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介護の排泄問題をロボットの要素技術で解決

abaが来春の発売に向けて開発を加速
介護の排泄問題をロボットの要素技術で解決

介護用排泄検知シート「Lifilm」

 abaの最高経営責任者(CEO)である宇井吉美を起業させたのは「介護現場を変えたい」という思い。もともとベンチャー志向はなく、「起業は手段」だった。

 【ロボットに興味】
 abaは創業3年目。介護用排せつ検知シート「Lifilm(リフィルム)」を開発中だ。秋に試験販売、来年春の正式発売を計画する。ベッドに敷いて便や尿の臭いを検知し、無線通信などで介護職員に知らせる。検知・通報だけでなく、排せつリズムの把握など介護の質の向上に大きく貢献する。

 高校時代、うつ病になった祖母を家族で世話した経験から、「介護される人と、する人の間に入れる存在はないか」と考えた。理数科に通う女子高校生はロボットに興味を持ち、2007年千葉工業大学に入学。大学1年で医療・介護支援ロボットのプロジェクトを立ち上げた。そして、2年生の時、宇井が「私の原点」という体験をする。

 介護実習で行った施設のトイレ。施設利用者の腹部を1人の介護職員が圧迫する。嫌がり暴れる利用者をもう一人の職員が押さえつける。「まさに壮絶」な状況を目の当たりにし、宇井は泣いた。見学後、職員に「これは利用者本人が望むケアですか」と質問すると、職員は「分からない」と答えた。ただ、この利用者の家族は、排せつを済ませて帰宅させてほしいと要望していた。意思疎通をとりにくい利用者ではなく、家族の要望に応えなければいけない介護の現状もある。「分からない」という言葉は、そうした状況で悩む現場の声だった。宇井に「この状況を変えたい」という思いがこみ上げた。

 「そこから介護にのめり込んでいった」。ボランティアで介護現場をまわりながら、介護職員にほしい物を聞いてまわった。そこで生まれたのがリフィルムだ。「欲しいと言われ、絶対に製品化すると決めた」。
 
 【ビジネスコンテスト】
 設計や製作を任せるパートナーを見つけ、自分は企画やマーケティング担当として介護機器メーカーと製品化の話を進めた。しかし、東日本大震災が発生。企業は新規事業への投資を控え、製品化は頓挫した。そこで、宇井は大学に紹介されたビジネスコンテストに応募する。ここで起業という手法を知った。賞を取り評価され、先輩起業家や投資家に背中を押されるかたちで起業した。

 宇井は現在、介護職員としても働いている。「会社設立当初は本当に介護を分かる人が社内にいなかった」とふり返る。abaの製品のユーザーは複数。介護される人、介護する人、そして介護施設運営者。真のユーザーニーズに応えなければ役立つ製品は生み出せない。起業後の経験は「思いだけでは良いものはつくれない」という経営の視点を宇井に与えた。

 【リスクを取る覚悟】
 投資家や金融機関に対する責任も感じている。「もうけなければというプレッシャーはいつもある」。リスクを取る覚悟も求められる。それなりに大きな借り入れで書類に印鑑を押すとき、一瞬「本当に大丈夫か」とためらった。その時も宇井を突き動かしたのも「分からない」という言葉だ。「最悪、自分がきつい立場になればいい。返済の仕方はいろいろある。それよりもリフィルムを製品化できず、期待してくれた介護職員たちが残念がる方が嫌だ」と、印鑑に力を込めた。

 宇井は介護職の夜勤明けでabaのミーティングに出ることも多い。検知シートの動作検証で、実際にシートに寝た状態で排せつするのも宇井の仕事だ。はた目に“きつい”仕事だが、宇井は「この仕事、この会社以外にやりたいことがない」と話す。人が「やるべき事」を見つけた時、企業は生まれる。(敬称略)
日刊工業新聞2015年04月13日 中小・ベンチャー・中小政策面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
純粋なロボットの記事ではありませんが、いろいろと議論のある介護ロボット関連産業は、こういった要素技術から徐々に浸透させていくのが有効ではないかと感じます。abaは日刊工業新聞社のキャンパスベンチャーグランプリの受賞企業です。花開くことを期待し、応援していきます。

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