中国の“成長痛”追い風、日本の化学メーカーに商機
来年の「環境保護税」導入の向け各業界が揺れ動く
化学業界は中国の“成長痛”による想定外の追い風に一息つく。中国は悪名高い微小粒子物質「PM2・5」などの大気汚染や水質汚染など公害問題が深刻化し、ナイロン原料などの化学プラントの操業が停滞している。中国産品の供給量が減って、アジア市況は良好だ。中国政府は2018年から「環境保護税」の導入を決めて、対策に力を入れる。環境性能の高い日本の技術・製品の需要は拡大し、日本勢の商機はさらに広がりそうだ。
ナイロン原料であるカプロラクタムのアジア市況は歴史的な急騰に沸き立つ。一大生産地であり、需要地でもある中国がその台風の目となる。
「環境保護税の話があるので昨年から中国の各業界が揺れ出した。カプロラクタムに限らず、いろいろなメーカーに影響があるだろう」と宇部興産の平井雅基ラクタム・工業薬品営業部長は読む。当局の環境規制強化の動きが中国メーカーの生産停滞を招き、結果的にアジア市況の大幅改善につながっている。
環境問題だけでなく、原料調達難も響いた。石炭の価格高騰により原料の手当てが難しくなり、計画通りの生産ができなかった側面もありそう。新興メーカーが多く、設備トラブルも少なくない。それらの複合要因により、皮肉にも健全な市場環境が実現した。
「当局が環境規制と経済性のどちらを優先するか分からない」(平井部長)と先行きは不透明だ。足元の好況を見て、プラントの新増設に乗り出す中国勢などが現れても不思議ではない。16年初まで苦しめられてきた供給過剰状態に逆戻りする可能性はある。
ただ、「この先も中国で(高速紡糸用の)高品位品が不足してくる」(同)と現地メーカーとのすみ分けを期待する。外部要因に一喜一憂せず、製品の高付加価値化を追求する姿勢が求められる。
「中国政府は環境規制に真剣に取り組んでいる」と業界関係者は断言する。水道管などに使う塩化ビニル樹脂のアジア市況は中国産品の供給減少で平静を保っている。
中国は、旧正月明けの2月から生産量が急増するのが通例だが、17年は様相が異なった。「(生産を)ぐっと抑え始めた。輸出余力はなくなっている」(関係者)のが実情のようだ。日本の塩ビ樹脂メーカーにとっては、海外展開へ強烈な追い風となっている。
特にインフラ投資の活発なインド向けが日本からの輸出全体を引っ張る。16年末に地元政府により、高額紙幣が廃止されて一時的にブレーキがかかったものの、塩ビ工業・環境協会の角倉護会長(カネカ社長)は「高額紙幣廃止の影響がようやく薄れてきて、需要に沿った購買に戻ってきている」と楽観視する。農業のかんがい用パイプ中心に今後も伸びる見込みだ。
中国勢の供給制約という好機を狙い、国内各社は成長市場で生産拡大の手を矢継ぎ早に打つ。
東ソーがフィリピンで工場増強に着手したほか、旭硝子もベルギー化学大手からタイ工場を買収。経済発展とともに、塩ビ需要の旺盛な東南アジア地域で、「鬼の居ぬ間に洗濯」となるか。
中国は、18年1月から大気や水質汚染防止を目的とした「環境保護税」を導入する。16年末に全国人民代表大会(全人代)常務委員会が法案を可決。約10年前から浮かんでは消えてきた税制度だが、ようやく深刻化する公害問題の解決へ動き出した。
課税対象となる汚染物は大気汚染物、水質汚染物、固体廃棄物、そして騒音の4種類だ。納税義務者は対象汚染物を直接排出する企業と公共機関、その他の業者となる。
課税額は汚染物の排出量を基に算出する。そのため、企業などは国の定める汚染物自動モニタリング設備を導入したり、モニタリング機関に依頼したりして排出量を測定することになる。
一方で、税の減免措置も用意されている。農業生産に加えて、自動車や鉄道、船舶、航空機などの移動機械が汚染物を排出する場合は一時的に免除される。また、企業などは排出汚染物の濃度値が国や地方当局の基準を一定割合下回ると減税される仕組みだ。
現状は税制度の大枠のみ決まっており、18年の施行までに詳細な制度設計がなされる見通しだ。
中国では、1979年に「環境保護法」が公布され、基準を超えた汚染物排出に対して費用を納める制度が始まった。ただ、企業の生産活動を阻害するため、地方政府などは制度の厳格な適用に及び腰だった面が否めない。
その結果として、大都市圏での冬場のすさまじい大気汚染などを引き起こしてきた。
<次のページ、独自技術で事業拡大狙う>
ナイロン原料、歴史的な急騰
ナイロン原料であるカプロラクタムのアジア市況は歴史的な急騰に沸き立つ。一大生産地であり、需要地でもある中国がその台風の目となる。
「環境保護税の話があるので昨年から中国の各業界が揺れ出した。カプロラクタムに限らず、いろいろなメーカーに影響があるだろう」と宇部興産の平井雅基ラクタム・工業薬品営業部長は読む。当局の環境規制強化の動きが中国メーカーの生産停滞を招き、結果的にアジア市況の大幅改善につながっている。
環境問題だけでなく、原料調達難も響いた。石炭の価格高騰により原料の手当てが難しくなり、計画通りの生産ができなかった側面もありそう。新興メーカーが多く、設備トラブルも少なくない。それらの複合要因により、皮肉にも健全な市場環境が実現した。
「当局が環境規制と経済性のどちらを優先するか分からない」(平井部長)と先行きは不透明だ。足元の好況を見て、プラントの新増設に乗り出す中国勢などが現れても不思議ではない。16年初まで苦しめられてきた供給過剰状態に逆戻りする可能性はある。
ただ、「この先も中国で(高速紡糸用の)高品位品が不足してくる」(同)と現地メーカーとのすみ分けを期待する。外部要因に一喜一憂せず、製品の高付加価値化を追求する姿勢が求められる。
塩化ビニル樹脂、中国産の供給減で安定
「中国政府は環境規制に真剣に取り組んでいる」と業界関係者は断言する。水道管などに使う塩化ビニル樹脂のアジア市況は中国産品の供給減少で平静を保っている。
中国は、旧正月明けの2月から生産量が急増するのが通例だが、17年は様相が異なった。「(生産を)ぐっと抑え始めた。輸出余力はなくなっている」(関係者)のが実情のようだ。日本の塩ビ樹脂メーカーにとっては、海外展開へ強烈な追い風となっている。
特にインフラ投資の活発なインド向けが日本からの輸出全体を引っ張る。16年末に地元政府により、高額紙幣が廃止されて一時的にブレーキがかかったものの、塩ビ工業・環境協会の角倉護会長(カネカ社長)は「高額紙幣廃止の影響がようやく薄れてきて、需要に沿った購買に戻ってきている」と楽観視する。農業のかんがい用パイプ中心に今後も伸びる見込みだ。
中国勢の供給制約という好機を狙い、国内各社は成長市場で生産拡大の手を矢継ぎ早に打つ。
東ソーがフィリピンで工場増強に着手したほか、旭硝子もベルギー化学大手からタイ工場を買収。経済発展とともに、塩ビ需要の旺盛な東南アジア地域で、「鬼の居ぬ間に洗濯」となるか。
環境保護税の中身
中国は、18年1月から大気や水質汚染防止を目的とした「環境保護税」を導入する。16年末に全国人民代表大会(全人代)常務委員会が法案を可決。約10年前から浮かんでは消えてきた税制度だが、ようやく深刻化する公害問題の解決へ動き出した。
課税対象となる汚染物は大気汚染物、水質汚染物、固体廃棄物、そして騒音の4種類だ。納税義務者は対象汚染物を直接排出する企業と公共機関、その他の業者となる。
課税額は汚染物の排出量を基に算出する。そのため、企業などは国の定める汚染物自動モニタリング設備を導入したり、モニタリング機関に依頼したりして排出量を測定することになる。
一方で、税の減免措置も用意されている。農業生産に加えて、自動車や鉄道、船舶、航空機などの移動機械が汚染物を排出する場合は一時的に免除される。また、企業などは排出汚染物の濃度値が国や地方当局の基準を一定割合下回ると減税される仕組みだ。
現状は税制度の大枠のみ決まっており、18年の施行までに詳細な制度設計がなされる見通しだ。
中国では、1979年に「環境保護法」が公布され、基準を超えた汚染物排出に対して費用を納める制度が始まった。ただ、企業の生産活動を阻害するため、地方政府などは制度の厳格な適用に及び腰だった面が否めない。
その結果として、大都市圏での冬場のすさまじい大気汚染などを引き起こしてきた。
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