良品だけ作れば検査はなくせる。富士ゼロックス「インダストリー4.0」実現段階
人も、機械に指示されるだけではない
富士ゼロックスは、複合機やプリンターの基幹部品を生産する富士ゼロックスマニュファクチュアリング鈴鹿事業所(三重県鈴鹿市)で、工場のスマート化を加速する。製造工程で収集した製品1点ずつのデータを解析し、生産を効率化する「インダストリー4・0」が実現段階に来た。投資負担とのバランスを取りながら、従業員と協調したモノづくりを目指す。
スマート工場の核は、製造工程で製品ごとに収集するデータだ。通常、データは市場での不良発生後や出荷時に、“さかのぼって”確認する。同社は反対に、“事前に”データ側で良品を作る条件を設定する。同条件以外でラインを動かなくすれば、不良は発生しないという発想だ。
富士ゼロックスマニュファクチュアリングの古川雅晴執行役員鈴鹿事業所長は、「良品条件のモノづくりを追求すれば、将来は検査工程をなくせる」と期待する。さらに、最適な生産条件を設定すれば、位置合わせの難しい緻密な組み立ての時間を短縮して生産を効率化できる。これが、同社の狙うインダストリー4・0の世界だ。
特に、トナーを紙に定着させる「IH定着機」ラインに、新しい施策が集まっている。最初に品目を表記した「カンバン」を読み取り機で読み込むと、システム側は必要な部品や従業員の技能などの条件を準備する。例えば、ある工程に必要な技能を持たない従業員が配置に付く場合、補助員がいなければラインを動かせない。
ベースの部品に内蔵したチップと生産ラインの各工程に設置した読み取り機との間で情報をやりとりし、正しく生産していれば次へ進む。全て条件通りに生産された製品は、ラインの最後にラベルを発行して貼り付け、出荷できる。これが不良を作らない仕組みだ。
ボトルネック工程の「バッフルの自動調整」では、まさに最も生産効率のよくなる条件を割り出している。バッフルは、紙を正しい位置に流すためのガイドで、定着ベルトとの隙間を100分の1ミリメートル単位で調整する必要がある。3本のネジを仮締めし、レーザーで隙間を測定して最適なところで本締めするのだが、本締めの力や寸法の違いで、隙間はずれやすい。自動化した当初、一度でぴったりの隙間に調整できる確率は40%だった。
現在は仮締め量の最適化や自動調整の狙い値の見直しなどで90%に改善したが、「100%にして、生産性を向上したい」(古川執行役員)と意気込む。追加の改善施策として、個々の部品寸法を測定して仮締めや本締めを微調整する方法があるが、作業負担は増える。
一方、ずれるメカニズムがわかってきたため、この部分で改善できるかもしれない。負担とのバランスを考えて判断する。
また、現場を預かる三林光一第四製造部長は、「良品条件はいろいろあるが、人が重要。機械に指示されてばかりでは、現場が嫌がる」と指摘する。そこで、社員証を読み込んだ時に各国の言語であいさつするほか、熱がある時にシステムが声をかけるなど、気持ちよく働く仕組みも導入予定だ。スマート工場に向けて、地道な改善を続ける。
(文=梶原洵子)
スマート工場の核は、製造工程で製品ごとに収集するデータだ。通常、データは市場での不良発生後や出荷時に、“さかのぼって”確認する。同社は反対に、“事前に”データ側で良品を作る条件を設定する。同条件以外でラインを動かなくすれば、不良は発生しないという発想だ。
富士ゼロックスマニュファクチュアリングの古川雅晴執行役員鈴鹿事業所長は、「良品条件のモノづくりを追求すれば、将来は検査工程をなくせる」と期待する。さらに、最適な生産条件を設定すれば、位置合わせの難しい緻密な組み立ての時間を短縮して生産を効率化できる。これが、同社の狙うインダストリー4・0の世界だ。
特に、トナーを紙に定着させる「IH定着機」ラインに、新しい施策が集まっている。最初に品目を表記した「カンバン」を読み取り機で読み込むと、システム側は必要な部品や従業員の技能などの条件を準備する。例えば、ある工程に必要な技能を持たない従業員が配置に付く場合、補助員がいなければラインを動かせない。
ベースの部品に内蔵したチップと生産ラインの各工程に設置した読み取り機との間で情報をやりとりし、正しく生産していれば次へ進む。全て条件通りに生産された製品は、ラインの最後にラベルを発行して貼り付け、出荷できる。これが不良を作らない仕組みだ。
ボトルネック工程の「バッフルの自動調整」では、まさに最も生産効率のよくなる条件を割り出している。バッフルは、紙を正しい位置に流すためのガイドで、定着ベルトとの隙間を100分の1ミリメートル単位で調整する必要がある。3本のネジを仮締めし、レーザーで隙間を測定して最適なところで本締めするのだが、本締めの力や寸法の違いで、隙間はずれやすい。自動化した当初、一度でぴったりの隙間に調整できる確率は40%だった。
現在は仮締め量の最適化や自動調整の狙い値の見直しなどで90%に改善したが、「100%にして、生産性を向上したい」(古川執行役員)と意気込む。追加の改善施策として、個々の部品寸法を測定して仮締めや本締めを微調整する方法があるが、作業負担は増える。
一方、ずれるメカニズムがわかってきたため、この部分で改善できるかもしれない。負担とのバランスを考えて判断する。
また、現場を預かる三林光一第四製造部長は、「良品条件はいろいろあるが、人が重要。機械に指示されてばかりでは、現場が嫌がる」と指摘する。そこで、社員証を読み込んだ時に各国の言語であいさつするほか、熱がある時にシステムが声をかけるなど、気持ちよく働く仕組みも導入予定だ。スマート工場に向けて、地道な改善を続ける。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2017年5月24日