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ぬるくても「温泉」なのはなぜ?実は解明されていない謎も多い

温泉の定義は幅が広い
 温泉は、地下から湧出してくる。そして湯治、療養、休養、観光など私たちの生活を楽しく豊かにしてくれる。多くの人が温泉に行き、天然の温泉を大自然の中で楽しみ、満喫し、癒されたという経験をしていることだろう。
特に我が国「日本」は火山が多いこともあり、まさに“温泉大国”だ。山奥にも、海岸にも、そして東京にも、いたるところに温泉がある。
露天風呂など景観が人の気持ちを癒し、ストレス解消に効果がある

 しかし、「温泉は地下のどこから来るのか?」「なぜ温かいのか?」「なぜいろいろな成分が含まれているのか?」「なぜ健康に良いのか?」などなど、よく考えるとはっきりとわからない、また、まだ解明されていないとことも案外たくさんある。

ぬるくても温泉と呼ばれるのは?


 律的なことを言えば、温泉は、戦後間もない1948年に制定された「温泉法」という法律によって「地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、温度または物質を有するもの」と定義されている。

 つまり、源泉温度が25℃以上であるか、「リチウムイオン」「水素イオン」「フッ素イオン」「重炭酸ソーダ」など18の特定成分とそれらの総量のうち1つ以上規定値に達しているものを温泉としている。

 すなわち、源泉温度が25℃より低くても、条件となる18成分+総量(19成分という)のうち1つでも基準値をクリアしていれば「温泉」と見なされる。温泉の定義は、このように幅が広いのが基本的特徴だ。なお、一定の成分と含有量があり、一定の効能が認められれば「療養泉」と呼んでいる。

 では、その自然界での仕組みはどうなっているのだろうか。通常、温泉は火山が熱源となる。その他に、地熱や地表から深部への地温勾配も温泉をつくる熱源となる。そのため、地震や火山活動などの地殻変動で泉源が変化したり、泉質や泉温も変わったり枯渇したりすることもある。

 温泉の源となる水も、地表水だけでなく、海水ということあり、また、地下深部のマグマの活動に由来するものもある。

さまざまな成分が溶け込んで効能が備わる


 温泉の水(温泉水)は、地球内部からの熱の影響で、地表から深くなると温度が高くなる。地中を100メートル掘るごとに温度は3℃前後上昇、地表から1000メートルでは地下水は30℃以上になる。現代では、自然湧出だけでなく、今では掘削技術が進んでいるため、1000メートル掘削して、温泉を湧出させることも可能となった。
温泉と地球の構造の関係がわかれば、温泉のありがたさが理解できる

 地下で温められた温泉は、地層、岩石の割れ目、断層などを通路として、地表に湧出する。温泉水はダイナミックな地球の動きの中で、大局的には地殻の中を循環しながら地表に湧出している。

 そしてその過程で、温泉はその場所特有の各種成分をそのお湯に取り込むことになる。つまり、温められた地下水は、深い地下から地上に向かって上昇しながらいろいろな成分をその中に含み、温泉として湧出するのだ。そして、この溶存しているさまざまな成分が温泉の効き目に関係してくる。
大都会の大手町でも、深く掘ることで温泉は出る

 温泉は、ストレスの発散や疲労回復のほか、病気治療などいろいろな意味で「体に良い」ことにつながる。「地球のめぐみ」としてもたらされる、温泉の不思議な力を見直してみてはいかがだろう。

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矢島俊克
矢島俊克 Yajima Toshikatsu 出版局書籍編集部 編集
日常の喧騒やストレスを忘れさせてくれ、人を癒す力を秘める温泉は、1000年の昔から日本人と強いつながりを保ってきた。これまで知らなかった温泉のいろいろな秘密を知ることで、その楽しみはより広がっていくことだろう。

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