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原発燃料デブリ捉えた水中ロボット、廃炉に向けた進化の可能性

全国から具体的な知恵と技術を集める段階へ
原発燃料デブリ捉えた水中ロボット、廃炉に向けた進化の可能性

燃料デブリ調査ロボット(日刊工業新聞動画ニュースより)

 東京電力は福島第一原子力発電所3号機の格納容器内部を調査し、核燃料などの溶融物が冷えて固まった「燃料デブリ」と見られる塊の撮影に成功した。最も不安視されていた水中ロボットが原発事故の核心を初めて捉えることに成功した。燃料デブリの取り出し工法を決めるための重要な知見になる。

 東電原子力・立地本部の木元崇宏部長代理は、「困難な調査に対し、機体は小さい。大丈夫かと心配していたが、やってくれた。我々から大々的に成功とは言えないが、廃炉に向けた大きな一歩だ」と目を細める。

 3号機は格納容器内が約6メートルの高さまで水没しているため、水中を進めるロボットを採用した。圧力容器を支える円筒状架台(ペデスタル)の中に進入し、燃料デブリの撮影がミッションだ。

有線操作クリア


 東芝と技術研究組合「国際廃炉研究開発機構」(IRID)が調査法や機体を設計。有線操作の「ミニマンボウ型ロボ」を開発した。

 ミニマンボウへの懸念は操縦用のケーブルが障害物にひっかかり、動けなくなることだ。ペデスタルの入り口が、がれきなどでふさがっている可能性もあり、燃料デブリが落ちているとみられるペデスタルの地階にたどり着くまでケーブルを引っかけないか心配されていた。

 調査の結果、地階の中央で岩状の固形物が広く積み重なっているのを確認。また、ペデスタルのへりでは砂状や小石状の固形物、形状を留めたまま落下した格子状床(グレーチング)などを視認できた。

 大きな塊は中央に残り、小さな塊は冷却水に流されて外側に移動していると考えられる。今後、中央の塊の高さや大きさから溶融時の粘度や温度、層状に重なった層数から溶け落ちた回数などをそれぞれ分析する。

 また圧力容器の下では構造物に溶けて垂れ下がった固形物も発見。ペデスタル地階の作業員用の開口部は、堆積物や構造物で近づけなかった。

 開口部から溶融物がペデスタルの外に広がっている可能性は高い。開口部の高さは約2メートルでペデスタルの直径は5・4メートル。堆積物の高さを2メートルと仮定すると、約46立方メートルの堆積物や構造物が存在することになる。
ミニマンボウ型水中調査ロボ

取り出し法探る


 デブリは格納容器底部のコンクリートを溶かして一体になりながら沈んでいったとシミュレーションされている。底の上に数十立方メートルの堆積物があるならばコンクリートへの溶け込みは想定よりも少ないかもしれない。

 撮影した映像は画像処理で鮮明にし、格納容器の3Dモデルと照合し、損傷分布図を作る。情報を元に9月に国と東電はデブリ取り出し方針を決める。

 今回デブリへのアクセスルートや手法を一つ確立したことで、サンプル回収や工法検証の足がかりができた。木元部長代理は「廃炉へはまだ長く困難な道が続いている。一歩一歩前に進んでいきたい」と力を込める。

(文=小寺貴之)
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 廃炉を火星移住に例えると、ようやく探査機が火星表面に降りて地表のデータを送ってくるようになったというところです。ミニマンボウはNASAのキュリオシティと比べると全然ではあります。ただ燃料デブリ(まだデブリと断定できませんが)にアクセスする手法がやっとできました。この一歩は大きく、ミニマンボウをベースに、より高度な調査が計画できるようになりました。格納容器内の何を調べればデブリの分布推定、損傷把握ができるか、どうやったら調べられそうか判断できるようになります。廃炉チームの技術陣はシミュレーションして考えていた損傷を目の当たりにして、想定範囲内とはいえ気を引き締めたと思います。廃炉チームの外の技術者・研究者はようやく現場を想像できるようになりました。全国から具体的な知恵と技術を集める段階に入ります。  水中ロボの研究者は複合システムを提案しどきです。水中測位技術の中でも、機体同士は目視できない、周囲の立体形状がわからない環境での測位が要るはずです。VR・ビジョン・計測系の研究者は映像のノイズ除去や3D再構成、できれば映像SLAM、インターフェース系の研究者は今後の調査機の操縦の半自動化など培ってきた技術が生きるときです。ミニマンボウ調査ではロボットを操縦者の隣で格納容器の3D-CADをクルクル操作する人を配置しました。ロボットに測位機能がなく、目で見て、CADと見比べて人間が位置を推定しながらおそるおそる進みました。現時点では現実策です。それでも、この辺だろう、という精度でしか情報が上がってきません。今後は、映像の画像処理や3D再構成は同時作業か、できれば自動化してしまいたいです。機体も作業員も放射線で稼働時間が限られるため、できるだけ効率化して調査の幅を広げたい、現場の負担を減らしたいところです。コスパが難しいところですが、企業や大学で培ってきたすべての技術にチャンスがあるはずです。

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