#6
楽天も注目「家はスマホで買う時代」が到来する根拠
連載・住まいが変わる#07
家はスマホで買う時代―。ジブンハウス(東京都港区)は高精細なVR(仮想現実)などのデジタル技術を駆使し、規格住宅(※1)の購入の相談をスマートフォン一つで完結できるシステムをベースに事業展開する新興の住宅会社だ。住宅FC(フランチャイズチェーン)・VC(ボランタリーチェーン)事業の加盟店は創業3年半で113店舗まで拡大した。日本ユニシスと共同開発したVR空間で複数企業の規格住宅を内覧できるバーチャル住宅展示場「MY HOME MARKET(マイホームマーケット)」はハウスメーカー大手に採用が広がり始め、16日には楽天の電子商取引(EC)サイト「楽天市場」にも出店した(※2)。内堀孝史社長は「住宅はスマホでほとんど決めて買う時代がくる」と確信する。その理由を聞いた。(聞き手・葭本隆太)
※1規格住宅:住宅会社が事前に用意した一定の「規格」に従って建てる住宅。内装や設備、間取り、外観、屋根など家を建てるための資材やデザインをカタログから選ぶように決める。
※2楽天のECサイト「楽天市場」は16日に「住宅・不動産ジャンル」を新設し、住宅・不動産の購入申込みを可能にした。現在、マイホームマーケットなど2社が出店している。>
―VRなどを活用したシステムを構築した経緯を教えてください。
住宅市場の7割以上を占める一次取得者層の需要をつかむには規格住宅の提案が最適と考えたことが根本にある。(一定の枠組み内で変化する)規格住宅であればVRを駆使することにより、インターネット上で顧客にわかりやすく居住空間のイメージを伝えられる。(選んだ内装や設備などに応じて価格が変動する)見積もりシミュレーションシステムも整備することで、金額の見える化もできる。夫婦などがスマホを操作しながら自宅でじっくり検討できる環境を提供できると考えた。
―なぜ規格住宅が最適なのですか。
一次取得者であるミレニアル世代(2000年以降に社会人になった世代)の価値観などに合うからだ。彼らは家を買う際に労力をかけたくないと考えているし、将来の蓄えや余暇を楽しむことなど家以外にお金をかけたい傾向がある。また、家族構成はほとんど3―4人ということを考えれば、間取りもそこまで自由度は高くなく、変化が生まれるのはデザインなどだ。それならば(労力が必要で割高になりやすい)自由設計ではなくデザイン性を組み込んだ(いろいろと選択しながら決められる)規格住宅こそ求められる。設計者の能力に品質が依存することもない。一方、(デジタル技術を活用した)規格住宅の提案は事業者にとってのメリットもある。
―事業者のメリットとは。
顧客との打ち合わせを大幅に圧縮できることだ。長年住宅業界に携わっているが、自由設計のビジネスが非常に疲弊していると感じる。設計に関わる顧客との打ち合わせは10―20回程度を数えるなど手間暇がかかるからだ。ジブンハウスでは平均3回の面談で決まる。(人口減少などを背景に)住宅市場が成熟期に入る中で、打ち合わせの効率化は事業継続性の観点でも大きい。
―住宅は高価な買い物です。スマホ上ではなく展示場などリアルの場所でじっくり考えたい人も多いのではないですか。
そうした考えは薄くなってきていると思う。共働き世帯は住宅展示場に行くことが手間だと考えるし、(住宅展示場などで)営業マンに会うのは(後々断る可能性を考えると)嫌という声もある。それに住宅展示場は非常にお金をかけた作りになっており、顧客の予算とかけ離れていて本当の参考にはならない。完成見学会で内見できる住宅だってあくまで人様のものだ。ただ、素材の肌触りや空気感などは体感したい需要はある。その点でリアルな場所は重要だろう。
―バーチャル住宅展示場「マイホームマーケット」について、ハウスメーカー大手の旭化成ホームズが4月に導入しました。
(我々が考える)VRを活用した新しい家の売り方・買い方の仕組みに大手メーカーが参加してきたことに大きな手応えを感じている。他のメーカー大手からも高い関心が寄せられており、今年は「規格住宅元年」になるのではないかと予想している。
―東京大学生産技術研究所などと18年11月に土地探しや内覧を支援するスマホアプリ「AiR(エアー)」を開発しました。
AiRは顧客の嗜好や家族構成などに合った場所の土地や、その土地の条件を踏まえた住宅の構造や間取りを人工知能(AI)が提案する。現地でスマホをかざすとAR(拡張現実)技術で完成した住宅の外観や窓からの眺めなどを確かめられる。住宅会社へOEM(相手先ブランド)での提供を検討している。
一方、現状は提案できる土地情報が限られている。このため今後は不動産会社が店頭などに貼っている土地の価格や形状などをまとめた「マイソク」を顧客がスマホで撮影するだけでアプリが土地情報を取り込み、現地でその土地条件に則した住宅をARで確認できる仕組みなどを整えたい。
―ほかに「スマホで家を買う」を一般化するために今後展開したい仕組みはありますか。
VRで表現した居住空間において家具やインテリアを自由に変えながらそれに応じて見積もり価格を表示するシステムを20年2月をめどに展開する。日射条件を朝や夜に変えられるようにして照明器具の光加減も確認できる仕組みも整備し、顧客が住宅(という箱)だけでなくインテリアなどを含めた居住空間の購入をスマホで検討できる体制を整えたい。
ジブンハウスは2-4日に米サンフランシスコで開かれたIT関連のイベント「Disrupt SF 2019」に出展した。その手応えと今後の米国進出の展望を現地に行った内堀雄平専務取締役に追加で聞いた。
―現地の反響はいかがでしたか。
米国のデベロッパーなどに我々のVR技術に関心を持ってもらい、手応えはかなり大きい。実際に複数社とウェブでのミーティングを重ねている。
―今後の米国進出の展望は。
VRによる営業支援ツールを提供する形で米国進出したい。一方、欧米の住宅市場はリノベーションが盛んだ。家具メーカー向けにVR空間のショールームを作るサービスも可能性があると考えている。
【01】子育て世帯もシニアも選ぶ…「平屋ブーム」は本物か(10・15公開)
【02】定額住み放題が人気…「旅するように暮らす」は広がるか(10・16公開)
【03】スマホで賃貸「OYO」は常識をどう打ち破るか(10・16公開)
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【05】IoTなんて誰もいらへんけど…元吉本芸人「住宅版iPhone」に挑む(10・18公開)
【06】マンション住人のスキルや時間「アプリでシェア」は機能するか(10・19公開)
【07】楽天も注目「スマホで家を買う時代」が到来する根拠(10・20公開)
【08】ロスジェネ救う切り札か、大阪発「住宅つき就職支援」の光明(10・21公開)
※2楽天のECサイト「楽天市場」は16日に「住宅・不動産ジャンル」を新設し、住宅・不動産の購入申込みを可能にした。現在、マイホームマーケットなど2社が出店している。>
家にお金も労力もかけたくない世代
―VRなどを活用したシステムを構築した経緯を教えてください。
住宅市場の7割以上を占める一次取得者層の需要をつかむには規格住宅の提案が最適と考えたことが根本にある。(一定の枠組み内で変化する)規格住宅であればVRを駆使することにより、インターネット上で顧客にわかりやすく居住空間のイメージを伝えられる。(選んだ内装や設備などに応じて価格が変動する)見積もりシミュレーションシステムも整備することで、金額の見える化もできる。夫婦などがスマホを操作しながら自宅でじっくり検討できる環境を提供できると考えた。
―なぜ規格住宅が最適なのですか。
一次取得者であるミレニアル世代(2000年以降に社会人になった世代)の価値観などに合うからだ。彼らは家を買う際に労力をかけたくないと考えているし、将来の蓄えや余暇を楽しむことなど家以外にお金をかけたい傾向がある。また、家族構成はほとんど3―4人ということを考えれば、間取りもそこまで自由度は高くなく、変化が生まれるのはデザインなどだ。それならば(労力が必要で割高になりやすい)自由設計ではなくデザイン性を組み込んだ(いろいろと選択しながら決められる)規格住宅こそ求められる。設計者の能力に品質が依存することもない。一方、(デジタル技術を活用した)規格住宅の提案は事業者にとってのメリットもある。
●ジブンハウスは住宅FC・VC事業などを通じてこれまで30―40代を中心に300棟以上を販売した。「スマホ一つで家を買う」というコンセプトなどが忙しくて住宅展示場に足を運ぶ時間が取れない働き盛りや子育て世代などの支持を集めたという。
―事業者のメリットとは。
顧客との打ち合わせを大幅に圧縮できることだ。長年住宅業界に携わっているが、自由設計のビジネスが非常に疲弊していると感じる。設計に関わる顧客との打ち合わせは10―20回程度を数えるなど手間暇がかかるからだ。ジブンハウスでは平均3回の面談で決まる。(人口減少などを背景に)住宅市場が成熟期に入る中で、打ち合わせの効率化は事業継続性の観点でも大きい。
―住宅は高価な買い物です。スマホ上ではなく展示場などリアルの場所でじっくり考えたい人も多いのではないですか。
そうした考えは薄くなってきていると思う。共働き世帯は住宅展示場に行くことが手間だと考えるし、(住宅展示場などで)営業マンに会うのは(後々断る可能性を考えると)嫌という声もある。それに住宅展示場は非常にお金をかけた作りになっており、顧客の予算とかけ離れていて本当の参考にはならない。完成見学会で内見できる住宅だってあくまで人様のものだ。ただ、素材の肌触りや空気感などは体感したい需要はある。その点でリアルな場所は重要だろう。
「規格住宅元年」になる
―バーチャル住宅展示場「マイホームマーケット」について、ハウスメーカー大手の旭化成ホームズが4月に導入しました。
(我々が考える)VRを活用した新しい家の売り方・買い方の仕組みに大手メーカーが参加してきたことに大きな手応えを感じている。他のメーカー大手からも高い関心が寄せられており、今年は「規格住宅元年」になるのではないかと予想している。
―東京大学生産技術研究所などと18年11月に土地探しや内覧を支援するスマホアプリ「AiR(エアー)」を開発しました。
AiRは顧客の嗜好や家族構成などに合った場所の土地や、その土地の条件を踏まえた住宅の構造や間取りを人工知能(AI)が提案する。現地でスマホをかざすとAR(拡張現実)技術で完成した住宅の外観や窓からの眺めなどを確かめられる。住宅会社へOEM(相手先ブランド)での提供を検討している。
一方、現状は提案できる土地情報が限られている。このため今後は不動産会社が店頭などに貼っている土地の価格や形状などをまとめた「マイソク」を顧客がスマホで撮影するだけでアプリが土地情報を取り込み、現地でその土地条件に則した住宅をARで確認できる仕組みなどを整えたい。
―ほかに「スマホで家を買う」を一般化するために今後展開したい仕組みはありますか。
VRで表現した居住空間において家具やインテリアを自由に変えながらそれに応じて見積もり価格を表示するシステムを20年2月をめどに展開する。日射条件を朝や夜に変えられるようにして照明器具の光加減も確認できる仕組みも整備し、顧客が住宅(という箱)だけでなくインテリアなどを含めた居住空間の購入をスマホで検討できる体制を整えたい。
米国進出へ
ジブンハウスは2-4日に米サンフランシスコで開かれたIT関連のイベント「Disrupt SF 2019」に出展した。その手応えと今後の米国進出の展望を現地に行った内堀雄平専務取締役に追加で聞いた。
―現地の反響はいかがでしたか。
米国のデベロッパーなどに我々のVR技術に関心を持ってもらい、手応えはかなり大きい。実際に複数社とウェブでのミーティングを重ねている。
―今後の米国進出の展望は。
VRによる営業支援ツールを提供する形で米国進出したい。一方、欧米の住宅市場はリノベーションが盛んだ。家具メーカー向けにVR空間のショールームを作るサービスも可能性があると考えている。
連載・住まいが変わる(全8回)
【01】子育て世帯もシニアも選ぶ…「平屋ブーム」は本物か(10・15公開)
【02】定額住み放題が人気…「旅するように暮らす」は広がるか(10・16公開)
【03】スマホで賃貸「OYO」は常識をどう打ち破るか(10・16公開)
【04】【坂村健】「AIと同居」「HaaS」…近未来の住宅はこれだ(10・17公開)
【05】IoTなんて誰もいらへんけど…元吉本芸人「住宅版iPhone」に挑む(10・18公開)
【06】マンション住人のスキルや時間「アプリでシェア」は機能するか(10・19公開)
【07】楽天も注目「スマホで家を買う時代」が到来する根拠(10・20公開)
【08】ロスジェネ救う切り札か、大阪発「住宅つき就職支援」の光明(10・21公開)
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住生活の方法や住宅の選び方が多様化しています。生活者の価値観や社会環境の変化、テクノロジーの進化などにより住宅市場でいろいろな動きが表出しています。その現場の数々を連載で追いました。