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原発「大量廃炉の時代」日本はどう乗り越えるのか

福島第一原発で培った知見を海外にも
 日本に「原発廃炉の時代」が訪れた。政府が定めた40年の運転期限に達する原発の廃止措置が今後、一斉に始まる。原発の廃炉は放射線環境下の作業に特有の困難を伴う。東京電力福島第一原発の廃炉はまさに未踏への挑戦と呼べる苦難が待ち受ける。ただ、過酷な現場での貴重な経験を生かせば、海外の廃炉作業にも貢献できる。同原発の事故で低下した日本の原子力技術に対する信頼を取り戻す好機となる。

 「前例のないチャレンジが続く。安全(確保)に最大限の配慮をして廃炉作業を進めたい」。東京電力の広瀬直己社長は政府が6月に開いた福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する閣僚会議で、そう決意を述べた。

 政府と東電はこの会議で、同原発の廃炉に関する工程表を2年ぶりに改定した。1―3号機の核燃料プールから燃料を取り出す作業を2―3年遅らせて2017年度に開始。原子炉格納容器内で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の回収作業は21年に始める方針だ。

 だが成功の見通しは立っていない。最難関とされる燃料デブリの取り出しでは、溶け落ちた燃料がどこにあるのかすら、まだ分からない状況だ。作業全体の終結時期は改定前と同じく事故から30―40年後としたが、専門家の間では大幅に遅れるとの見方が強い。

 原子力開発史上、例のない大災害となった福島第一原発事故。その廃炉作業は放射線やがれき、汚染水などに阻まれ、困難を極めている。人に代わって危険な場所で作業するロボットの開発も、失敗と改良の繰り返しだ。

 瞬発力養う廃炉のビジネスモデルを

 だが関係者の間にはこの経験をいずれ、ほかの原発の廃炉作業にも生かしたいという思いがある。ある技術者は「事故炉とは手順や工法が全く異なる」としながらも「通常炉の廃炉工程で想定外の事態に直面しても、素早く柔軟に対処できる瞬発力を養える」と指摘する。福島第一原発で培った知見は、日本が原発の大量廃炉時代を乗り切る糧となる。

 これからは事故処理だけでなく、老朽化した原発の廃炉が本格化する。4月末には日本原子力発電(東京都千代田区)敦賀原発(福井県敦賀市)1号機など5基の原発が、およそ40年の歴史に幕を下ろした。今後、廃止措置の手順や工程などの実施計画をまとめて国に認可を求める。

 政府が東日本大震災を受けた安全対策として、原発の運転期限を40年と定めたため、古い原発の廃炉に向けた動きが速まった。運転を最長20年間延ばす制度もあるが、老朽化対策などに多額の費用がかかり、今後も小規模なプラントなど投資対効果が小さい原発の廃炉が続く見通しだ。

 ただ原発の廃炉は困難な作業を伴う。人が近寄れない場所が多いため工法が限られるほか、大量に出る放射性廃棄物の処理・処分にも時間と費用がかかる。費用は出力100万キロワット級で600億円程度とされるが、放射性廃棄物の量が予想を上回ったり、思わぬトラブルが起きたりすればさらに膨らむ。安全性を確保しつつ、手早く効率的に作業を進めなければならない。

 老朽原発の廃炉は海外でも今後増え、これに携わる「廃炉ビジネス」も活発になる見通しだが、日本は欧米に比べて廃炉の実績が乏しい。福島第一の経験も生かして安全性と効率性、さらには思わぬ事態にも素早く対処できる柔軟性を兼ね備えた廃炉モデルの確立を急ぐ必要がある。

 ※日刊工業新聞では「日本力・未踏に挑む/廃炉・長い道のり」を連載中
日刊工業新聞2015年09月15日 1面
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
 過去、日本のGDPが増加するにつれエネルギー使用量も比例して増加した。新興国は国民の生活を豊かにするために経済成長を促進しなければならないが、エネルギー使用の増加が伴う。化石燃料等の資源に乏しい新興国が、安定的なエネルギー源の一つとして原発に期待するのは自然の成り行きである。  IEAの見通しでは、世界の原子力発電所設備容量は、2035年までに2010年比で約50%増加する。100万kW級の原子力発電所で換算して、394基から580基程度に増加する。いっぽう旺盛な需要とは裏腹に寿命の尽きた設備は廃棄しなければならない。地球温暖化対策やエネルギーセキュリティの面から日本は原発を必要とするが、日本の原発技術を維持するためにも、戦略として、廃炉技術に習熟し磨きをかけて、原発建設/操業とセットで世界を俯瞰したビジネスを展開しなければならない。

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