なぜ会津若松に国内外の大手ハイテク企業が集まるのか
米インテルなど15社とIoT、地域課題解決と新産業の創出が両輪に
東北の自治体と企業が手を組んだ地方創生が軌道に乗ってきた。2011年の東日本大震災後、NECや富士通、米インテルなど大企業と連携した福島県会津若松市では、情報通信技術(ICT)を起爆剤とした新ビジネスが開花しそうだ。岩手県遠野市は富士ゼロックスと連携し、首都圏から企業を呼び込んでいる。2市の手法は違うが、地域課題解決と新産業の創出が両輪となっている。
会津若松市はIoT(モノのインターネット)で市民の健康づくりを支援する実証事業を始めている。米インテル、GEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)、NEC、クックパッド子会社のおいしい健康(東京都中央区)など15社以上が参加。17年度は市民1000人が協力する大がかりな実証へと発展する。
市民にスマートウオッチなど携帯端末を身につけてもらい、脈拍や食事、睡眠などの健康に関わる情報を収集。企業はそのビッグデータを解析し、健康増進につながるサービスを開発する。
おいしい健康は一人ひとりに合わせた献立メニューを、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は健康行動支援を、NECは服薬管理を提供。病院との連動も検討し、市が保健指導メニューを提供する予定もある。
市では高齢化が進む一方で、労働人口が減っている。市の健康福祉部ICTワーキングチームの宮森健一朗リーダーは「医療・介護費が増え続けて地域の活力が失われる」と危機感を持っていた。
そして「職員が話し合い、若い世代からの健康づくりを推進しようとなり、IoTに解決策を求めた」と経緯を説明する。参加企業は生活者1000人のデータで鍛えられ、技術やサービスの完成度を高められる。同じ悩みを抱える地方都市は多く「企業は全国へ展開できる」(宮森リーダー)と太鼓判を押す。
会津若松市は震災後、ICTを活用した地方創生事業に乗りだした。12年に地元ベンチャーの会津ラボ、グリーン発電会津などが参加し、エネルギー需給管理を開始。規模を拡大しようと15年7月に設立した協議会にはインテルやアクセンチュア、SAPなど海外企業も名を連ねた。企業と提携する自治体は珍しくないが、37社・団体が集結する地方都市は例がない。
市は街を実証の場として提供。企業は“生きた情報”で技術を検証し、開発に反映できる。サービスを実用化できれば、住民サービス向上や地域産業活性化で市も恩恵を受ける。
市企画政策部の五十嵐徹主査は「先端技術を持って来てもらおうと、大企業に集まってもらった。実証では地元企業も連携するので、地域に先端技術を蓄えられる」と狙いを話す。
IoTによる健康支援以外にも、いくつもの事業が同時に動いている。NECの顔認証技術は、地元スーパーのリオン・ドールコーポレーションの店舗で実証が始まっている。店内のカメラ画像から性別や年代、行動を解析して商品陳列を工夫する。NECは新技術を試し、地元スーパーは売上高が増える相乗効果が期待できる。
交通が不便な地域では、小型電動バスを住民がタクシー代わりにする実証を計画している。外出したい住民は家のテレビ画面を操作して電動バスを呼ぶ。600世帯が参加する本番さながらの環境で、富士通が配車システムを検証する。
実用化できた事業もある。市は15年末、市民に情報を配信するICTサービス「会津若松プラス」を始めた。登録した市民には自分専用ホームページが用意され、性別や世代別の情報が目立つ位置に表示される。検索履歴を分析して商品を薦めるネット販売サイトのように、使うほど役立つ情報が届く。
16年2月にはスマートフォンで利用できる電子版「母子健康手帳」も始めた。市の情報と連動しており、母親に検診や予防接種の日時を連絡したり、受診記録を自動登録できたりする。
市はICT企業が入居するオフィスビルを建設する。19年3月に開業すると500人が就業できる。ICTによる地方創生は、雇用創出の段階に入った。
<次のページ、「遠野市モデル」とは>
健康づくりで大規模実証事業
会津若松市はIoT(モノのインターネット)で市民の健康づくりを支援する実証事業を始めている。米インテル、GEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)、NEC、クックパッド子会社のおいしい健康(東京都中央区)など15社以上が参加。17年度は市民1000人が協力する大がかりな実証へと発展する。
市民にスマートウオッチなど携帯端末を身につけてもらい、脈拍や食事、睡眠などの健康に関わる情報を収集。企業はそのビッグデータを解析し、健康増進につながるサービスを開発する。
おいしい健康は一人ひとりに合わせた献立メニューを、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は健康行動支援を、NECは服薬管理を提供。病院との連動も検討し、市が保健指導メニューを提供する予定もある。
市では高齢化が進む一方で、労働人口が減っている。市の健康福祉部ICTワーキングチームの宮森健一朗リーダーは「医療・介護費が増え続けて地域の活力が失われる」と危機感を持っていた。
そして「職員が話し合い、若い世代からの健康づくりを推進しようとなり、IoTに解決策を求めた」と経緯を説明する。参加企業は生活者1000人のデータで鍛えられ、技術やサービスの完成度を高められる。同じ悩みを抱える地方都市は多く「企業は全国へ展開できる」(宮森リーダー)と太鼓判を押す。
地域に先端技術を蓄える
会津若松市は震災後、ICTを活用した地方創生事業に乗りだした。12年に地元ベンチャーの会津ラボ、グリーン発電会津などが参加し、エネルギー需給管理を開始。規模を拡大しようと15年7月に設立した協議会にはインテルやアクセンチュア、SAPなど海外企業も名を連ねた。企業と提携する自治体は珍しくないが、37社・団体が集結する地方都市は例がない。
市は街を実証の場として提供。企業は“生きた情報”で技術を検証し、開発に反映できる。サービスを実用化できれば、住民サービス向上や地域産業活性化で市も恩恵を受ける。
市企画政策部の五十嵐徹主査は「先端技術を持って来てもらおうと、大企業に集まってもらった。実証では地元企業も連携するので、地域に先端技術を蓄えられる」と狙いを話す。
IoTによる健康支援以外にも、いくつもの事業が同時に動いている。NECの顔認証技術は、地元スーパーのリオン・ドールコーポレーションの店舗で実証が始まっている。店内のカメラ画像から性別や年代、行動を解析して商品陳列を工夫する。NECは新技術を試し、地元スーパーは売上高が増える相乗効果が期待できる。
交通が不便な地域では、小型電動バスを住民がタクシー代わりにする実証を計画している。外出したい住民は家のテレビ画面を操作して電動バスを呼ぶ。600世帯が参加する本番さながらの環境で、富士通が配車システムを検証する。
すでに実用化した事業も
実用化できた事業もある。市は15年末、市民に情報を配信するICTサービス「会津若松プラス」を始めた。登録した市民には自分専用ホームページが用意され、性別や世代別の情報が目立つ位置に表示される。検索履歴を分析して商品を薦めるネット販売サイトのように、使うほど役立つ情報が届く。
16年2月にはスマートフォンで利用できる電子版「母子健康手帳」も始めた。市の情報と連動しており、母親に検診や予防接種の日時を連絡したり、受診記録を自動登録できたりする。
市はICT企業が入居するオフィスビルを建設する。19年3月に開業すると500人が就業できる。ICTによる地方創生は、雇用創出の段階に入った。
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日刊工業新聞2017年3月7日