8割の人が「日本ワイン」の品質向上を実感。その裏に自社畑あり
国内メーカーが原料の安定確保へ。品種も多彩に
メルシャンがまとめた日本ワインに関する消費者の意識調査によると、52・2%が外国産ワインより値段が多少高くとも「日本ワインを選んで試してみたい」と答えた。「日本ワインの品質」について、80・8%が「向上している」と回答し、日本ワインへの評価と関心が高まっていることがうかがえる結果がでた。
日本ワインは国産ブドウ100%を原料に、日本国内で醸造されたワイン。国際ワインコンクールで上位入賞を果たすなど、近年はレベルアップが著しい。
日本ワインを飲んだ経験があると答えた割合は88・8%。男性の比率が女性より多く、年代は50―60代が9割以上を占めた。
飲む理由は「おいしいから」のほか、「産地を応援したい」「日本ワインを応援したい」といった回答も多かった。日本ワインを飲まない理由は「選び方がわからない」が21・1%、「どこで飲めるのかがわからない」が18・9%。調査は全国の20代以上の男女800人が協力した。
国内ワイン大手が、原料となるブドウの自社畑拡大を急いでいる。メルシャンは2027年までに自社畑の合計面積を60万平方メートルに増やす予定で、アサヒビールも北海道に自社畑の取得を計画する。サントリーワインインターナショナルとサッポロビールも、それぞれ自社畑や協働契約栽培農家といった事業基盤を急ピッチで広げる。国産原料100%を掲げる「日本ワイン」の原料を安定して確保すると同時に、海外メーカーと提携する交渉に自前の栽培技術が欠かせないことが背景にある。
日本ワイン「サントネージュ」ブランドを展開するアサヒビールは、北海道で近く自社畑を取得する予定。山梨県山梨市に自社畑、山形県上山地域に契約農家はあるが、いずれも規模は小さい。
ワイン事業を拡大し、業界内で存在感を高めるためには「自社畑が不可欠」(平野伸一社長)だ。北海道では赤ワイン向けの高級ブドウ品種「ピノ・ノワール」を栽培する計画。現在の「甲州」や「マスカット・ベーリーA」に加え、アイテムの戦略を強化できる。
国内シェア首位のメルシャンは、山梨県甲州市で4万平方メートルの自社畑を開園したのに続き、長野県塩尻市の9万平方メートルの畑で、近く苗木植えの作業に入る。
長野県内には他に、面積約20万平方メートルの椀子(まりこ)ヴィンヤードが上田市に、山梨県には甲州市に同1万5000平方メートルの城の平ヴィンヤードの自社畑があり、メルローやシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの品種を栽培。ワインは産地だけでなく、標高や土壌などの条件の違いにより「それぞれ個性が生まれる」(横山清社長)ため、畑の拡大とともに商品の充実に生かす。
サントリーワインインターナショナルは登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市)の25万平方メートルの自社畑で、品質向上と収穫量拡大に取り組む。
代表品種である甲州の収穫量を、22年に現在の約5倍に増やす計画。並行して長野県塩尻市で契約農家を増やし、調達能力を高める。山崎雄嗣社長は「高齢化で後継者がいなくなった耕作放棄地でブドウ栽培を始めるなど、行政と連携して進めていきたい」考えだ。
サッポロビールは長野県に面積約12万平方メートルの安曇野池田ヴィンヤード(池田町)、同3万平方メートルの長野古里ぶどう園(長野市)の二つの自社畑と、北海道・山梨県・岡山県を加えた4エリアに契約農家を持つ。
時松浩取締役常務執行役員は「南北に広がる産地から品質、風味ともに多彩なワインを提供できるのが当社の強み」と、胸を張る。看板ブランドである「グランポレール」の販売数量は、16年に12年の約2・2倍に拡大した。
日本ワインの需要は、消費者の舌が肥えるにつれ高まっている。海外での人気や、20年に東京五輪・パラリンピックが開かれる追い風もある。一方で、ブドウの苗木は植え付けから実がなるまでに3―5年必要で、業績への貢献に時間がかかる。
また、収穫作業の人手が不足している問題もある。農地と別に苗木が不足している現状も、規模拡大に影を落とす。
ワインはビールやウイスキー以上に、原料のブドウが味に与える影響が大きい。海外の有名ワイナリーも、ブドウの品質向上に力を注いでいる。
自社畑は、ワインの商品力を高めるために不可欠な事業基盤だ。商品力のあるワインを持つ海外勢との提携は、国内メーカーにとって重要な経営戦略。海外勢も日本の技術に関心を示している。国内大手各社が自社畑を強化する背景には、栽培ノウハウの蓄積を通じ交渉力を高めようとの思惑もある。
(文=嶋田歩)
日本ワインは国産ブドウ100%を原料に、日本国内で醸造されたワイン。国際ワインコンクールで上位入賞を果たすなど、近年はレベルアップが著しい。
日本ワインを飲んだ経験があると答えた割合は88・8%。男性の比率が女性より多く、年代は50―60代が9割以上を占めた。
飲む理由は「おいしいから」のほか、「産地を応援したい」「日本ワインを応援したい」といった回答も多かった。日本ワインを飲まない理由は「選び方がわからない」が21・1%、「どこで飲めるのかがわからない」が18・9%。調査は全国の20代以上の男女800人が協力した。
日刊工業新聞2017年4月28日
自前の栽培技術を磨く
国内ワイン大手が、原料となるブドウの自社畑拡大を急いでいる。メルシャンは2027年までに自社畑の合計面積を60万平方メートルに増やす予定で、アサヒビールも北海道に自社畑の取得を計画する。サントリーワインインターナショナルとサッポロビールも、それぞれ自社畑や協働契約栽培農家といった事業基盤を急ピッチで広げる。国産原料100%を掲げる「日本ワイン」の原料を安定して確保すると同時に、海外メーカーと提携する交渉に自前の栽培技術が欠かせないことが背景にある。
日本ワイン「サントネージュ」ブランドを展開するアサヒビールは、北海道で近く自社畑を取得する予定。山梨県山梨市に自社畑、山形県上山地域に契約農家はあるが、いずれも規模は小さい。
ワイン事業を拡大し、業界内で存在感を高めるためには「自社畑が不可欠」(平野伸一社長)だ。北海道では赤ワイン向けの高級ブドウ品種「ピノ・ノワール」を栽培する計画。現在の「甲州」や「マスカット・ベーリーA」に加え、アイテムの戦略を強化できる。
国内シェア首位のメルシャンは、山梨県甲州市で4万平方メートルの自社畑を開園したのに続き、長野県塩尻市の9万平方メートルの畑で、近く苗木植えの作業に入る。
長野県内には他に、面積約20万平方メートルの椀子(まりこ)ヴィンヤードが上田市に、山梨県には甲州市に同1万5000平方メートルの城の平ヴィンヤードの自社畑があり、メルローやシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの品種を栽培。ワインは産地だけでなく、標高や土壌などの条件の違いにより「それぞれ個性が生まれる」(横山清社長)ため、畑の拡大とともに商品の充実に生かす。
サントリーワインインターナショナルは登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市)の25万平方メートルの自社畑で、品質向上と収穫量拡大に取り組む。
代表品種である甲州の収穫量を、22年に現在の約5倍に増やす計画。並行して長野県塩尻市で契約農家を増やし、調達能力を高める。山崎雄嗣社長は「高齢化で後継者がいなくなった耕作放棄地でブドウ栽培を始めるなど、行政と連携して進めていきたい」考えだ。
サッポロビールは長野県に面積約12万平方メートルの安曇野池田ヴィンヤード(池田町)、同3万平方メートルの長野古里ぶどう園(長野市)の二つの自社畑と、北海道・山梨県・岡山県を加えた4エリアに契約農家を持つ。
時松浩取締役常務執行役員は「南北に広がる産地から品質、風味ともに多彩なワインを提供できるのが当社の強み」と、胸を張る。看板ブランドである「グランポレール」の販売数量は、16年に12年の約2・2倍に拡大した。
日本ワインの需要は、消費者の舌が肥えるにつれ高まっている。海外での人気や、20年に東京五輪・パラリンピックが開かれる追い風もある。一方で、ブドウの苗木は植え付けから実がなるまでに3―5年必要で、業績への貢献に時間がかかる。
また、収穫作業の人手が不足している問題もある。農地と別に苗木が不足している現状も、規模拡大に影を落とす。
ワインはビールやウイスキー以上に、原料のブドウが味に与える影響が大きい。海外の有名ワイナリーも、ブドウの品質向上に力を注いでいる。
自社畑は、ワインの商品力を高めるために不可欠な事業基盤だ。商品力のあるワインを持つ海外勢との提携は、国内メーカーにとって重要な経営戦略。海外勢も日本の技術に関心を示している。国内大手各社が自社畑を強化する背景には、栽培ノウハウの蓄積を通じ交渉力を高めようとの思惑もある。
(文=嶋田歩)
2017年3月17日