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「量子アニーリングマシンでアプリ開発」の先駆者になったリクルートの狙い

連載・次世代計算機「量子アニーリング」の進展(4)
 リクルートコミュニケーションズ(東京都中央区)は、量子アニーリングマシンを活用したアプリケーション(応用ソフト)開発では先駆者。2016年には日本企業で初めて、カナダのDウエーブ・システムズと共同研究を始めた。その成果として「組合せ最適化問題」などの現実課題を数式化すれば、簡単にイジングモデルに変換できるツール「PyQUBO(パイキューボ)」を独自開発し、18年にオープンソース化した。

 「パイキューボで数式を記述すれば、ゼロと1のビット情報に基づく『論理イジングモデル』に自動的に変換される。物理の専門知識がなくても、統計学を知るエンジニアであれば簡単に扱える」。パイキューボの生みの親、リクルートコミュニケーションズの棚橋耕太郎リードエンジニアはその利点を強調する。

 パイキューボはDウエーブの公式開発ツールにも入っているが、論理イジングモデルはハードウエアに依存せず、他のどのイジングマシンでも使える。

 同社の強みは「実ビジネスにより近いところで検証できること」(棚橋氏)。実証実験ではDウエーブのマシンを使って、グループ会社が運営する旅行サイト「じゃらんnet」で提供するウェブ情報のレコメンデーション(推奨)の最適化に挑んだ。

 じゃらんnetでは、サイトの上位に表示された人気度の高い宿泊施設がクリックされやすい。だが「従来手法では似た宿泊施設が固まりやすく、レコメンデーションに多様性をどう入れ込むかが課題だった」(同)。

 そこで「人気度と多様性を両立させつつ、成約率を高めて全体の売上高を上げる」ことを「組合せ最適化問題」として設定。大規模な問題を解くための分割手法も開発し、全結合で64ビット対応の環境で8―24個(宿)のアイテムの並べ替えを最適化し、いずれも「いい結果を得た」(同)という。

インタビュー/リクルートコミュニケーションズICTソリューション局・棚橋耕太郎リードエンジニア 解けない問題解ける


―パイキューボをなぜオープンソース化したのですか。
「コードを公開すること自体は当社のビジネスではない。オープンソース化により、開発者のコミュニティーを活性化させ、世の中の利便性を上げるのが目的だ。イジングモデルで解ける組合せ最適化問題は世の中にたくさんあり、パイキューボの利用は海外にも広がっている」

―じゃらんnetでの実証実験の成果を踏まえ、次の展開は。
「多様性を加味したレコメンデーションで、よい成果が得られることが分かった。一覧で表示するサービスならば他にも使える。だが、システムの定常運用に向けた可用性の課題などもあり、次にどうするかは決まっていない。横展開よりもデジタルマーケティングなどでも試したい」

―レコメンデーションの最適化にこだわる理由は。
「適用するサービスによっては近似解でよいこともある。だが情報のボリュームが増え続ける中で、適切な情報に出合うことは大変。近似解だと、多様な情報をマッチングする際に最適解からだんだん遠くなる。イジングモデルを使えば解けない問題が解ける。これを踏まえて、より効果的なビジネスを考えたい」

―実用化の時期は。
「期待値としては2―5年くらいをみている。同時に、フィットするアプリを探すことが重要だ」(文=編集委員・斎藤実)

棚橋耕太郎氏


連載・次世代計算機「量子アニーリング」の進展(全5回)


【01】量子コンピューティングは日本が世界をリードできる分野だ(2019年7月2日配信)
【02】量子コンピューティング「イジングマシン」が解決する課題(2019年7月3日配信)
【03】量子コンピューティング、早大が開発する「共通ソフトウェア基盤」の役割(2019年7月4日配信)
【04】「量子アニーリングマシンでアプリ開発」の先駆者になったリクルートの狙い(2019年7月5日配信)
日刊工業新聞2019年7月3日

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