東芝とWD、メモリー事業売却で対立する「支配権の変更」
「本気の警告だ。係争覚悟でもやる」(東芝幹部)
半導体子会社「東芝メモリ」の売却をめぐる東芝と協業先の米ウエスタンデジタル(WD)との対立は、両社の合弁会社の持ち分の売却(移転)に関する見解の相違が焦点だ。相手の同意なしに第三者に売却できないとするWDに対し、東芝は「支配権の変更」による移転に同意は不要との立場。両者の主張を整理してみた。
東芝は米サンディスク(SD)と2000年からメモリーの開発、生産の両面で提携してきた。16年にWDがSDを買収し、WDがパートナーとなった。特に生産面でのつながりは深く、両社が設立した合弁会社が四日市工場の運営に関わる。東芝側が50・1%、WD側が49・9%を出資する合弁会社は両社のメモリー事業の要だ。
東芝のメモリー事業の一連の売却手続きでは、合弁会社の東芝側の持ち分は2回移転する。1回目は東芝から東芝メモリへ、2回目は東芝メモリから同社を買収する第三者への移転。これらの移転手続きをめぐり、東芝とWDで意見対立が起きている。
両社の合弁契約では「相手の同意なく持ち分を第三者に売却できない」と規定しているが、例外なのが「change of control(支配権の変更)」。合弁会社の主体が買収され、結果的に持ち分の所有者が第三者に移転する場合は、相手の同意は不要としている。
東芝は2月14日にメモリー事業を分社し、株式の過半を売却する方針を示した。東芝幹部は「過半を売る、つまり『支配権の変更』を前提に手続きを進めている。(WD側の同意なしでも)問題はない」とする。
一方、WD側は合弁会社の東芝側の持ち分が、東芝メモリに移る段階から反対している。契約では合弁会社の持ち分を子会社に移転するには相手の同意が必要とするが、「不合理な理由で同意を保留してはいけない」ともあり、基本的にはお互いに容認している。
それでもWD側が異論を唱えるのは、東芝による東芝メモリ設立は第三者への売却が目的との主張に基づく。これを“合理的な理由”に掲げ、東芝から東芝メモリへの持ち分の移転に同意していない模様だ。
支配権の変更を強調する東芝と、支配権の変更に触れず第三者への売却という契約違反を主張するWDの意見は平行線だ。
東芝は合弁契約に規定された支配権の変更の正当性に自信を持っている。WDがSDを買収したケースが支配権の変更に当たるが、東芝は「合意を求められていない」(東芝幹部)ことも根拠だ。「当社の解釈は法律的にまったく問題ない」(同)と自信を示す。
SDは、東芝と合弁契約を交わした00年当時はベンチャー企業だった。投資回収の出口戦略として、SDは他社への身売りを想定していたはず。
企業のM&A(合併・買収)に詳しいファンド関係者は「支配権の変更の規定は、出口戦略を東芝に邪魔されないようにSDが設定したのでは」と推測する。事実なら東芝から身を守る武器が、反対に東芝の武器になるというWDには皮肉な状況だ。
(文=後藤信之)
東芝は米サンディスク(SD)と2000年からメモリーの開発、生産の両面で提携してきた。16年にWDがSDを買収し、WDがパートナーとなった。特に生産面でのつながりは深く、両社が設立した合弁会社が四日市工場の運営に関わる。東芝側が50・1%、WD側が49・9%を出資する合弁会社は両社のメモリー事業の要だ。
東芝のメモリー事業の一連の売却手続きでは、合弁会社の東芝側の持ち分は2回移転する。1回目は東芝から東芝メモリへ、2回目は東芝メモリから同社を買収する第三者への移転。これらの移転手続きをめぐり、東芝とWDで意見対立が起きている。
両社の合弁契約では「相手の同意なく持ち分を第三者に売却できない」と規定しているが、例外なのが「change of control(支配権の変更)」。合弁会社の主体が買収され、結果的に持ち分の所有者が第三者に移転する場合は、相手の同意は不要としている。
東芝は2月14日にメモリー事業を分社し、株式の過半を売却する方針を示した。東芝幹部は「過半を売る、つまり『支配権の変更』を前提に手続きを進めている。(WD側の同意なしでも)問題はない」とする。
一方、WD側は合弁会社の東芝側の持ち分が、東芝メモリに移る段階から反対している。契約では合弁会社の持ち分を子会社に移転するには相手の同意が必要とするが、「不合理な理由で同意を保留してはいけない」ともあり、基本的にはお互いに容認している。
それでもWD側が異論を唱えるのは、東芝による東芝メモリ設立は第三者への売却が目的との主張に基づく。これを“合理的な理由”に掲げ、東芝から東芝メモリへの持ち分の移転に同意していない模様だ。
支配権の変更を強調する東芝と、支配権の変更に触れず第三者への売却という契約違反を主張するWDの意見は平行線だ。
東芝は合弁契約に規定された支配権の変更の正当性に自信を持っている。WDがSDを買収したケースが支配権の変更に当たるが、東芝は「合意を求められていない」(東芝幹部)ことも根拠だ。「当社の解釈は法律的にまったく問題ない」(同)と自信を示す。
SDは、東芝と合弁契約を交わした00年当時はベンチャー企業だった。投資回収の出口戦略として、SDは他社への身売りを想定していたはず。
企業のM&A(合併・買収)に詳しいファンド関係者は「支配権の変更の規定は、出口戦略を東芝に邪魔されないようにSDが設定したのでは」と推測する。事実なら東芝から身を守る武器が、反対に東芝の武器になるというWDには皮肉な状況だ。
(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年5月12日「深層断面」から抜粋