“ロボットの清水建設”、ビル新工法に廃炉にも
4種のロボでビル工事、新生産システム構築
清水建設は12日、建築工事の生産性向上に向け、搬送や溶接など4種類のロボットなどで構成する次世代生産システム「シミズスマートサイト」を構築したと発表した。2018年初めに関西で、高層ビルの工事にシステム全体を適用する。ロボットを用いる工種では、70%以上の省人化を目指す。
シミズスマートサイトは、水平スライドクレーン「エクスター」、柱溶接ロボット「ロボ・ウェルダー」、天井や床材を2本の腕で施工する多能工ロボット「ロボ・バディ」、自動搬送ロボット「ロボ・キャリア」などで構成。
工事現場では、エクスターで鉄骨や柱・梁(はり)を所定の位置に釣り込み、ロボ・ウェルダーで柱を溶接し、躯体工事を進める。ロボ・バディが下層階から最終工程となる天井、床を仕上げる。資材は夜のうちにロボ・キャリアなどで所定の場所に搬送する。
30階建て、床面積3000平方メートル規模のビルに適用した場合、6000人近く省人化できると試算する。ロボットは2―3現場で転用することで減価償却できる。
東京電力福島第一原子力発電所の1号機では使用済み燃料棒の取り出しに向けて最上階(オペレーティングフロア)の調査が進んでいる。大きな構造物の配置を調べるために、細かながれきは撤去する必要があった。この作業は大型クレーンの遠隔操作で行われる。クレーンを精密制御するために、清水建設はロボット技術をフル活用した。
地上のがれきはブルドーザーで集めて回収できる。ただ最上階のがれきは下手に崩すと、下の階や燃料プールの使用済み燃料棒に影響が出かねない。
不安定に積み重なったがれきを慎重に解体し取り除く必要がある。ロボットががれきの上を走り回ることはできず、上空からのアプローチが採用された。
建築総本部の山崎忍上席エンジニアは「ロボットをクレーンで吊(つ)るして上から作業すれば安全」と説明する。ただ、吊るすと揺れるため、ケーブルの先のユニットが回転してしまい制御が難しい。
そこで空中で回転を制御するベースマシンを開発した。ベースマシンに電源や通信機能、ファンを積み、ロボットを動かすための基礎ユニットとして活用する。
初期のベースマシンでは左右にファンを配置して、プロペラで風を起こして回転を止めていた。調査作業ごとに改良を重ね、新しいモデルではファンの先にL字のダクトをつけている。
風量は一定のまま、風向きだけ変えて力を微調整する。廣瀬豊主査は「風量調整よりも風向調整の方が制御しやすく、メンテナンスしやすい」と説明する。
このベースマシンに穿孔(せんこう)ユニットやがれき吸引ユニット、飛散防止剤吹き付けユニットなどを付け替えて、幅広い作業を実現してきた。
穿孔ユニットは最上階の床をくり抜きコアサンプルを回収する。コアを落下させないよう、刃が貫通すると先端の羽が開いてサンプルを保持する。コアサンプルは汚染の深さ計測に活用された。
吸引ユニットはがれきを吸い込んで回収する。れんがのような重量物を吸引するため、吸い込む風速は毎秒65メートルにもなる。
この動力源にはトンネル用の長距離送風機を採用した。このように、できるだけ特殊な技術開発は避け、既存の製品や装置を組み合わせてシステムを構築している。部品の調達性やメンテナンスの頻度など現場の負担を減らすためだ。
ゼネコンが開発する一つ一つの装置はロボットのようには見えない。ただ遠隔システム全体にロボット技術が盛り込まれ、現場での運用性が考えられている。
山崎上席エンジニア「廃炉用のロボット技術は放射線を除けば、災害現場の技術と共通する。この技術や知見は必ず日本の役に立つ」と強調する。
清水建設やパナソニック子会社のアトウン(奈良市)などは8日、最大250キログラムの重量物をつり上げるアシストロボット「配筋アシストロボット=写真」を開発し、受注を始めたと発表した。主に建設現場での鉄筋の配置作業を支援する。重労働からの解放に加え、手作業時と比べて作業者数が半分以下で済むという。消費税抜きの価格は1500万―2000万円の見込み。
鉄骨柱に固定して使用する。作業者が操作グリップを握って動かそうとすると、ロボット内部のサーボモーターがこの動きに合わせてロボットを実際に動かす。直感に近い操作ができるのが特徴。
ロボットは40キロ―60キログラムの部品で構成。3人で作業すると約20分で設置や解体が終わる。リフトよりも直感的に操作でき、持ち運びやすい。
建設業はこれまで多くの先端技術を開発し、街づくりやインフラ整備に貢献してきた。東日本大震災から6年余りが経過したが、被災地の復旧・復興や除染、廃炉などにおいても、建設業はその技術力をもって貢献してきたと自負している。同時に震災で明らかになった建設技術の新たな課題に対応すべく、さまざまな技術開発を推進してきた。
そうした中、昨年、熊本地震が発生した。震源付近では最大震度7の地震が連続し、大きな余震も続き、内陸直下型地震の脅威を痛感させられた。
その一方で、免震・制震技術や天井の耐震化技術など、特に東日本大震災後に技術開発を推進した地震に備える技術の有効性が確認された。
しかし、大地震直後の安全性の判断と余震への的確な対応、早期の機能復旧に向けた事業継続計画(BCP)など、発災直後に役立つ技術のさらなるレベルアップの必要性が浮き彫りになったのも事実である。
ハードの話題が先行したが、東日本大震災を機に、省エネルギーやエネルギーマネジメントに関する技術開発の必要性も再認識され、一挙に技術開発が進んだ。
快適性を確保しながら省エネルギーを達成するための空調や照明の設備技術と、平常時の電力ピークの抑制と非常時のエネルギーの自立性を確保するためのエネルギー制御技術を組み合わせることにより、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の実現が視野に入ってきたことは喜ばしい。
ZEBはコストパフォーマンス的にはまだまだ課題があるが、長期的な視点をもってその重要性を判断する必要がある。10年先、20年先には、サステナブルな社会づくりに欠かせないZEBの計画技術がプロジェクト受注の成否のカギを握る可能性もある。
2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画におけるSociety 5・0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みも加速したい。
それにはロボットや情報通信技術(ICT)に期待が寄せられる。例えば、急速に老朽化するインフラの維持管理・更新、さらには高齢化、人口減少が進む中での快適な生活社会環境の構築など、建設業として貢献できる取り組みも多くある。
こうした新たな社会的課題への対応を進める一方で、建設業自体が直面している大きな課題がある。将来の労働力不足への対応である。
国土交通省は15年12月、いち早く、建設現場の生産性向上に向けて測量・設計から、施工、管理にいたる全プロセスにおいて、情報化を前提とした「i−Construction」を16年度に導入すると表明。わずか1年の間に、現場に対する考え方が様変わりした感がある。
これまでICTの活用が限られていた土工事やコンクリート工事においても、ドローンによる3次元計測、CIM(コンピューター統合生産)に基づく情報化などを通じ、生産性向上の取り組みがすでに始まっている。
この流れを加速し、生産性を革新的に向上させるためには、人工知能(AI)を含む高度な情報化施工が重要なカギになる。例えば、経験の浅いオペレーターでも、AIの支援により、熟練オペレーターの判断や操作と同じように高精度・高効率の施工ができるようになれば、技能労働者不足への対応策として有効な手段になりうる。
一方、さまざまなロボットの導入に伴い、人とロボットの接触事故を懸念する声がある。だが、「Safety 2・0」と呼ばれる概念によると、最新のIoT(モノのインターネット)技術により、人とロボットが共働する場でも安全性を確保しつつ生産性を向上させることができるということであり、この分野の発展を期待したい。
今後の建設業における技術開発においては、従来の建築・土木分野にとどまらず、異分野・異業種との連携や技術導入が不可欠になる。こうしたオープンイノベーションを積極的に進めて、革新的な技術を開発し、さまざまな課題解決に努めたい。
【略歴】
宮本洋一(みやもと・よういち)71年(昭46)東大工卒、同年清水建設入社。耐震営業推進室長、執行役員北陸支店長、常務執行役員九州支店長、専務執行役員営業担当などを経て、07年に社長就任。16年4月から現職。東京都出身、69歳。>
シミズスマートサイトは、水平スライドクレーン「エクスター」、柱溶接ロボット「ロボ・ウェルダー」、天井や床材を2本の腕で施工する多能工ロボット「ロボ・バディ」、自動搬送ロボット「ロボ・キャリア」などで構成。
工事現場では、エクスターで鉄骨や柱・梁(はり)を所定の位置に釣り込み、ロボ・ウェルダーで柱を溶接し、躯体工事を進める。ロボ・バディが下層階から最終工程となる天井、床を仕上げる。資材は夜のうちにロボ・キャリアなどで所定の場所に搬送する。
30階建て、床面積3000平方メートル規模のビルに適用した場合、6000人近く省人化できると試算する。ロボットは2―3現場で転用することで減価償却できる。
日刊工業新聞2017年7月13日
福島第1,遠隔クレーンにフル装備
東京電力福島第一原子力発電所の1号機では使用済み燃料棒の取り出しに向けて最上階(オペレーティングフロア)の調査が進んでいる。大きな構造物の配置を調べるために、細かながれきは撤去する必要があった。この作業は大型クレーンの遠隔操作で行われる。クレーンを精密制御するために、清水建設はロボット技術をフル活用した。
地上のがれきはブルドーザーで集めて回収できる。ただ最上階のがれきは下手に崩すと、下の階や燃料プールの使用済み燃料棒に影響が出かねない。
不安定に積み重なったがれきを慎重に解体し取り除く必要がある。ロボットががれきの上を走り回ることはできず、上空からのアプローチが採用された。
建築総本部の山崎忍上席エンジニアは「ロボットをクレーンで吊(つ)るして上から作業すれば安全」と説明する。ただ、吊るすと揺れるため、ケーブルの先のユニットが回転してしまい制御が難しい。
そこで空中で回転を制御するベースマシンを開発した。ベースマシンに電源や通信機能、ファンを積み、ロボットを動かすための基礎ユニットとして活用する。
初期のベースマシンでは左右にファンを配置して、プロペラで風を起こして回転を止めていた。調査作業ごとに改良を重ね、新しいモデルではファンの先にL字のダクトをつけている。
風量は一定のまま、風向きだけ変えて力を微調整する。廣瀬豊主査は「風量調整よりも風向調整の方が制御しやすく、メンテナンスしやすい」と説明する。
このベースマシンに穿孔(せんこう)ユニットやがれき吸引ユニット、飛散防止剤吹き付けユニットなどを付け替えて、幅広い作業を実現してきた。
穿孔ユニットは最上階の床をくり抜きコアサンプルを回収する。コアを落下させないよう、刃が貫通すると先端の羽が開いてサンプルを保持する。コアサンプルは汚染の深さ計測に活用された。
吸引ユニットはがれきを吸い込んで回収する。れんがのような重量物を吸引するため、吸い込む風速は毎秒65メートルにもなる。
この動力源にはトンネル用の長距離送風機を採用した。このように、できるだけ特殊な技術開発は避け、既存の製品や装置を組み合わせてシステムを構築している。部品の調達性やメンテナンスの頻度など現場の負担を減らすためだ。
ゼネコンが開発する一つ一つの装置はロボットのようには見えない。ただ遠隔システム全体にロボット技術が盛り込まれ、現場での運用性が考えられている。
山崎上席エンジニア「廃炉用のロボット技術は放射線を除けば、災害現場の技術と共通する。この技術や知見は必ず日本の役に立つ」と強調する。
日刊工業新聞2017年7月5日
アシストロボ、最大250kgの重量物つり上げ
清水建設やパナソニック子会社のアトウン(奈良市)などは8日、最大250キログラムの重量物をつり上げるアシストロボット「配筋アシストロボット=写真」を開発し、受注を始めたと発表した。主に建設現場での鉄筋の配置作業を支援する。重労働からの解放に加え、手作業時と比べて作業者数が半分以下で済むという。消費税抜きの価格は1500万―2000万円の見込み。
鉄骨柱に固定して使用する。作業者が操作グリップを握って動かそうとすると、ロボット内部のサーボモーターがこの動きに合わせてロボットを実際に動かす。直感に近い操作ができるのが特徴。
ロボットは40キロ―60キログラムの部品で構成。3人で作業すると約20分で設置や解体が終わる。リフトよりも直感的に操作でき、持ち運びやすい。
日刊工業新聞2017年6月9日
清水建設・宮本洋一会長
建設業はこれまで多くの先端技術を開発し、街づくりやインフラ整備に貢献してきた。東日本大震災から6年余りが経過したが、被災地の復旧・復興や除染、廃炉などにおいても、建設業はその技術力をもって貢献してきたと自負している。同時に震災で明らかになった建設技術の新たな課題に対応すべく、さまざまな技術開発を推進してきた。
そうした中、昨年、熊本地震が発生した。震源付近では最大震度7の地震が連続し、大きな余震も続き、内陸直下型地震の脅威を痛感させられた。
その一方で、免震・制震技術や天井の耐震化技術など、特に東日本大震災後に技術開発を推進した地震に備える技術の有効性が確認された。
しかし、大地震直後の安全性の判断と余震への的確な対応、早期の機能復旧に向けた事業継続計画(BCP)など、発災直後に役立つ技術のさらなるレベルアップの必要性が浮き彫りになったのも事実である。
ハードの話題が先行したが、東日本大震災を機に、省エネルギーやエネルギーマネジメントに関する技術開発の必要性も再認識され、一挙に技術開発が進んだ。
快適性を確保しながら省エネルギーを達成するための空調や照明の設備技術と、平常時の電力ピークの抑制と非常時のエネルギーの自立性を確保するためのエネルギー制御技術を組み合わせることにより、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の実現が視野に入ってきたことは喜ばしい。
ZEBはコストパフォーマンス的にはまだまだ課題があるが、長期的な視点をもってその重要性を判断する必要がある。10年先、20年先には、サステナブルな社会づくりに欠かせないZEBの計画技術がプロジェクト受注の成否のカギを握る可能性もある。
2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画におけるSociety 5・0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みも加速したい。
それにはロボットや情報通信技術(ICT)に期待が寄せられる。例えば、急速に老朽化するインフラの維持管理・更新、さらには高齢化、人口減少が進む中での快適な生活社会環境の構築など、建設業として貢献できる取り組みも多くある。
こうした新たな社会的課題への対応を進める一方で、建設業自体が直面している大きな課題がある。将来の労働力不足への対応である。
国土交通省は15年12月、いち早く、建設現場の生産性向上に向けて測量・設計から、施工、管理にいたる全プロセスにおいて、情報化を前提とした「i−Construction」を16年度に導入すると表明。わずか1年の間に、現場に対する考え方が様変わりした感がある。
これまでICTの活用が限られていた土工事やコンクリート工事においても、ドローンによる3次元計測、CIM(コンピューター統合生産)に基づく情報化などを通じ、生産性向上の取り組みがすでに始まっている。
この流れを加速し、生産性を革新的に向上させるためには、人工知能(AI)を含む高度な情報化施工が重要なカギになる。例えば、経験の浅いオペレーターでも、AIの支援により、熟練オペレーターの判断や操作と同じように高精度・高効率の施工ができるようになれば、技能労働者不足への対応策として有効な手段になりうる。
一方、さまざまなロボットの導入に伴い、人とロボットの接触事故を懸念する声がある。だが、「Safety 2・0」と呼ばれる概念によると、最新のIoT(モノのインターネット)技術により、人とロボットが共働する場でも安全性を確保しつつ生産性を向上させることができるということであり、この分野の発展を期待したい。
今後の建設業における技術開発においては、従来の建築・土木分野にとどまらず、異分野・異業種との連携や技術導入が不可欠になる。こうしたオープンイノベーションを積極的に進めて、革新的な技術を開発し、さまざまな課題解決に努めたい。
宮本洋一(みやもと・よういち)71年(昭46)東大工卒、同年清水建設入社。耐震営業推進室長、執行役員北陸支店長、常務執行役員九州支店長、専務執行役員営業担当などを経て、07年に社長就任。16年4月から現職。東京都出身、69歳。>
日刊工業新聞2017年6月26日