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「10分後にうんこが出ます」排泄予知デバイス開発物語

トリプル・ダブリュー・ジャパンCEO・中西敦士インタビュー
 ―なぜ排泄(はいせつ)を予測するデバイスの開発にたどり着いたのですか。
 「現実として自分には排泄を止めることはできない。だが、何分後に出るのかを予測する装置なら開発できるのではないかと考えた。もし、あらかじめ排泄のタイミングを予測できれば、落ち着いてトイレを探したり、漏らす心配をなくしたりできるのではないかと思ったからだ」

 ―タイトルにインパクトがあります。
 「2013年、米国に留学していた時、うんこを漏らすというつらい体験がデバイスの開発会社を起業するきっかけとなった。ベンチャー企業というと何となく怪しいと思われてしまいがちだが、アイデア一つで話がどんどん広がるベンチャーならではの面白さを本書を通して知ってもらいたかった。排泄予知デバイスの開発物語だが、単なるビジネス書ではなくエンターテインメントの要素もある本にしたかったのでこのタイトルにした」

 ―資金集めで意識したことは。
 「投資家や起業して成功した人から評価してもらえたことは、自信を与えてくれた。あとはモノをつくって売るだけだと感じた。プレゼンテーションをする場合は、時と場所をわきまえ、ビジネスとしてしっかり話をするようにしている」

 ―デバイスの市場をどのように見ていますか。
 「一度、自分たちの取り組みがインターネットで紹介された際、介護施設からの反響が圧倒的に大きかった。脊髄を損傷した方からはいつ大便が出るか分からず、排泄に不安を抱えながら暮らしているという声も聞いた。便のにおいに周囲も気付くことが辛く、断食するなど苦しんでいる人がいた。開発を進めるにつれて、装置を心待ちにしている人がいることが分かっていった」

 ―周囲の人たちも開発に協力的に取り組んでいます。振り返るとどこが良かったと思いますか。
 「テーマとタイミングではないかと思う。排泄は介護現場でも深刻な問題になっており、世界でもますます重要になっていくだろう。それをエンジニアの魂というか、自分たちが作ったモノで困っている人を助けたいと感じられるテーマだったのだろう」

 「僕は30歳くらいになると会社の組織がある程度分かり、このままで良いのかと悩む時期なのだと思う。今の会社でも同じ年代の人たちが集まっている点では、そうした部分も大きかったのではないかと感じる」

 ―3月には経済産業省の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2017」でグランプリを受賞しました。国からもビジネスが注目されています。今後の目標は。
 「排泄をきちんと予測する製品を、困っている人たちに確実に届けていく。また、超音波で体内の情報を分析する特徴を生かし、排泄だけではなく体のさまざまな生理現象を予測していきたい。まねされる可能性も出てくるので、いかにデータを集められるかが大事になる。日本、アジア、欧州などと順々に展開するのではなく、世界同時進行でやっていきたい。スピードを最優先に取り組んでいく」
中西敦士氏

(聞き手=浅海宏規)
【略歴】
中西敦士(なかにし・あつし)=トリプル・ダブリュー・ジャパン最高経営責任者(CEO) 06年(平18)慶大商卒。会社員や青年海外協力隊を経て14年米国でトリプル・ダブリュー設立、15年トリプル・ダブリュー・ジャパン設立。兵庫県出身、33歳。著書『10分後にうんこが出ます―排泄予知デバイス開発物語』
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
介護施設のトイレは、暴れる利用者を職員が押さえつけたり想像以上に壮絶だ。利用者本人が望むケアなのか?常に問い続けながら事業をスケールさせてもらいたい。

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