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「大トヨタ」によって、マツダが大切に守ってきた軸はブレないか

シナジーを生む半面、企業文化を変えてしまうリスクも
「大トヨタ」によって、マツダが大切に守ってきた軸はブレないか

会見する豊田章男トヨタ自動車社長(左)、小飼雅道マツダ社長

 トヨタ自動車マツダが、資本提携を含む提携強化に踏み切った。「自主独立を尊重し、お互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら持続性を持って協力関係を構築する」。東京都内で会見したトヨタの豊田章男社長は、今回の資本提携について、“対等な立場”を強調した。マツダの小飼雅道社長も「中長期的で継続的な提携に持っていく必要があると判断した」と語った。トヨタの寺師茂樹副社長は「かなり本気で、一緒に将来にむけてビジネスをやる決意。その一つの証しとして資本を持ち合う」と説明する。

 両社提携の“目玉”が米国新工場だ。トヨタは小型車「カローラ」を生産し、従来はカローラを作るとしてきた19年稼働のメキシコ新工場は、ピックアップトラック「タコマ」の生産に切り替える。マツダは北米に新投入するクロスオーバー車を生産する。雇用は4000人規模となる。

 生産ラインは2本設け、それぞれがそれぞれの車を作る。両社が共同開発するEVの生産も「ある時期に来れば検討する可能性がある」(豊田社長)。

 両社はEVの共同開発にも取り組む。EVの車台(プラットフォーム)は、「軽から小型トラックまで一挙にアプリケーション(応用展開)できるものを一括企画しようと思う」(寺師副社長)。

 この“一括企画”がキーワードだ。マツダが現行自動車技術「スカイアクティブ」搭載車の開発で取った手法。複数のクラスにまたがる車種群をあらかじめまとめて企画して、車種ごとに変える部品と共通する部品を効率的に切り分け、設計する。複数車種を一つのラインに流す混流生産も容易になる。

 トヨタは昨年12月に「EV事業企画室」を設置し、EVの事業化に本腰を入れる体制を取った。今後は「両社の混成チームを結成して開発に当たる。

 EV事業企画室で進めてきたことを融合する」(豊田社長)という。EVに関して、両社は共同開発を明言した。その成否は両社の協業体制の成否そのものになるといっていい。

 マツダからの視点でもう少し今回の資本提携を考えてみたい。まずはEVの共同開発。以前から小飼社長は「独自でEVの開発を進めていく。

 ただ技術開発で協調できる部分があればトヨタと一緒にやっていきたい」としていた。世界的な環境規制強化によるEVシフトが加速する中で、規模のメリット追求が欠かせないと判断したのだろう。

 今回の一番の目玉である米国の共同工場。フォードと提携解消後、マツダにとって米国の生産体制は課題だっただけに、トヨタの「カイゼン」とマツダの「モノ造り革新」がうまく共有できればよいシナジーを生むだろう。

 ただ車台の共通化や共同工場は一部であっても、マツダ規模の自動車メーカーにとっては、企業文化を変えてしまうリスクもある。

 自動車ジャーナリストの第一人者、フェルディナント・ヤマグチ氏の著書『仕事がうまくいく7つの鉄則』でマツダが成功要因が指摘されている。

(1)「小さいことを恥じない」
(2)「ライバルすらも褒めまくる」
(3)「ブレない価値の基準を持つ」
(4)「相手が喜ぶことを常に優先する」
(5)「ほかの真似を決してしない」
(6)「熱意だけではダメ。交換条件を必ず用意する」
(7)「世の中の流れに簡単に乗らない」。

 今後数年間は、まさに足場固めの時期でもある。次世代のスカイアクティブはより技術難易度が高くコストの壁もある。ただ、マツダの場合、自らの「軸」や方向性が「独りよがり」にならないように、既存の顧客を言わば“モニター”のように捉えている。

 同社の価値観と方向性に共感しているであろう既存の顧客が満足することを基準にして開発・生産を進め、市場に投入して反応を見る。そしてその結果を前提としてさらなる開発や改善を行う。そうすれば、軸をブラさないまま少しずつ新しい挑戦をしていくことができる。

 この軸をブラさずトヨタとより踏みこんだ提携の果実を得ることは、簡単なことではない。
日刊工業新聞2017年8月7日の記事に加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
マツダにとってスピード感が失わなければいいが…。

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