日本ブランド、インド攻略4つのカギ
市場をリードするのはもはや韓国勢ではなく中国メーカー
この原稿はインドで書いている。10年間で4回目の調査であり、とてもインドの専門家と言える立場ではない。だが2010年以降、毎年8―10%の経済成長をしているインドの変容は素人目にも手に取るように分かる。
まず、道路が良くなった。デリーからアグラまで高速道路などが整備され、企業が集積するグルガオンへも行きやすくなった。運転手が交通ルールを守るようになった。赤信号で止まるようになったし、片道2車線のところに5台並んで走っていたのが、3―4台に減った。
大きなショッピングモールなどの近代的小売業も発達し、富裕層や上位中間層においては、中国やアジア全般で見られるような消費社会に移行してきた。そして、中国の携帯電話メーカー「OPPO」の存在感も際立っている。
OPPOは16年、中国本土でトップの携帯電話メーカーになり一躍注目された。緑色無地の背景に白抜きでOPPOと書かれた看板が至るところにあり、サムスン、LGの韓国2社を上回るほどである。
街を歩くとマクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどのファストフードの看板が多い。ショッピングモールへ行くと、H&MやZARA、GAPなどのアパレルや、ナイキ、アディダスなどのスポーツ用品、スターバックスなどのコーヒーショップが必ずといっていいほど出店している。
このようなグローバルブランドに対して、日本企業はソニーやカシオ、アシックスなど一部の企業が散見できる程度である。パンカジ・ゲマワット教授は、文化(Culture)・制度(Administrative)・地理(Geographical)・経済(Economic)のそれぞれの頭文字をとった「CAGE分析」で、文化や制度など各項目における二国間の距離を問題にしたが、これらの距離が遠いと感じる日本企業にとっては“心理的距離”も遠いのであろうか。
インド進出で成功するためには、第1に、このような心理的距離を克服する経営者の強い意志が、東アジアや東南アジア諸国における事業展開以上に必要でる。自動車のマルチスズキの成功は、スズキの鈴木修会長の強い意志に加え、迅速な決断と進出のタイミングに基づいている。
ヤクルト本社の場合も、予防医学の普及という強い意志に基づき、参入が難しい途上国に多く進出し、インド市場にも果敢に挑戦している。
インド進出のポイントの第2は、参入方式について十分に検討し、かつ事業の進捗(しんちょく)に合わせて柔軟に形を変更することだ。ルームエアコンの販売で成功しているダイキン工業は2000年にインドのシュリラム社との合弁で進出したが、04年には独資に変更している。
ホンダも84年設立のヒーロー社との合弁を10年に解消し、独資として市場開拓に努めている。スズキはグジャラート州に独資でインド第3工場を設立した。
そして第3のポイントは、自らのチャネル構築が極めて重要であるということだ。マルチスズキは独自のチャネルの数も一番多いが、サービス拠点の数も一番多い。
カシオは百貨店やショッピングモールにカシオ専売店を構築することでブランド力を保っている。ダイキンも基本的に量販店販売に頼らず、自ら構築したチャネルで勝負している。
最後のポイントは、現地ニーズに適合した製品開発が重要であることだ。インド市場は文化や制度など日本市場と異なることが多いため、開発拠点を現地に設け、現地人による開発を推進する必要がある。
マルチスズキは、高級路線の販売系列「NEXA(ネクサ)」を15年7月に立ち上げ、「S―Cross」、「Baleno」、「Ignis」の3車種を展開し好評を得ている。
以上のことは、どこの海外市場攻略においても重要なことだ。特にインド市場は、東アジアや東南アジア諸国以上に日本市場との異質性が高く、多様性にあふれている。進出における重要なポイントとしてこれらを検討する必要がある。
(文=大石芳裕・明治大学経営学部教授)
【略歴】
大石芳裕(おおいし・よしひろ)84年(昭59)九大院経済学研究科博士課程中退。佐賀大経済学部助教授、米コロラド大客員研究員を経て現職。「グローバル・マーケティング研究会」を主催。著書に『実践的グローバル・マーケティング』など。>
まず、道路が良くなった。デリーからアグラまで高速道路などが整備され、企業が集積するグルガオンへも行きやすくなった。運転手が交通ルールを守るようになった。赤信号で止まるようになったし、片道2車線のところに5台並んで走っていたのが、3―4台に減った。
大きなショッピングモールなどの近代的小売業も発達し、富裕層や上位中間層においては、中国やアジア全般で見られるような消費社会に移行してきた。そして、中国の携帯電話メーカー「OPPO」の存在感も際立っている。
OPPOは16年、中国本土でトップの携帯電話メーカーになり一躍注目された。緑色無地の背景に白抜きでOPPOと書かれた看板が至るところにあり、サムスン、LGの韓国2社を上回るほどである。
街を歩くとマクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどのファストフードの看板が多い。ショッピングモールへ行くと、H&MやZARA、GAPなどのアパレルや、ナイキ、アディダスなどのスポーツ用品、スターバックスなどのコーヒーショップが必ずといっていいほど出店している。
このようなグローバルブランドに対して、日本企業はソニーやカシオ、アシックスなど一部の企業が散見できる程度である。パンカジ・ゲマワット教授は、文化(Culture)・制度(Administrative)・地理(Geographical)・経済(Economic)のそれぞれの頭文字をとった「CAGE分析」で、文化や制度など各項目における二国間の距離を問題にしたが、これらの距離が遠いと感じる日本企業にとっては“心理的距離”も遠いのであろうか。
心理的距離を克服する経営者の強い意志
インド進出で成功するためには、第1に、このような心理的距離を克服する経営者の強い意志が、東アジアや東南アジア諸国における事業展開以上に必要でる。自動車のマルチスズキの成功は、スズキの鈴木修会長の強い意志に加え、迅速な決断と進出のタイミングに基づいている。
ヤクルト本社の場合も、予防医学の普及という強い意志に基づき、参入が難しい途上国に多く進出し、インド市場にも果敢に挑戦している。
インド進出のポイントの第2は、参入方式について十分に検討し、かつ事業の進捗(しんちょく)に合わせて柔軟に形を変更することだ。ルームエアコンの販売で成功しているダイキン工業は2000年にインドのシュリラム社との合弁で進出したが、04年には独資に変更している。
ホンダも84年設立のヒーロー社との合弁を10年に解消し、独資として市場開拓に努めている。スズキはグジャラート州に独資でインド第3工場を設立した。
そして第3のポイントは、自らのチャネル構築が極めて重要であるということだ。マルチスズキは独自のチャネルの数も一番多いが、サービス拠点の数も一番多い。
カシオは百貨店やショッピングモールにカシオ専売店を構築することでブランド力を保っている。ダイキンも基本的に量販店販売に頼らず、自ら構築したチャネルで勝負している。
最後のポイントは、現地ニーズに適合した製品開発が重要であることだ。インド市場は文化や制度など日本市場と異なることが多いため、開発拠点を現地に設け、現地人による開発を推進する必要がある。
マルチスズキは、高級路線の販売系列「NEXA(ネクサ)」を15年7月に立ち上げ、「S―Cross」、「Baleno」、「Ignis」の3車種を展開し好評を得ている。
以上のことは、どこの海外市場攻略においても重要なことだ。特にインド市場は、東アジアや東南アジア諸国以上に日本市場との異質性が高く、多様性にあふれている。進出における重要なポイントとしてこれらを検討する必要がある。
(文=大石芳裕・明治大学経営学部教授)
大石芳裕(おおいし・よしひろ)84年(昭59)九大院経済学研究科博士課程中退。佐賀大経済学部助教授、米コロラド大客員研究員を経て現職。「グローバル・マーケティング研究会」を主催。著書に『実践的グローバル・マーケティング』など。>
日刊工業新聞2017年5月1日