工場誘致と観光客数アップに固執する残念な地方創生
文=田鹿倫基 勘、思い込み、経験、思いつきで失敗する
残念な地方創生シリーズ、最終回は「個々(KOKO)の取り組みに固執する」ことについて書きたいと思います。個々の取り組みとは全体像を捉えずに各プレイヤーも連携せずに個別バラバラな取り組み、ということはもちろんですが、もう1つ意味があります。それはKOKOの取り組みです。勘、思い込み、経験、思いつき、のそれぞれの頭文字をとったKOKO(個々)の取り組みです。
自治体が取り組む施策にはたくさんのKOKOの取り組みがあります。イメージしやいところでいくと、ゆるキャラやPR動画がこれに当たります。
ご当地ゆるキャラを作ることが地方創生につながるのか。PR動画を作ることが住民にどのようなメリットになるのか。例えば、移住促進PR動画を公開したところ瞬く間に話題になり、再生回数は100万回を超え、全国放送でも何回も取り上げられた自治体があります。
では、その後、移住者の数に変化はあったのでしょうか?統計を見る限りは影響はほとんどありません。というか、実際は動画を公開する前よりもその自治体への転入者は減少しています。
作られた動画のクオリティーはとても高かったし、面白い仕掛けもされていて、つい何度も見てしまいます。動画の再生回数を増やす、という観点からすると本当に素晴らしい大成功だったと思います。
ただ、これはあくまで動画のできが素晴らしかっただけであり、移住には今のところつながっていません。「問題」と「課題」を混同してしまう残念な地方創生でも書きましたが、移住者を増やすために設定した課題が移住PR動画をバズらせる、ということの是非から検証する必要があります。
全国の自治体がこぞってPR動画を作っていますが、これでは地方創生ではなく、D通創生ですね(苦笑)。動画がたくさん再生されてPRできれば移住者が増える、という「勘」とか「思いつき」からできた施策といえるでしょう。
その他にもKOKOの施策はあります。観光客数を増やす、工場の誘致もその例です。観光客を増やしても、工場を誘致しても地域の活性化になるとは限らない、と言われると意外に思われる方もいると思います。しかし、これも「観光客が増えれば地域が活性化する」「工場を誘致すると地方創生につながる」という思い込みがあるからこそ、意外に感じるのです。
ではなぜ観光客数を増やしても地域の活性化につながるとは限らないのか。活性化の定義をどうするかという論点もありますが、ここでは第二回の「目的」と「目標」が乖離してしまう残念な地方創生でも書いた「人口ピラミッドをドラム缶状にする」ことを活性化とします。
人口ピラミッドの歪みを整えることで、その地域の持続可能性を高めます。例えば、年間2000万人の観光客が訪れ、たびたび人気の温泉地ランキングでもトップに輝く箱根温泉がある箱根町。平日でも箱根湯本駅周辺はたくさんの観光客で賑わっています。
ではさぞかし箱根町は活性化しているのだろう、と思って人口動態を見てみると、中学、高校を卒業した若者がどんどん町外に流出しています。箱根町の人口流出率は神奈川県でトップ。ものすごい勢いで若者が流出し、戻って来ません。
この背景は観光産業が地元経済への波及効果を産んでいないことが要因として挙げられます。年間2,000万人の観光客が来て、温泉を楽しみ、飲み食いをして、宿泊するわけですが、食事は町外の食材が使われ、東京資本のホテルに泊まり、新宿本社の小田急電鉄のロマンスカーで往復する。
それではせっかく箱根で消費されたお金がすぐに町外に流出してしまい、結果としてその他の産業に波及せず、雇用が生まれないため、若者が町外に流出していくのです(箱根で働く人の多くは町外から勤務しています)。
つまり、本当に観光で雇用を作り地方創生につなげるのであれば、観光客数だけでなく、一人あたりの消費単価、域内調達率(顧客に提供された商品・サービスがどれくらい域内で付加価値が付けれられているか)の3つの因子を見ることが大事になるのです。観光客がが増えれば活性化するんだ!というのはまさに思い込みや経験の類の思考です。
工場誘致に関しても同じことが言えます。工場誘致をすると多くの雇用が生まれますし、そこに付随する関連産業も立地するので、雇用につながるからいいことだ、と考えられている節があります。
ではそもそも、①地域は雇用を作る必要があるのか②製造業は雇用吸収力が高いのか、の2点を考える必要があります。次のグラフは私が住む日南市の職種別の求人数と求職者数のグラフです。
見てのとおり、事務職以外の職種はすべて求人数が求職者数を上回っています。つまり、事務職以外の職種は人手不足の状況で雇用をしたいけど、そもそも働き手が見つからない、という状況に陥っているわけです。
これは景気がいいからではなく、少子化と若者が市外に流出した結果、生産年齢人口が縮小していることが原因です。製造業についてはその傾向が顕著で、私も複数の製造業の会社の社長さんから「人手が足りないからなんとかしてくれ!」と言われます。
このように、ただでさえ地場企業は人手不足に頭を悩ませているのに、そこに自治体が工場を誘致したらどうなるか。さらに人手不足の状態に陥り、地場企業の経営を圧迫してしまいます。
この職種別の求人数、求職者数のグラフは日南市と串間市をあわせたのものですが、全国の地方都市は同じような傾向になっています。
工場を誘致すると若者が働いて地域が活性化するんだ!というのは若者がたくさんいた昔であれば当てはまりますが、現代では事情が大きく変わっています。まさに経験と思い込みによる施策です。
このようにゆるキャラやPR動画だけでなく、地域の活性化に直結すると思われてた観光客増加や工場誘致も現在の環境だと逆に地域の重荷になってしまうことがあるのです。
行政の意思決定者は基本的に50歳以上の経験豊富な方がされることが多いのですが、その経験がときには思い込みにかわり、経験から来る勘や思いつきによって施策が行われることがあります。
施策には税金が使われ、行政職員の人件費も使われます。だからこそ、勘と思い込みと経験と思いつきによる取り組み、通称個々(KOKO)の取り組みからいち早く脱却し、データやエビデンスにもとづき、ロジカルに施策を組み立てて行くことが大切なのです。
ゆるキャラ動画、再生100万回の意味
自治体が取り組む施策にはたくさんのKOKOの取り組みがあります。イメージしやいところでいくと、ゆるキャラやPR動画がこれに当たります。
ご当地ゆるキャラを作ることが地方創生につながるのか。PR動画を作ることが住民にどのようなメリットになるのか。例えば、移住促進PR動画を公開したところ瞬く間に話題になり、再生回数は100万回を超え、全国放送でも何回も取り上げられた自治体があります。
では、その後、移住者の数に変化はあったのでしょうか?統計を見る限りは影響はほとんどありません。というか、実際は動画を公開する前よりもその自治体への転入者は減少しています。
作られた動画のクオリティーはとても高かったし、面白い仕掛けもされていて、つい何度も見てしまいます。動画の再生回数を増やす、という観点からすると本当に素晴らしい大成功だったと思います。
ただ、これはあくまで動画のできが素晴らしかっただけであり、移住には今のところつながっていません。「問題」と「課題」を混同してしまう残念な地方創生でも書きましたが、移住者を増やすために設定した課題が移住PR動画をバズらせる、ということの是非から検証する必要があります。
全国の自治体がこぞってPR動画を作っていますが、これでは地方創生ではなく、D通創生ですね(苦笑)。動画がたくさん再生されてPRできれば移住者が増える、という「勘」とか「思いつき」からできた施策といえるでしょう。
活性化するという思い込み
その他にもKOKOの施策はあります。観光客数を増やす、工場の誘致もその例です。観光客を増やしても、工場を誘致しても地域の活性化になるとは限らない、と言われると意外に思われる方もいると思います。しかし、これも「観光客が増えれば地域が活性化する」「工場を誘致すると地方創生につながる」という思い込みがあるからこそ、意外に感じるのです。
ではなぜ観光客数を増やしても地域の活性化につながるとは限らないのか。活性化の定義をどうするかという論点もありますが、ここでは第二回の「目的」と「目標」が乖離してしまう残念な地方創生でも書いた「人口ピラミッドをドラム缶状にする」ことを活性化とします。
人口ピラミッドの歪みを整えることで、その地域の持続可能性を高めます。例えば、年間2000万人の観光客が訪れ、たびたび人気の温泉地ランキングでもトップに輝く箱根温泉がある箱根町。平日でも箱根湯本駅周辺はたくさんの観光客で賑わっています。
箱根は人口流出が神奈川県でトップ
ではさぞかし箱根町は活性化しているのだろう、と思って人口動態を見てみると、中学、高校を卒業した若者がどんどん町外に流出しています。箱根町の人口流出率は神奈川県でトップ。ものすごい勢いで若者が流出し、戻って来ません。
この背景は観光産業が地元経済への波及効果を産んでいないことが要因として挙げられます。年間2,000万人の観光客が来て、温泉を楽しみ、飲み食いをして、宿泊するわけですが、食事は町外の食材が使われ、東京資本のホテルに泊まり、新宿本社の小田急電鉄のロマンスカーで往復する。
それではせっかく箱根で消費されたお金がすぐに町外に流出してしまい、結果としてその他の産業に波及せず、雇用が生まれないため、若者が町外に流出していくのです(箱根で働く人の多くは町外から勤務しています)。
つまり、本当に観光で雇用を作り地方創生につなげるのであれば、観光客数だけでなく、一人あたりの消費単価、域内調達率(顧客に提供された商品・サービスがどれくらい域内で付加価値が付けれられているか)の3つの因子を見ることが大事になるのです。観光客がが増えれば活性化するんだ!というのはまさに思い込みや経験の類の思考です。
工場誘致に関しても同じことが言えます。工場誘致をすると多くの雇用が生まれますし、そこに付随する関連産業も立地するので、雇用につながるからいいことだ、と考えられている節があります。
「人手が足りないからなんとかしてくれ!」
ではそもそも、①地域は雇用を作る必要があるのか②製造業は雇用吸収力が高いのか、の2点を考える必要があります。次のグラフは私が住む日南市の職種別の求人数と求職者数のグラフです。
見てのとおり、事務職以外の職種はすべて求人数が求職者数を上回っています。つまり、事務職以外の職種は人手不足の状況で雇用をしたいけど、そもそも働き手が見つからない、という状況に陥っているわけです。
これは景気がいいからではなく、少子化と若者が市外に流出した結果、生産年齢人口が縮小していることが原因です。製造業についてはその傾向が顕著で、私も複数の製造業の会社の社長さんから「人手が足りないからなんとかしてくれ!」と言われます。
このように、ただでさえ地場企業は人手不足に頭を悩ませているのに、そこに自治体が工場を誘致したらどうなるか。さらに人手不足の状態に陥り、地場企業の経営を圧迫してしまいます。
この職種別の求人数、求職者数のグラフは日南市と串間市をあわせたのものですが、全国の地方都市は同じような傾向になっています。
工場を誘致すると若者が働いて地域が活性化するんだ!というのは若者がたくさんいた昔であれば当てはまりますが、現代では事情が大きく変わっています。まさに経験と思い込みによる施策です。
「経験」が地域活性化の重荷に
このようにゆるキャラやPR動画だけでなく、地域の活性化に直結すると思われてた観光客増加や工場誘致も現在の環境だと逆に地域の重荷になってしまうことがあるのです。
行政の意思決定者は基本的に50歳以上の経験豊富な方がされることが多いのですが、その経験がときには思い込みにかわり、経験から来る勘や思いつきによって施策が行われることがあります。
施策には税金が使われ、行政職員の人件費も使われます。だからこそ、勘と思い込みと経験と思いつきによる取り組み、通称個々(KOKO)の取り組みからいち早く脱却し、データやエビデンスにもとづき、ロジカルに施策を組み立てて行くことが大切なのです。
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