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「問題」と「課題」を混同してしまう残念な地方創生

文=田鹿倫基 公・民の適切な役割分担とサイクルが活性化につながる
「問題」と「課題」を混同してしまう残念な地方創生

油津商店街の保育施設


日南市の商店街活性化ストーリー


 私が住む宮崎県日南市は地方創生の文脈で紹介していただくことがしばしばあります。例えば、油津商店街の再生について。この油津商店街は今では全国どこにでもあるようなシャッター商店街で、「子供だけで近づかないように」と指導されるほどの商店街でした。

 そのシャッター商店街を再生させるべく日南市が打ち出したのは「4年で20店舗のテナントを誘致する専門家を公募する」というもの。委託料は市長よりも高い月額90万円と全国でも大きく話題になりました。

 そこには333人の応募がありましたが、そこから選ばれたのが木藤亮太さん。彼は契約期間の約4年で28店舗のテナント、企業、保育施設、ゲストハウスなどを油津商店街に誘致し、活気を取り戻しつつあります。

 また、企業誘致の面でも取り上げられることがありIT関連企業が1年で10社進出し、すでに70名以上の雇用を創出。しかもそのほとんどが20、30代の女性ということも注目をあつめています。

 他にも1回で4千人を超える外国人観光客が訪れる大型クルーズ船がシーズン中は毎週のように入港したり、城下町の空き家を民間資金でリノベーションし高級宿泊施設に変容したりと、様々な施策が同時並行で進んでいます。

 それらの「衰退した商店街」「若者の少ない雇用」「観光」「増える空き家」を解決すべき問題として設定したのは市長です(前市長も含む)。そしてその問題解決のための課題の設定は民間が中心となって行い、設定された課題には行政が責任を持って関わりながら市民も一緒に取り組む。

 そうやって一つ一つプロジェクトが動き出し、問題解決3つのサイクルが加速し、それがPDCAのもと改善して精度が高くなっていく。それが事業となり、マーケット(市場)の力に乗っかり、行政や政治が介入せずとも自走していく。そんな事例が日南市では生まれだしています。

補助金がセットになった国のメニューでは回らない


 戦後からバブル時代くらいまでは、問題解決の3つのサイクルは日南のそれとは違っていました。①の解決すべき問題の決定は昔も政治家でしたが、②の課題の設定は官(地方公務員)が行い、③の課題への取り組みは民(企業)がやっていました。

 地方公務員は国の各省庁からスキームと補助金がセットになったメニューが出されているので、自分たちが取り組みたい課題を決めて導入すればよかった。これまでは国が用意するメニューを選んで、民間の事業者に発注しておけば地域は回っていました。

 それは各省庁が日本よりも先を行く国を視察し、その事例を各市町村(都道府県)が導入しやすいメニューにしてくれていたからです。なので、地方は国が作るメニューを選んでおけばなんとなく時流に沿ったまちづくりができていたわけです。(もちろん、人口が増加していたので筋の悪い課題を設定していても自然と問題が解決されていくこともあったと思います)

 しかし、日本は世界でもまれに見るスピードで高齢化が進み、人口の急激な減少が見込まれ、もはや日本が参考にできる(成功している)国がなくなってしまいました。

問題解決の視点による公民連携の新定義


 国としてもこれまでのように成功国の事例を補助メニューにカスタマイズして、全国の市町村に導入してもらうだけではダメということに気がついてしまいました。しかし全国の市町村のマインドは昔と同じで国が用意するメニューをいかに導入するかから抜け出せず、国としても全国の市町村に共通する成功モデルをメニューとして作ることはできないと悟っています。

 だからこそ、これまでの地方活性化施策に見られた「全国一律での活性化」から「頑張る地域を優先してサポートする」という方針に切り替えたのでしょう。そんな中、まさに主役は地方です。

 地方は現場で必死に問題解決に注力し、国はその中から汎用性の高いものを他の「やる気のある」地域に広めていく。これまでとは全く逆のベクトルでの地方の活性化の取り組みが始まりました。

 そして問題解決3つのサイクルである①解決すべき問題の決定、②適切な課題設定、③課題への取り組み、がうまく進んでいれば応援&サポートし、変な方向に進んでいれば方向修正をサポートするのが「議会」の役割です。執行部側(=問題解決側)の伴走者として地域住民の声を届けることが役割です。
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田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
解決すべき問題を決めることが得意な人と、問題解決のための課題を組み立てる人と、課題を正確に素早く取り組む人はそれぞれ求められるスキルも経験も違うんです。 人口減少の最先端ということは、もはや世界中に参考にできる国がないということ。そんな中で適切な課題を設定するためには、これまでの経験とは違ったイノベーション的切り口を持つことが大事なんです。

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