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阪神高速の役員が映画のエキストラで体得した「ものづくり」

中根慎治氏(阪神高速道路取締役)「無駄に見えても削ってはいけないものがある」
阪神高速の役員が映画のエキストラで体得した「ものづくり」

かつらと着物で時代劇に参加することもある

 時間を見つけては映画やドラマのエキストラ出演をしている。2010年に「1000人の男性が大阪府庁を取り囲む」場面の映画撮影があると耳にしたのが足を踏み入れたきっかけ。大阪の男たちが立ち上がる場面だが、人数集めに苦労していると聞き、地元が舞台の映画に貢献したいと参加した。

 夕方に集合して徹夜での撮影となったが非常に面白かった。1カットにOKが出るたび拍手が起き、大勢が一つのものを一生懸命作り上げる一体感が素晴らしかった。群衆の中にいたので完成した映像を見ても自分がどこにいるのかわからなかったが、DVDのメイキング映像には映っていた。こうやって形に残るのだとうれしかった。

 エキストラのメーリングリストに登録しており募集が届くようにしている。撮影の場所と時間、役割を見て条件が合えば応募し、制作側が衣装と体格が合うかなど審査して出演が決まる。撮影に参加するのは1シーンか2シーンの数カット。動くのは数分で、ずっと待機している。現代が舞台の作品だと衣装が自前になることも多いが、時代劇だと衣装やかつらを合わせるために集合時間が朝早い傾向がある。

 その冬1番の冷え込みの日に、半袖でうちわを使い「暑い暑い」と歩く場面を撮影することもある。大変な撮影でもボランティアなので報酬はなく交通費も自腹。それでも味わったことのない世界を見るのが楽しい。役者に話しかけることはできないが近くで演技を目の当たりにすると感動する。自分も状況に応じて速度や姿勢など歩き方を変えたり、道を横切るときの移動のきっかけが自然に見えるように考えたり、工夫している。

 現場では実際に映っている10―20倍の人が動いている。自分が映っていたらラッキーな世界。完成映像を見て、カメラが回っていた場所に驚くこともある。非効率的だが、雰囲気を作るために必要だ。一見、無駄に見えても削ってはいけないものがある。「ものづくり」にはそういう考えが必要だと実感する。
2016年6月10日「週末は別人」
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日刊工業新聞で毎週「週末は別人」という連載をやっている。最初この記事が目に入った時、何の企画か分からなかった。だいたいありきたりな内容が多い企画なのだが、久しぶりに大ヒット。ご本人には悪いが笑ってしまった。こういうことが行政や公共機関が映画撮影に協力的になっていくきっかけになるはず。

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