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【藤野英人×齊藤義明】2代目、3代目よ、イノベーションを起こせ!

仕事とは、顧客と自分の会社と自分自身の価値改善運動
【藤野英人×齊藤義明】2代目、3代目よ、イノベーションを起こせ!

藤野さん(左)と齊藤さん


 ―地方創生でも人材不足がよく指摘されますが。
 齊藤 僕らのチームは地方創生のためのイノベーション・プログラムに取り組んでいるのですが、今の日本の地方創生はドーナツみたいだとよく言っています。つまり、外側の支援制度や提言みたいなものは数多いけど、真ん中で自らリスクをとって小さくとも何かを始めてみる人が薄かったり空洞化していると。たとえば多くの地方銀行は地方創生のためのファンドを作りましたが、「金は用意したけど、(新しい事業の種となる)タマがない」と言われます。一緒にタマを作りこみにいく当事者意識はあまりない。

 藤野 「タマ」。それ、嫌いな言葉だなあ。「自分が見る目ないだけだろう」と言いたくなる。

 齊藤 創業支援制度も強化されてきていますが、これを利用して地方で起業している第一位は飲食業、第二位は美容室。これは単純新陳代謝であり、新しい業態や働き方が出てきているわけではない。行政は有識者を集めて地方創生プランを作りましたが、有識者というのはあくまでオピニオンリーダーであり、自らリスクを賭して何かをやってみる人たちではない。必要なのは、真ん中で自らリスクをとり、オーナーシップをとって何かをやろうという人たちです。この真ん中を作り込むために一緒に中に入ってプロデュースしていこうというのが、われわれが進めているイノベーション・プログラムです。イノベーションというのは尖っているし、新しいし、小さいし、得体が知れない。だから最初は無視され、そして鼻で笑われ、次に攻撃される。そういう宿命にある。だから、どんなに笑われても、叩かれても、なんとかして粘り強くやり抜くことが一番大事になります。プログラムの参加メンバーが途中で諦めたり、逃げたりしないように、深い対話やモチベーションを重視しています。時には、新事業や新会社を立ち上げるんだよね、そう言ったよねと追い込むことさえあります。ファシリテーションサイドも緊張感も持ちながらやっています。
「イノベーションは尖っているし、新しいし、小さいし、得体が知れない」(齊藤さん)

成功するかどうかに十分条件はない


 藤野 私自身の会社では運用部のメンバーに対してあまり追い込まないスタイルです。あまり仕込むと「ミニ藤野」ばかりができてしまう。だから何も教えない。相手が学ぶことができる環境をどれだけ提供できるのかを考える。齊藤さんと似ているのは、一緒になってウロウロするところ。こいつはダメだということはすぐ分かるが、良いところを理解するのは時間がかかる。ダメな奴というのは、いつも嘘をつく、努力しない、真面目じゃないとか。彼らは時間が敵になる。時間がたてばたつほど淘汰されていく。ところが成功するかどうかというと、必要条件はあるが十分条件がない。これをすれば成功という答えはない。そもそも大きな成功にはイノベーションが必要ですが、それは理解できないもの。言葉で説明されて一発で分かるようなものはイノベーションじゃない。

 齊藤 ところで、リンダ・グラットンの『ライフ・シフト』という本が出ましたよね。先進国では今年生まれた子の半分以上が100歳以上生きるという。そうなると事業承継のあり方とか、企業の形とかも変わると思われますか?

 藤野 上場企業の社長の年代別の株価のパフォーマンスを作ったことがあるんですよ。これが面白いんです。結果は若いほど良い。30代、40代が良くて、そして50代、60代、70代と下がっていく。ただ80代以上の大企業経営者を抽出してみるとパフォーマンスが良いというデータもあるんですよ。それだけすごい人だからこそ社長として生き残っているというサバイバーエフェクトがあるのではないかと思います。体力も運も、いろんなパワーがある人が生き残っている。これで思い出したのは、私にベンチャーキャピタルの基本を教え込んでくれた方の話。その方が40代、50代の時、そろそろ自分がリーダーシップをとらないといけないと考え前に出て行ったら、先輩に止められたそうなんです。先輩が先である、順番だから我慢しなさいと言われた。そして70歳になったら、やっぱり先輩は皆元気だったというんです。だからやりたいと思ったら奪取しろと。100年時代では、待つのではなく世代間で適切な競争をすればいい。80歳で上手くできるのであれば代わる必要はない。30代、40代、50代でも、俺の方ができるというのであれば、奪取すればいい。だから大塚家具の場合も、親子げんかが良くないという話ではなく、世代の違う経営者が株主を巻き込んでどちらがベターかを世に問うたわけで、あれがライフ・シフトの一つの形。

イノベーションに年齢は関係ない


 齊藤 面白いですね。経営者の最適年齢の概念が変わってきているように思います。必ずしも20代、30代だけが若手ではない。よく7掛けと言いますが、今では60代でも若い。大企業で一律に役職定年とするのは結構な損失だと思う。先日、70代になってもイノベーティブな経営を続けている方とお話しする機会があったんですが、イノベーションと年齢は関係ないよと言われたんですよ。スケベはいつまでたってもスケベだよって。

 藤野 確かに北斎の晩年の作品を見ても、瑞々しくて、まるで20代が描いたように見えます。老人が描いたとは思えない。

 ―藤野さんは、頭は良いけど勝負感が悪いという人が増えていると指摘されてますが。
 藤野 大手スーパーやコンビニが増えて商店街が寂れたデメリットの一つに、商売の現場を知らない人が増えたことがあります。商売をしている家では、子どものころから景気の波で夕飯のおかずも変わってしまうというようなことを経験する。そんなところから商売の感覚が養われる。そして商店街の中から価格交渉も減ってしまった。「サザエさん」を、昔の漫画の方ですが、読むと、10回のうち1回は買い物で値引き交渉を間違えたなんていうネタですよ。それが売り手も買い手もすっかりサラリーマン化が進んでしまった。それが日本の根っこの経済力を削いでいるのではないでしょうか。

 齊藤 沖縄のプロジェクトで参加メンバーに美容師が一人入っている。沖縄で初めてヘアカットで1万5000円(の料金)をとった男なんですよ。普通、沖縄では1万円も取れないのが常識でした。彼は、従業員たちに、美容しか知らない美容師になるなと教育しています。それだと1万5000円は取れない。もっと広い世界観、スキルを持っているからこそ、そのゾーンに入っていける。

“トラリーマン”がカギ


 藤野 実は今、本を書いています。日本には三つの虎が必要だという話で、一つ目がベンチャーの虎、二つ目が地方におけるヤンキーの虎。そして三つ目がサラリーマンの虎。実はこの三つ目の虎、いわゆる“トラリーマン”をもっと増やさなければいけないという問題意識を持っている。サラリーマンという枠の中でも、社内の常識と違う形で挑戦している人がトラリーマンなんです。経験を積んでベンチャー企業を興すのも良いし、社内でやり切るのも良い。こういう人たちをどう活性化するかが今後の日本のカギかな。トラリーマンには条件がいくつかあって、今説明したトラリーマンとしての仕事をしていることに加え、かつてどこかで尊敬される結果を一度は出している。そして3番目が結構重要なことなのですが、常務、専務、社長クラスの中に庇護者がいる。

 齊藤 わかる気がします。あとトラリーマンって、社内の常識とは違った新しいことを仕掛けているから、風当たりも強いので、そんな逆風が吹いたときでも何とかプロジェクトを潰されずに生き残るための技が必要ですよね。いわゆるリーダーシップよりもサバイバーシップが大事な気がしています。
齊藤さんと藤野さん

【略歴】
●レオス・キャピタルワークス社長
藤野 英人(ふじの・ひでと)
野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディンフレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て2003年レオス・キャピタルワークス創業。CIO(最高投資責任者)に就任。2009年取締役就任後、2015年10月より現職。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。東証アカデミーフェロー。
●野村総合研究所未来創発センター2030年研究室長
齊藤 義明(さいとう・よしあき) 
1988年野村総合研究所入社。NRIアメリカ ワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、現職。政策や企業経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。近著に『日本の革新者たち』がある。
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
停滞する地方では、人材もいなければ市場もない、そして最新の情報も入ってこない、なんて最初から諦めがち。元気のない中小企業も同じかもしれません。しかし、たった一人の“虎”が状況を一変することは少なくないのではないでしょうか。企業経営は「ヒト、モノ、カネ」なんて言いますが、やはり重要なのは徹頭徹尾、ヒト。そのヒトが変わらなければ何も始まりません。なかなかトラリーマンに脱皮できてはいませんが・・・

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