健全化に新指標「財政出動の余地が生まれるという考えは間違っている」

土居慶大教授に聞く「プライマリー・バランスの黒字化は必須」

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経済財政諮問会議で発言する安倍総理(首相官邸公式ホームページ)
 政府は9日に閣議決定を予定する経済財政運営の基本方針(骨太方針)に、財政健全化の進捗(しんちょく)を計る新指標を盛り込む。2020年度に国・地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス、PB)を黒字化する従来指標に加え、公的債務残高が名目国内総生産(GDP)に占める比率も重視する。ただ、歳出抑制よりも経済成長に依存する新指標には危うさが残る。慶応義塾大学経済学部教授の土居丈朗氏に、日本財政のあるべき姿を聞いた。

 ―20年度のPB黒字化が困難視される中、政府は新指標を健全化目標に加えました。成長重視の歳出圧力が強まりませんか。 「内閣府の試算によると、『経済再生ケース』では19、20年度に3・7―3・8%の名目GDP成長率を予測し、新指標の債務残高対GDP比は20年度に180%程度(15年度186%)を見込む。仮に3・0%程度の名目成長率を前提としても、PBを黒字化しないと180%への下げは実現できない」

 「結局、新指標も従来指標もコインの裏と表の関係で、同じ事を言っているだけだ。新指標により財政出動の余地が生まれるという考えは間違っている」

 ―新指標は、19年10月に予定する消費税率10%を延期する布石との見方もあります。
 「税率10%は予定通り実施しなければならない。自民党総裁任期を考えると、19年10月も延期となれば事実上の無期延期となる。非常に無責任と言わざるを得ない」

 「税率8%と10%では5兆円程度の税収差がある。8%のままで社会保障費を賄えるのか、老後の不安は払拭できるのか。消費増税しないと国民の不安を誘発する。政府は財政健全化を進め、客観的な裏づけのある公的年金の将来見通しを示してもらいたい」

 ―20年度のPB黒字化は不可能ですか。
 「私は実現できると思う。予定通りの消費増税、歳出削減、さらに成長戦略を確実に実行すれば実現可能だ。自動走行の実用化などは中長期の課題だが、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ(大量データ)などを駆使した第4次産業革命による労働生産性の向上は、20年度までの成長に寄与する。1%強の実質成長率、消費増税による2%の物価上昇、3%程度の名目成長率が前提だが実現は難しくない」

 ―歳出改革はどのように進めますか。
 「社会保障費については、地域医療構想の進捗や医療費の適正化、介護保険制度の改革などにより追加的な抑制効果を期待できる。また幼児教育・保育の無償化に必要な財源を、厚生年金や国民年金の保険料引き上げで賄う『こども保険』は、欠陥もあるがなかなかの良案だ。子供に借金を負わせる国債に頼らず、親世代の負担で給付と財源をセットで考えるべきだ」
慶応大学教授・土居丈朗氏

【記者の目】
 財政制度等審議会の委員も務める土居教授は、20年度のPB黒字化は財政健全化への一里塚と位置づけ、20年度以降の財政の行方を憂慮する。社会保障の持続可能性を担保するには、20年代後半に消費税率を15%程度に引き上げるべきだと訴える。税率10%でつまずくようなら健全化への道筋はいつまでもみえない。
(聞き手=神崎正樹)

日刊工業新聞2017年6月8日

COMMENT

安東泰志
ニューホライズンキャピタル
会長

世論の一部に、日本には資産があるから大丈夫だなどという意見があるが、いくら資産があっても巨額の負債をリファイナンスできなければ財政は破綻する。そね資産も、すぐに、しかも簿価で売却できるものは殆どないはずだ。PB黒字化は最低限の目標だ。

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