「睡眠支援」の商機を探る家電メーカー
寝具メーカーなどとの異業種連携を加速
家電業界で「睡眠市場」が注目を集めている。睡眠の質を改善したい人や睡眠障害に悩む人が顕在化し、高機能なマットレスなど快適な眠りをサポートする製品へのニーズが高まっているためだ。家電メーカー各社は最適な睡眠環境を整える家電を知ってもらおうと、寝具メーカーなどとの異業種連携を加速している。
パナソニックはスマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)を使って自社のエアコンとシーリングライトを制御し、良好な睡眠と目覚めをサポートするシステムを2月から提供している。
寝返りなど寝苦しさを示す動きをスマホが検知すると室温を下げるほか、起床時間が近づくにつれて室温を上げ、室内も明るくしていく。
パナソニックアプライアンス社商品企画部の菊地真由美氏によると、多くの人が良い睡眠と感じる要因には「途中で目覚めない」「起床時に疲れが残っていない」などがあるという。同社の「睡眠家電」は、これらを実現するよう開発した。
オムロンヘルスケア(京都府向日市)は、就寝前の呼吸をトレーニングすることでスムーズな寝つきを支援する「ねむり時間計」を販売。スマホ用アプリと連動し、眠りの状態の記録や眠りのタイプに応じたアドバイスをする。2012年4月に第1弾となる製品を発売してから、累計約30万台を販売した。
スリープウェル(大阪市北区)は、睡眠時の脳波を測定し睡眠状態を評価する小型脳波計「スリープスコープ」を活用した受託実験事業などを手がける。企業が開発する睡眠促進商品の効果を検証している。
受託実験の顧客の大半は製薬・食品会社だが、家電メーカーからの依頼も複数あるという。吉田政樹社長は「食品・寝具・家電業界などで睡眠市場が盛り上がってきている」と手応えを感じている。
経済協力開発機構(OECD)の国際比較調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間43分と、OECD加盟国で韓国に次ぎ2番目に短い。
「仕事時間は以前とほぼ同じだが、余暇に使う時間が増えた」(パナソニックの菊池氏)のが一因とされる。仕事とプライベートの両立を目指すという社会的な潮流の裏で、睡眠時間が犠牲になっている格好だ。
現在の睡眠市場は、寝具だけで1兆3000億円。これが家電などにも波及すれば、この数倍規模に膨れ上がる。とはいえ寝具と違い「消費者が睡眠の改善のためだけに家電を選ぶことはない」(家電メーカー関係者)のが実情だ。
実際、睡眠家電が寝具ほど注目を浴びているわけでもない。そのため、異業種連携によって睡眠環境への関心を高める取り組みが生まれている。
パナソニックは寝具メーカーの東京西川(東京都中央区)と連携し、東京・日本橋に寝具と睡眠家電を組み合わせて睡眠環境を展示する施設「睡眠環境サポートルーム」を2月に開設した。睡眠の質を決めるのは寝具だけではないと考える東京西川は、パナソニックにとって力強い援軍となっている。
ダイキン工業は昭和西川(同)やライオン、ルネサンスとともに「世界睡眠会議」を16年3月に発足。これまで睡眠にまつわる情報をインターネットやイベント企画を通じて発信してきた。
現在はリコーやワコールホールディングス、フィリップスライティングジャパン(東京都港区)を加えた7社が参加。ダイキンの天野賢二テクノロジー・イノベーション戦略室担当課長は「幅広く睡眠への関心を持ってもらいたい」と活動の趣旨を話す。
ダイキンにとって印象的だったのが「業種が違うと、視点も大きく異なる」(天野氏)ことだという。ワコールならパジャマの体への締め付け感覚、ライオンなら香りの視点から睡眠を研究している。
こうした異業種の視点を、ダイキンの製品開発につなげられないかと、事務系スタッフだけでなく技術者も打ち合わせなどに参加するようにした。異業種連携を製品開発にも生かしていく方針だ。
睡眠には寝室の温度や光、香りなどの環境のほか、寝具との相性や、起きている時間の活動など、多種多様な要因が影響する。家電メーカー単独の製品開発には限界があるため、異業種連携は今後も活発化しそうだ。
それでは睡眠の質をどのように評価するのか。パナソニックは睡眠評価研究機構(東京都中央区)の白川修一郎代表の協力を得ながら、睡眠中の体の動きなどを分析し、自社の家電と眠りの深さとの関係を調査している。6月末の日本睡眠学会で結果を発表する予定だ。
スリープウェルの吉田社長は「睡眠に関しては適正な指標がないため、眉唾の商品が多く市場に出回っているのでは」と話し、正確な分析が必要との認識を示す。
また商品の宣伝に「睡眠の質が高まる」などとうたうと、医薬品や医療機器に関わる法規制に抵触する可能性がある。
(文=大阪・平岡乾、同・大城蕗子、村上毅)
パナソニックはスマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)を使って自社のエアコンとシーリングライトを制御し、良好な睡眠と目覚めをサポートするシステムを2月から提供している。
寝返りなど寝苦しさを示す動きをスマホが検知すると室温を下げるほか、起床時間が近づくにつれて室温を上げ、室内も明るくしていく。
パナソニックアプライアンス社商品企画部の菊地真由美氏によると、多くの人が良い睡眠と感じる要因には「途中で目覚めない」「起床時に疲れが残っていない」などがあるという。同社の「睡眠家電」は、これらを実現するよう開発した。
オムロンヘルスケア(京都府向日市)は、就寝前の呼吸をトレーニングすることでスムーズな寝つきを支援する「ねむり時間計」を販売。スマホ用アプリと連動し、眠りの状態の記録や眠りのタイプに応じたアドバイスをする。2012年4月に第1弾となる製品を発売してから、累計約30万台を販売した。
スリープウェル(大阪市北区)は、睡眠時の脳波を測定し睡眠状態を評価する小型脳波計「スリープスコープ」を活用した受託実験事業などを手がける。企業が開発する睡眠促進商品の効果を検証している。
受託実験の顧客の大半は製薬・食品会社だが、家電メーカーからの依頼も複数あるという。吉田政樹社長は「食品・寝具・家電業界などで睡眠市場が盛り上がってきている」と手応えを感じている。
経済協力開発機構(OECD)の国際比較調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間43分と、OECD加盟国で韓国に次ぎ2番目に短い。
「仕事時間は以前とほぼ同じだが、余暇に使う時間が増えた」(パナソニックの菊池氏)のが一因とされる。仕事とプライベートの両立を目指すという社会的な潮流の裏で、睡眠時間が犠牲になっている格好だ。
現在の睡眠市場は、寝具だけで1兆3000億円。これが家電などにも波及すれば、この数倍規模に膨れ上がる。とはいえ寝具と違い「消費者が睡眠の改善のためだけに家電を選ぶことはない」(家電メーカー関係者)のが実情だ。
実際、睡眠家電が寝具ほど注目を浴びているわけでもない。そのため、異業種連携によって睡眠環境への関心を高める取り組みが生まれている。
パナソニックは寝具メーカーの東京西川(東京都中央区)と連携し、東京・日本橋に寝具と睡眠家電を組み合わせて睡眠環境を展示する施設「睡眠環境サポートルーム」を2月に開設した。睡眠の質を決めるのは寝具だけではないと考える東京西川は、パナソニックにとって力強い援軍となっている。
ダイキン工業は昭和西川(同)やライオン、ルネサンスとともに「世界睡眠会議」を16年3月に発足。これまで睡眠にまつわる情報をインターネットやイベント企画を通じて発信してきた。
現在はリコーやワコールホールディングス、フィリップスライティングジャパン(東京都港区)を加えた7社が参加。ダイキンの天野賢二テクノロジー・イノベーション戦略室担当課長は「幅広く睡眠への関心を持ってもらいたい」と活動の趣旨を話す。
ダイキンにとって印象的だったのが「業種が違うと、視点も大きく異なる」(天野氏)ことだという。ワコールならパジャマの体への締め付け感覚、ライオンなら香りの視点から睡眠を研究している。
こうした異業種の視点を、ダイキンの製品開発につなげられないかと、事務系スタッフだけでなく技術者も打ち合わせなどに参加するようにした。異業種連携を製品開発にも生かしていく方針だ。
睡眠には寝室の温度や光、香りなどの環境のほか、寝具との相性や、起きている時間の活動など、多種多様な要因が影響する。家電メーカー単独の製品開発には限界があるため、異業種連携は今後も活発化しそうだ。
それでは睡眠の質をどのように評価するのか。パナソニックは睡眠評価研究機構(東京都中央区)の白川修一郎代表の協力を得ながら、睡眠中の体の動きなどを分析し、自社の家電と眠りの深さとの関係を調査している。6月末の日本睡眠学会で結果を発表する予定だ。
スリープウェルの吉田社長は「睡眠に関しては適正な指標がないため、眉唾の商品が多く市場に出回っているのでは」と話し、正確な分析が必要との認識を示す。
また商品の宣伝に「睡眠の質が高まる」などとうたうと、医薬品や医療機器に関わる法規制に抵触する可能性がある。
(文=大阪・平岡乾、同・大城蕗子、村上毅)
日刊工業新聞2017年5月11日