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水も木も使わず、石灰から作られた紙が世界を変える!?

Japan Venture Award 2016 東日本大震災復興賞受賞 TBM
水も木も使わず、石灰から作られた紙が世界を変える!?

山崎敦義社長

 木材や水を使わず、石灰石から作る紙の代替。LIMEX(ライメックス)シート。紙とほとんど同じ軽さ、厚さながら耐久性、耐水性がある。製造に水をほとんど使用しないため、水不足に悩む地域では紙の代替になりえる。TBM代表取締役社長の山崎敦義氏は「若い世代が世界で活躍する」「世の中の役に立つ」事業を探求する中で石灰石からつくるLIMEXを開発し、宮城県白石市の工場を皮切りに、世界を見据えた挑戦を続けている。

「自分が死んだ後も残り続ける会社を」


 「子供の頃は、『せっかくなら大きなことに挑戦したい』という気持ちがありましたね。それが経営者になることだとは思っていませんでしたが」と話す山崎氏。大工に憧れ15歳で見習いに入ったものの、いろいろな経験を積みたいという好奇心が強くなり20歳で起業した。

 中古車販売をはじめいくつかの事業を行っていたが、転機になったのは30歳で初めて訪れたヨーロッパ。何百年も前にできた街を見ながら歴史の重みを感じ、残りの人生で何をやり遂げるべきなのか考えさせられた。「起業してからの10年があっという間に過ぎてしまい、これを3回繰り返したらもう引退する歳になってしまう。今後経営者として、自分が死んだ後も残り続けていくような会社、事業をやっていきたいと思うようになりました」。残り30年で1兆円を狙える会社にしたいという気持ちが芽生えた。

歴史を変える可能性


 そんな中で出会ったのが台湾製のストーンペーパーだ。はじめはその台湾メーカーの輸入代理店をしていた。取扱い当初から事業の拡大を見据えていたわけではない。「取り扱っているうちにビジネス上で尊敬する方々から『この事業は歴史を変える可能性がある』と評価されるようになっていきました。それならば、とことんやってみようと」。石灰石は日本で100%資源を賄えるだけでなく、世界でも埋蔵量が多い。半永久的にリサイクルが可能で、大きなポテンシャルを秘めているのだ。

 自社でLIMEX(ライメックス)の開発を始めたのは約6年前。しかし一つ目の工場ができるまでには相当な苦労があった。地球規模では水不足が深刻化している地域があり意義がある。だが日本はその逆で、豊富な水資源が特徴。そんな製品が本当に求められているのか、と理解されないこともあった。さらに開発を始めた直後にはリーマンショック、2011年は東日本大震災と、大きな資金調達が必要なメーカーベンチャーにとってはまさに八方ふさがりになってしまった。

 日本では埒が明かない状況に、山崎氏は海外での資金調達に乗り出した。「中東やシンガポールなどで、この事業に対する期待の声をたくさん聞くことができました。改めて可能性の大きさを感じる自信を持ちました」。その一方で「一つ目の工場ができたら戻ってきてほしい」という回答しか得られず、最初のリスクを取って投資してくれる人は一人もいなかった。
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
水も木も豊富な日本では、それらがない地域のことが容易に想像できません。しかし世界各地にはすでに水不足によって甚大な被害を受けている地域があります。日本に軸足を置きながら、世界の今後を見据えて事業を動かす意志が、大勢の人に応援される所以です。

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