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「究極の燃焼」に挑む日大准教授は元スバル社員

研究室から自動車メーカーに続々送り込む
「究極の燃焼」に挑む日大准教授は元スバル社員

飯島晃良准教授

 現在の自動車の研究といえば自動運転技術や水素など新エネルギー対応型が花形だ。しかしエンジン燃焼の高効率やクリーン化は、今も業界の最重要テーマに変わりはない。内閣府の支援事業「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)に「革新的燃焼技術プロジェクト」が設定されたのもそのためだ。

 SIPの一員でもある日本大学理工学部の飯島晃良准教授は、この伝統テーマを土台にしつつ、燃費改善とクリーン化を実現する「予混合圧縮着火」(HCCI)といった先端研究にも取り組む。富士重工業(現スバル)の勤務経験もあり、伝統と先端の“どちらにも寄りすぎない”ことが信条だ。

 HCCIはガソリンエンジンのように燃料と空気をあらかじめよく混合して吸入、ディーゼルエンジンのように圧縮着火させる。排ガスがクリーンで燃費もよい両方の“いいとこどり”を狙う。世界中の自動車メーカーが注目するが、燃焼の制御が難しいのが課題となっている。

 元々、機械工学は多様な現象が絡むため、試作・改良を重ねて発達してきた。原理解明が不十分なところも多い。今回も燃焼メカニズムを科学的にとらえることが、ブレークスルーになると期待が寄せられる。飯島准教授は「HCCIの知見は従来型エンジンの改良にも役立つ。社会的な波及効果はその方が大きいかもしれない」と産業界への貢献を意識する。

 昨今は大学の研究費不足がいわれるが、「予算が少なくて研究ができないということはない」と異を唱える。例えば燃焼室の様子をのぞけるようガラス窓を設置した実験装置を自作した。学生が考えて図面を引き、学内の試作工場に頼んで10万円で完成させた。「世界に一つしかない装置。他で見たことのない現象をとらえられる」。大型研究費獲得とは異なるエンジニアの醍醐味(だいごみ)を大切にする。

 出身研究室を継ぎ、現在所属する学生25人にはグループ研究を重視して指導する。2016年受賞の「日本燃焼学会論文賞」で名を連ねたマツダスズキホンダ社員は、研究室の修士時代に成果を上げた卒業生たちだ。安全教育のテキストから進んだ書籍は、すでに単著が3冊になった。伝統と最先端の両方を持つ強みが、多方面で花開きつつある。
(文=山本佳世子)
日刊工業新聞2017年7月5日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
「究極の燃焼」と呼ばれる燃焼方式、「HCCI(予混合圧縮自動着火)」。ごく薄いガソリンの混合気を、ディーゼルエンジンのように自己着火させて燃やし、燃費性能と環境性能を飛躍的に高められる。理想的な燃焼とされる一方で、技術的なハードルも高い。1台のエンジンの中で通常の燃焼と瞬時に切り替える必要があるほか、安定的に燃える領域が狭いなど課題が多く、どの自動車メーカーでもいまだに実用化できていない。

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