現すると「あなたの隣にあなたが理解できない人がいる」ことが自然な社会になり、違いを日常的に目にするようになる。したがって摩擦が生じ、腹が立つことも増える。
多様性が進むことで、コミュニティも変容している。ムラ社会や家族的企業が崩壊し、新たにその役割を求められてきたのがSNSだ。しかしSNSは縁が非常に薄いコミュニティである。発信型のコミュニケーションが基本のため、受け入れられている感覚が薄いので承認欲求が満たされない。
怒りにとって家族や会社などの「縁」はタガ。無縁の人はタガがはずれやすく、怒っても平気で、その怒りも激しくなりがちだ。2018年に福岡で有名ブロガーが殺害された事件では「ネットリンチの復讐」が動機だが、被害者が主となりネットリンチに加担したわけではない。容疑者はいわゆる無縁の人だった。
このように現代社会は怒りが生まれやすく、その行き場がなくなっている傾向にある。
―対応するためには。
他者に対する許容度が低い人は、多様性も受け入れられないし、縁も作れない。するとどんどん孤立していってしまう。自分が他人をどう受け入れていくかは、これからの社会においてとても重要になっていく。アンガーマネジメントは自分の人生に集中することであり、他者に対する許容度をあげること。それができれば無駄にイライラすることはなくなると思う。
自分の人生に集中する
―著書では「怒り」からはまず距離を置くことも必要だと書かれています。しかしSNSなどでは「炎上」と言われる現象のように、怒りの現場に人が集まる傾向にありますね。
縁が薄い人ほど関わりが持ちたくて他人の怒りにちょっかいを出すのだろう。これも自分の人生に集中していないことが要因だ。
―自分の人生に集中するために必要なのは。
簡単に始められる一例としては、「やらないことリスト」を決めること。「やった方がいいかな」くらいのレベルのものは全部やめる。「やらなけれないけない」「やった方が絶対に良い」ものだけをやる。
―ビジネスの場面で怒りを円滑にコントロールするには。
伝わらなくて当たり前、くらいに思っているのがよいと思う。なぜかというと、人がそれぞれ持っている「心の辞書」が違うからだ。これをアンガーマネジメントでは「コアビリーフ」と呼んでいる。
例えば部下が休みの連絡をLINEで送ってきた。上司は休みの連絡をLINEでするのは失礼だと思っている。一方で、部下はいち早く連絡すべきと思っている。どちらかが正誤ではなく、どちらも正しく、ただ違うだけ。違いを受け入れることが大切。
―一度受け入れたとしても、冷静になった後に「でもこれは怒ったほうがいい」「受け入れられない」というものもありますね。
冷静になって思いを伝えることは良いと思う。ただ、機嫌に左右されないようにすることは必要だ。ルールを決め、それに沿って怒る怒らないを判断する。一番わかりやすいのは、「常に自分の最高に機嫌のいい状態の場合で考える」こと。機嫌のいい状態が自分の怒り許容度の限界。これはやり方を知っていれば誰でもできることだ。
怒りをプラスに変える
―怒ることはマイナスだけでなく、プラスにもなると思いますが、怒りをプラスに変えるために必要なことは。
自分にできることとできないこと、優先順位が高いことと低いことを分けること。
私たちは、変えられないことを変えようとしてイライラするし、変えられることをしないでイライラしている。可変性と優先順位の2軸でものごとを整理してみてはどうだろうか。
・事実 部下がLINEで休みの連絡をしてきた
・主観 LINEで連絡をしてくることは悪い
・客観 部下は早く連絡したほうがよいと思っている
こう考えると、悪いことをしていると思っているのは上司だが、部下はいいことをしていると考えており、「LINEで連絡する」という事実そのものには意味がない。事実を客観視し、「コアビリーフ」を見直すべきだ。
―アンガーマネジメントはすぐに取り入れやすい一方で、自己との対話の部分も多く、継続するのが難しい側面もありますね。
継続するにはやはり「目標」が重要だ。自分がどうなりたいのか、何をしたいのか、そのための優先順位をはっきりさせることが、他の事象に惑わされず継続することにつながる。