量子コンピューターでIBM・Googleを追走できる日本企業はどこだ?
量子コンピューター開発をめぐるITベンダー各社のつば競り合いが熱気を帯びてきた。量子コンピューターは汎用的な量子計算を行う万能型のゲート方式と、組み合わせ最適化問題に特化したイジングモデル方式に大別される。技術的なアプローチはいろいろあり、各方式とも群雄割拠の様相。カギとなるのは目指すゴールと実用化への時間軸。これをどう見据えているか。各社各様の取り組みが注目される。
半導体の微細化技術の限界が見てきた中で、量子コンピューターは従来型のコンピューターの性能をはるかに超える膨大で高速な計算が可能な革新技術として注目される。IT業界では年明けから“量子”という言葉が飛び交い、新たなブームに色めき立っている。
一番手を切ったのは米IBM。米ラスベガスで開催された家電・IT見本市「CES」の講演で、ジニー・ロメッティ最高経営責任者(CEO)が商用量子コンピューターの進化について語り、商用機の最新版「IBM Qシステムワン」を披露した。
量子ゲート方式の開発競争はIBMとグーグルが火花を散らしている。IBMは今回、量子マシンの使い勝手を良くする周辺技術や工業デザインでも一日の長をみせ、コンピューターメーカーとしての総合力をアピールした。
国内勢が力を注ぐのはイジングモデル方式。デジタル回路を心臓部とする専用機で挑むのは富士通と日立製作所。1月半ばには富士通が世界最大級の技術者コミュニティー「トップコーダー」の登録者を対象に、量子現象に着想を得た新しいアーキテクチャー「デジタルアニーラ」で組み合わせ最適化問題を解くコンテストを開催することを発表した。
NECは2023年頃をめどに量子アニーリングマシンを開発する。「ノイズ耐性に優れ、量子重ね合わせ時間が長い超伝導パラメトロン素子」(中村祐一NEC中央研究所理事)で差別化を図る。同社の研究チームは産業技術総合研究所と連携し、3月に立ち上がる産総研の「量子活用テクノロジー連携研究室」に合流する。
NTTデータはソリューションベンダーとしての立ち位置から、活用支援に照準を合わせる。1月下旬に量子アニーリング方式のビジネス利用の検証や評価を行う「量子コンピュータ/次世代アーキテクチャ・ラボ」の開設を発表した。
同ラボは現時点でD―WAVEの「D―Wave2000Q」、日立製作所の「CMOSアニーリングマシン」、富士通の「デジタルアニーラ」、NTTの「LASOLV」の検証が可能。数理最適化の分野ではインドのディープテックとアルゴアナリティクスと連携。IBMとも協力する。
相次ぐ発表で、遠い先と見ていた量子計算時代への歩みが早まったと思われがちだが、量子計算の王道ともいえるゲート方式でいえば「まだ宝探しをしているような状況」(量子の研究者)だ。量子という言葉をどういう意味合いで使っているのかを吟味しないと本質が見えてこない。
IBM Qシステムワンは、発表資料では「汎用近似量子コンピューティング統合システム」と記している。「量子状態は壊れやすく、量子ビットによるゲート状態を長く保つのは難しい」(小野寺民也日本IBM東京基礎研究所副所長)。
IBMが見据えるゴールとは、システムの一部に問題が生じても全体が機能停止せずに動作し続けるフォールトレラントな耐性を備え、かつ汎用的に使える万能型マシン。
現状の技術レベルはまだ遠く、「近似」と名乗っているわけだ。ただ、近似レベルであっても、50量子―100量子ビット級になると、キラーアプリケーション(魅力ある応用ソフト)を見つければブレークスルーする。その時期は早ければ21―23年頃との見方もある。
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ITメガドレンドの新局面を見逃すな
政府は国全体で量子技術に取り組む「量子技術イノベーション戦略(仮称)」を策定する。今後10年の方向性を定める。内閣府への取材で明らかになった。大学や企業などの関係者で構成する研究開発拠点の創設、量子コンピューターや量子暗号などの重点技術領域などを示す。5―6月に戦略の骨子をまとめ、2019―20年度の科学技術政策の基本方針「統合イノベーション戦略」の改定に反映させる。12月に最終取りまとめを行う。
2月中旬にも統合イノベーション戦略推進会議(議長=菅義偉官房長官)の下に、各府省関係者などからなる特別作業班と産学メンバーによる有識者会議を設置し検討を始める。
戦略の基本的な方向性として五つの柱を設定。その中の技術開発については、量子コンピューターなどの量子情報処理や量子計測・センシング、量子通信・暗号などの重点技術領域に対し、その中で投資対象となる分野を検討し絞り込む。人材育成については、国内外の優秀な若手研究者や技術者の育成・確保、高校の教育段階での理工系人材の育成強化などを挙げた。
量子技術は社会課題を解決し、将来の産業競争力につながると期待されている。量子コンピューターによる物流コストの最適化や量子技術を利用した高感度センサーによるがんの転移の早期診断、絶対に破られない量子暗号技術による通信セキュリティーの安全・安心の確保などの用途が期待されている。
近年、米欧中を中心とする海外勢は社会に変革をもたらす技術として量子技術を位置付け、1000億円を超える規模のプロジェクトが進んでいる。
日本ではスマート社会の実現に向け18年度から量子技術の研究開発を各府省が本格的に進めているが、国全体を俯瞰(ふかん)した量子技術戦略は未策定だった。
半導体の微細化技術の限界が見てきた中で、量子コンピューターは従来型のコンピューターの性能をはるかに超える膨大で高速な計算が可能な革新技術として注目される。IT業界では年明けから“量子”という言葉が飛び交い、新たなブームに色めき立っている。
一番手を切ったのは米IBM。米ラスベガスで開催された家電・IT見本市「CES」の講演で、ジニー・ロメッティ最高経営責任者(CEO)が商用量子コンピューターの進化について語り、商用機の最新版「IBM Qシステムワン」を披露した。
量子ゲート方式の開発競争はIBMとグーグルが火花を散らしている。IBMは今回、量子マシンの使い勝手を良くする周辺技術や工業デザインでも一日の長をみせ、コンピューターメーカーとしての総合力をアピールした。
国内勢が力を注ぐのはイジングモデル方式。デジタル回路を心臓部とする専用機で挑むのは富士通と日立製作所。1月半ばには富士通が世界最大級の技術者コミュニティー「トップコーダー」の登録者を対象に、量子現象に着想を得た新しいアーキテクチャー「デジタルアニーラ」で組み合わせ最適化問題を解くコンテストを開催することを発表した。
NECは2023年頃をめどに量子アニーリングマシンを開発する。「ノイズ耐性に優れ、量子重ね合わせ時間が長い超伝導パラメトロン素子」(中村祐一NEC中央研究所理事)で差別化を図る。同社の研究チームは産業技術総合研究所と連携し、3月に立ち上がる産総研の「量子活用テクノロジー連携研究室」に合流する。
NTTデータはソリューションベンダーとしての立ち位置から、活用支援に照準を合わせる。1月下旬に量子アニーリング方式のビジネス利用の検証や評価を行う「量子コンピュータ/次世代アーキテクチャ・ラボ」の開設を発表した。
同ラボは現時点でD―WAVEの「D―Wave2000Q」、日立製作所の「CMOSアニーリングマシン」、富士通の「デジタルアニーラ」、NTTの「LASOLV」の検証が可能。数理最適化の分野ではインドのディープテックとアルゴアナリティクスと連携。IBMとも協力する。
相次ぐ発表で、遠い先と見ていた量子計算時代への歩みが早まったと思われがちだが、量子計算の王道ともいえるゲート方式でいえば「まだ宝探しをしているような状況」(量子の研究者)だ。量子という言葉をどういう意味合いで使っているのかを吟味しないと本質が見えてこない。
IBM Qシステムワンは、発表資料では「汎用近似量子コンピューティング統合システム」と記している。「量子状態は壊れやすく、量子ビットによるゲート状態を長く保つのは難しい」(小野寺民也日本IBM東京基礎研究所副所長)。
IBMが見据えるゴールとは、システムの一部に問題が生じても全体が機能停止せずに動作し続けるフォールトレラントな耐性を備え、かつ汎用的に使える万能型マシン。
現状の技術レベルはまだ遠く、「近似」と名乗っているわけだ。ただ、近似レベルであっても、50量子―100量子ビット級になると、キラーアプリケーション(魅力ある応用ソフト)を見つければブレークスルーする。その時期は早ければ21―23年頃との見方もある。
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2月中旬にも統合イノベーション戦略推進会議(議長=菅義偉官房長官)の下に、各府省関係者などからなる特別作業班と産学メンバーによる有識者会議を設置し検討を始める。
戦略の基本的な方向性として五つの柱を設定。その中の技術開発については、量子コンピューターなどの量子情報処理や量子計測・センシング、量子通信・暗号などの重点技術領域に対し、その中で投資対象となる分野を検討し絞り込む。人材育成については、国内外の優秀な若手研究者や技術者の育成・確保、高校の教育段階での理工系人材の育成強化などを挙げた。
量子技術は社会課題を解決し、将来の産業競争力につながると期待されている。量子コンピューターによる物流コストの最適化や量子技術を利用した高感度センサーによるがんの転移の早期診断、絶対に破られない量子暗号技術による通信セキュリティーの安全・安心の確保などの用途が期待されている。
近年、米欧中を中心とする海外勢は社会に変革をもたらす技術として量子技術を位置付け、1000億円を超える規模のプロジェクトが進んでいる。
日本ではスマート社会の実現に向け18年度から量子技術の研究開発を各府省が本格的に進めているが、国全体を俯瞰(ふかん)した量子技術戦略は未策定だった。
日刊工業新聞2019年2月4/5日