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「鉄のすべて」全方位で追究する研究所

JFEスチール・スチール研究所、次のテーマはマルチマテリアル
「鉄のすべて」全方位で追究する研究所

スチール研究所での研究風景(JFEスチール提供)

 JFEスチールのスチール研究所は基礎研究から製品開発まで手がける。研究領域は「鉄のすべて」だ。薄板や鋼管などの商品開発と製造プロセス、開発を支える計測技術、物性理解など、満遍なくカバーする。中央研究所は持たず、製鉄所や製造所の設備や生産品目に対応した開発体制をとる。研究者には基礎科学と現場をつなぐ力が求められる。

 鉄鋼は産と学の連携がうまく回る分野だ。大学の設備では製造スケールが小さいため、必然的に大学で基礎、企業で実用と役割分担ができている。スチール研究企画部長の中田直樹理事は、「東北大学大阪大学など専門組織を持つ大学は強い。他にも光る研究をしている先生が多い」と説明する。

 基礎科学と製造現場をつなぐ役割を持つスチール研では、現場の実機が巨大なため研究所の実証用プラントで試作し、金属組織の析出などを最先端の顕微鏡で解析などをする。「特定のテーマに集中せず全方位で研究を走らせている」という。

 研究者が研究室にこもっていられないのも特徴だ。例えば製銑研究部は社内のすべてのコークス炉、焼結工場、高炉を担当する。製造部と研究所は人事面でも交流しており、人同士のつながりも密だ。ただ現場に近いと目の前の課題に追われてしまいがちだ。そこで研究時間など、リソースの一部を意識的に将来の研究に当てている。

 その一つがマルチマテリアルだ。鋼管と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を組み合わせた水素貯蔵容器を開発した。2018年度の製品化を目指す。薄板とCFRPの複合材も開発が進む。中田理事は「鉄以外の分野とは積極的にアライアンスを結ぶ」という。

 データサイエンスにも力を入れ始めた。膨大な操業データを解析し、機器の故障の前兆を捉える。現場のトラブルを未然に防ぐのが狙いだ。さらに人間工学を取り入れ、保守点検を最適化する。情報科学は未開拓だったが「オープンイノベーションで実用化を加速できそうだ」と期待する。(小寺貴之)
▽所在地=千葉市中央区川崎町1(千葉地区)ほか4地区▽電話=043・262・2435▽主要研究テーマ=商品開発、プロセス技術、共通基盤技術▽研究者数=500人弱(全体)
日刊工業新聞2016年11月15日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
理想としては研究者は基礎科学と製造現場、顧客をつなぐ力を身につけてほしい」と中田理事は言います。ハイテン材の開発だけでなく、顧客にハイテン材の加工法をEVI(EarlyVendorInvolvement)提案しているためです。ハイテン材に限らず、顧客や現場のお困りごとの中に新しいニーズとサイエンスを見つけて、材料開発につなげられれば理想です。 (日刊工業新聞第一産業部・小寺貴之)

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