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リコーや富士通が“CO2ゼロ”宣言、それでも日本企業が足りないこと

環境に良いことをしていても、基準づくりで遅れ
 リコー富士通が相次いで2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする環境目標を公表した。リコーは事業で使う電力全量を再生可能エネルギーで賄う。富士通は人工知能(AI)による節電技術や再生エネを活用する。排出ゼロを目指す国際ルール「パリ協定」が16年11月に発効し、大胆な目標を設定する日本企業が増えてきた。米トランプ政権がパリ協定離脱を決めたが、企業には高い目標が競争力強化につながる。

 リコーは工場やオフィスで省エネルギー化を徹底し、50年までに電気を再生エネ由来に切り替える。ガスや灯油など熱利用で発生するCO2は、他の場所での削減を自社の削減分として認められるクレジットの活用でオフセット(相殺)し、排出をゼロ化する。

 目標策定のきっかけが、パリ協定が合意された15年末の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)だ。パリの会場に居合わせた加藤茂夫執行役員は衝撃を受けた。海外企業のCEOが次々と登壇し、化石資源に依存しない“脱炭素社会”への移行支持を表明したからだ。

 帰国後、加藤執行役員は現地の熱気を他の役員にも報告。「取り残される」との危機感を共有し、役員会で新しい環境目標の討議が始まった。

 16年末の経営会議には再生エネの使用が提案された。17年2月末、当時の三浦善司社長の指示で経営陣が環境目標だけを集中討議する場を持ち、目標を固めた。

 再生エネ100%を目指す企業連合「RE100」に日本企業として初めて加盟した。電気を使う側が再生エネの大量活用を宣言することで、発電事業者に再生エネの普及や価格低減を促す狙いがある。

 社会環境室企画グループの阿部哲嗣リーダーは「海外企業との商談で環境問題への取り組みが問われることがあり、RE100加盟は競争でも優位になる」と期待する。

 富士通も省エネを進め、再生エネの導入とクレジットの活用で50年にCO2排出量をゼロ化する。環境本部の金光英之本部長は「将来のコスト上昇に備え、前倒しでの対応が重要と考えている」と理由を話す。

 排出量に課税する炭素税が世界的に広がるなど今後、排出がコストとして重くのしかかる恐れがある。そこで実際にコスト上昇が起きる前に対策を打とうと高い目標を設定した。

 特にデータセンター事業は年8%増の勢いでエネルギー使用量が増えており、対応が急がれる。AIなど最新技術を導入し、効果を検証して社外にも展開する。「RE100への参加も積極的に検討したい」(金光本部長)とする。

 トランプ政権は米国の利益を損なうとしてパリ協定離脱を表明した。だが、リコー、富士通とも市場競争やコスト抑制といった経営メリットを見込み高い目標を設定した。2社以外にも50年目標を検討する企業が増えており、経営に貢献できる目標設定が望まれる。
              

(文=松木喬)
日刊工業新聞2017年6月5日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「CO2排出ゼロ」もしくは「再生エネ100%」を宣言しないと(目指さないと)市場・顧客から環境先進企業として認められるない状況ができました。確かにわかりやすい基準です。宣言した企業は社会から監視もされるので、気が抜けません。CO2排出ゼロ・再生エネ100%を評価基準にしたのは欧米企業です。日本企業は環境に良いことをしていても、基準づくりで遅れています。

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