「未知との遭遇」に挑む人びと。深宇宙・深海探査の今

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NASAが開発中の大型ロケット「SLS」(NASA提供)
 「人には未知の場所に行きたいという本能がある」―。2016年10月に国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在を終えた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士はこう語る。古くから人類は危険を冒して、海洋や陸地を進み、新しい世界を切り開いてきた。科学技術の進展で、我々が知らない宇宙や深海の扉が開かれようとしている。

月の裏側へ


 宇宙への関心の高さは万国共通。世界では多くの宇宙探査プロジェクトが進み、有人宇宙探査では米航空宇宙局(NASA)の探査プロジェクトに注目が集まる。

 NASAは新型宇宙船「オリオン」を搭載した新型大型ロケット「SLS」を18年に打ち上げる計画だ。将来、火星に向けた有人探査計画を公表しており注目を集めている。

 SLSに相乗りし、大気圏より外側の「深宇宙」を探査実証する計画も進行中だ。東京大学の中須賀真一教授と船瀬龍准教授、JAXAなどは、地球から見て月の裏側に超小型深宇宙探査機「エクレウス」を航行させる計画を進める。

 太陽と地球と月の圏内での軌道操作技術を実証する。「スイングバイ」と呼ばれる重力を利用して軌道を変更する技術で目的地を目指す。船瀬准教授は、「『深宇宙港』を基点とする探査のために技術を確立したい」と意気込む。

ロボット利用


 火星圏探査では、欧州との共同事業が進む。4月、JAXAとフランス国立宇宙研究センター(CNES)は、火星の2衛星「フォボス」「ダイモス」からサンプルを採取し地球に持ち帰る計画に関して協定を結んだ。
火星衛星探査機「MMX」の想像図(JAXA提供)

 ミッションでは火星衛星ができた原因の解明や生命居住可能な環境の形成過程の理解につながることが期待されている。さらに火星圏への宇宙航行技術や、ロボットを利用した衛星表面のサンプル採取技術などの確立を目指す。

 JAXAの奥村直樹理事長は、「火星衛星探査は挑戦的なミッションだが、ぜひ成功させたい」と深宇宙探査技術の確立に意欲を燃やしている。24年9月に打ち上げ、25年8月に火星圏に到着する予定だ。

はやぶさ後継機


 有機物や水を含む鉱物が多いと考えられている小惑星「リュウグウ」に向けて小惑星探査機「はやぶさ2」が航行中だ。10年に小惑星「イトカワ」からのサンプル採取に成功し、地球帰還に成功した「はやぶさ」の後継機だ。
小惑星「リュウグウ」に向けて飛行中の探査機「はやぶさ2」

 リュウグウで採取したサンプルを分析すれば、太陽系の有機物や水の由来、生命の起源に迫るような成果を得られるかもしれない。

 14年12月に国産ロケット「H2A」で打ち上げられたはやぶさ2は、4月に太陽と地球からの引力と遠心力とが釣り合う地点の一つ「L5点」を通過した。この地点には多くの小惑星群が存在している可能性があり、研究チームは飛行中に撮影を試みた。

 撮影画像はまだ確認していないが、数カ月以内をめどに画像データを地上に下ろし確認する。画像から小天体を探す経験は、リュウグウの周りの衛星や飛行物体を確認するための練習になる。リュウグウ到達までの1年余り、ぬかりなく準備を進めている。

 はやぶさ2は18年6月にもリュウグウに到着し、サンプル採取後、20年末ごろ地球に帰還する計画だ。


深海には宝の山?


 一方の海洋。日本は四方を海に囲まれ、日本海溝や南海トラフ、南西諸島海溝などが存在し、排他的経済水域(EEZ)内の面積の半分が水深4000メートル以上の深海を占める。海には魚介類だけでなく、レアメタル(希少金属)などを含む鉱物資源、創薬の標的となる有用な生理活性物質を作る細菌など宝の山が広がっているかもしれない。

 そうした海のフロンティアに挑む乗り物として活躍するのは、海洋研究開発機構が所有する有人潜水調査船「しんかい6500」。最大水深6500メートルへの潜航が可能で、潜水深度は中国の蛟竜(こうりゅう)号の水深7000メートルに次ぐ世界第2位。機体の全長9・7メートル、幅2・8メートル。構成員はパイロット2人と研究者の計3人となっている。

 しんかい6500の潜航海域の半分以上は日本周辺で、それ以外に西太平洋やインド洋など世界の海に潜っている。16年5月時点で1446回の調査潜航を行ってきた。
しんかい6500(海洋機構提供)


9割手付かず


 だが海底はまだ分からないことだらけ。しんかい6500の初代潜航長を務めた田代省三広報部長は、「しんかいで探査できている海域は1割程度。知らない海域のほうが多い」と強調する。海にはパイロットや研究者も知らない未知の領域が広がっている。

 16年8月、文部科学省は今後の深海探査システムについて報告書をまとめた。遠隔操作型無人探査機(ROV)や自律型無人探査機(AUV)を利用し水深7000メートルより深い海域へのアクセス能力を確立するとしている。さらに同海域への有人探査機の開発についても検討する方向性を示しており、今後の展開が期待される。
(文=冨井哲雄)

日刊工業新聞2017年5月2日

COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局DX編集部
記者

民間企業の宇宙参入がますます増え、注目度も高まっています。一般には縁がない、果てしないと思われていた宇宙や深海を活用できる日はそう遠くないのかもしれません。

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