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次世代の「フィルム栽培」でトマトが甘く育つ理由とは?

Japan Venture Awards 2017 中小企業庁長官賞 メビオール
 透明なフィルムの上にびっしりと生えた植物。フィルムの下には水槽があり、水は濁っているが植物は青々と茂っている。フィルムをめくると、みっちり根が張っているのがわかる。逆さにしても、植物ははがれない。
 こんな不思議な栽培方法を開発したのは、神奈川県平塚市のベンチャー、メビオールだ。森有一社長は「農業の歴史は露地栽培からはじまり、水耕栽培、チューブから水や栄養を補給する点滴栽培と発展してきました。次世代に提唱したいのがこの『フィルム栽培』です」と話す。

トマトが甘くなる理由


 使用されているフィルムは「アイメック」という製品。フィルムにはナノサイズの小さな孔が開いており、水と肥料のみを通過させ雑菌は通過させないように調整されている。「水耕栽培を見学した時、植物が病気にかかっている場所があったんです。病気を防ぐためには常に水を循環、殺菌すると同時に、時々交換する必要があり、水のロスと費用がかかります。フィルムは雑菌、ウイルスなどを通さないので、水が汚れて腐っても植物は病気になりません」。
お皿の上でも栽培できる

 さらにフィルム栽培には大きな利点がある。現在、同社ではトマトの栽培を積極的に展開しているのだが、糖度やリコピン、ギャバなどの各種栄養価が他の栽培方法と比べて格段に高いという結果が出ている。その理由は「植物の必死さ」にあるという。フィルムはハイドロゲルからできていて、紙おむつのように水を吸収するものの、外部には放出はしないため植物が生えている表面はカラカラに乾燥している。そこで植物は膨大な量の毛細根を発生させ、フィルムの表面に張り付かせてフィルム中の水分と栄養分を効率良く吸収する。これによって甘く、栄養価が高いトマトが生まれるのだ。森社長は「フィルム栽培を始めた当初はこのような現象が起きるとは予想していませんでした」と振り返る。
国内トマト農場

医療から農業へ事業展開


 アイメックフィルムは医療用に開発された素材を応用した製品だ。森社長はもともと大手化学企業、医療用具企業で人工血管、人工腎臓などの医療事業の研究開発を行っていた。その後、米国企業で働き、「従来の考え方や組織体制に限界を感じた」。上下関係のないフラットな組織で研究開発を行うため、1995年、53歳の時にベンチャーを立ち上げた。「米国に行って、会社は人が資源だと学んだ。チームで人と人のつながりや相互作用を大切にし、個々が成長することで会社が成長していくような環境を作りたかった」。
森有一社長

 医療から農業へと事業展開をしたきっかけは「今の医療では生活習慣病などに対応するには限界がある。健康には『食』からアプローチする必要がある」と思い至ったこと。先に述べたように、フィルムにより機能性成分に富んだ野菜などが作られるようになってきた。更に、今後ワクチンなどの医薬品を植物に安価に作らせるという研究に同技術が寄与する可能性があるという。
しかし会社を立ち上げてから、18年間は赤字だった。それでも会社が続いてきたのは、「会社の意義に共鳴した周囲の支えがあったから。周りが会社を潰さなかった」。ここでも人とのつながりが生む相互作用がビジネスをつないでいったという。

 研究開発型のベンチャーは芽が出るまでに時間がかかる。しかしうまくいかないと感じたことはないという。「既成概念を持たず、自然体で、いかに注意深く観察するか。ちょっとしたことを見逃さないこと。面白い発見は、面白くない顔をしてやってくるもの」と話す。この心構えが、従来とは全く違う栽培方法を生み出した。

中東や中国でもフルーツトマト栽培


 フィルム栽培は土壌や水のない場所でも行え、設備も簡素なため水耕栽培に比べ費用が抑えられる。土づくりの必要もないことから、初めて農業に携わる人も導入しやすい。
 フィルム農法でレタス、メロン、キュウリ、イチゴなど様々な野菜を生産することができる。現在、生産量、消費量が最も多いのがトマトである。その中で最も人気の高いものが、フルーツトマトと呼ばれる甘いトマトである。栽培が難しく、安定生産ができなかったが、フィルムを使うことによって誰でも安定して生産できるようになった。

 普及を始めて数年で、150農場、総面積10万坪のフィルムトマト農場が稼働。年間3,000トンのフルーツトマトが生産販売されている。そのうち非農業の事業者は60%を占める。2,000m2のフィルム農場のコストは建設費を含め5,200万円からと、水耕栽培に比べて手軽に始められる点も特徴だ。女性だけでトマト栽培を始め、「美容トマト」として生鮮トマト以外にジュースやジャムに加工し販売している企業もある。水やりの調整で出来上がるトマトの糖度と収穫量などを調整できるので、事業者の独自性を出すことができるのもポイントだ。

 海外でもニーズがある。カタール、UAE、ドバイなどの中東や中国で生産されており、3月にはサウジアラビアの企業と「日・サウジアラビア・ビジョン2030」に基づく経済協力の覚書を交わした。「汚れた土壌や水のない砂漠地帯でも栽培できる。逆に砂漠地帯は日差しが強いのでトマトがより甘くなった」。今後も海外展開を積極的に行っていく予定だ。
ドバイのトマト農場

 「現代はマジョリティが、未来はマイノリティが作る」というのが森社長の座右の銘。フィルム栽培導入面積は2014年から15年で倍増。最近はJapan Venture Awardsをはじめとしたアワードでの受賞も増え、導入したいという声がより多くなったという。森社長は現在75歳。これからも少数精鋭のベンチャーで、健康をつくる新しい農業を広げる挑戦は続く。
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
フィルムで作ったトマトとトマトジュースをいただきましたが、本当に甘く、それでいてトマト本来の酸味や香りがしっかりあり、非常においしかったです。土壌に関係なく栽培できるため、世界中でニーズが高まっていきそうです。

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