30人の小さな中小企業に皇太子さまが訪問、宇宙ゴミへの関心高く
宇宙向けの部品を製造する由紀精密に。「どのくらい小さなデブリまで検知できますか?」
皇太子さまは8日、由紀精密(神奈川県茅ケ崎市、大坪正人社長)を訪問され、航空宇宙分野を中心とした精密部品や加工現場を視察された。案内役の大坪社長が自社製部品を搭載した超小型地球観測衛星「ほどよし」などの仕組みを説明した。
自社で設計・製造した小型ロケットエンジンの模型を前に、皇太子さまは「部品のどこに技術的課題がありましたか」と質問され、大坪社長は「細い穴を斜めに開ける点です」と答えていた。
由紀精密と提携関係にある、シンガポールを拠点とするアストロスケールの岡田光信最高経営責任者(CEO)が、由紀精密の部品を搭載したスペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測衛星と除去衛星について説明。皇太子さまは「どのくらい小さなデブリまで検知できますか」など質問された。
加工現場では女性社員のきめ細かな作業に関心を示されていた。大坪社長は「とても興味深くご覧になっていただいた」と語った。
由紀精密社長・大坪正人
日本は中小企業が支えていると言われている。しかし、新聞やテレビを見ても企業名は大きい会社のものばかり。当然学生の就職先として検討に挙がるのは大企業が中心となる。企業数でいくと、国内の全法人の中の99・7%が中小企業だ。
しかし、わずか0・3%の大企業は従業員数で見ると30%、製造業付加価値額でいくと50%を占める。大きな付加価値を生むということは給与も高く設定できることになる。〝人財〟不足に悩む中小企業には、知名度も採用条件も不利となり分が悪い。
最近、由紀精密に対する質問でとても多いものが、人財採用のためにどのようなことをしているのかということだ。確かに、30人という小さい会社であるがここ数年間は多くの採用希望者に恵まれている。この質問に対する答えは至ってシンプルで、魅力的な会社になるように努力を続けている、ということになる。
どんな会社が魅力的なのだろうか。誰もが知っている有名な会社は魅力的であろう。誰もがうらやむ高い報酬も魅力的に違いない。もちろん、この両方を目指すことも重要なことだが、多くの中小企業にとってすぐにできるものではない。我々は何をしてきたか。
10年前の2006年、筆者が由紀精密に入社して真っ先に取りかかったことの一つに、コーポレートアイデンティティー(CI)の確立がある。これはかっこいいロゴとかウェブサイトが欲しい、というよりもむしろ、自社とはどういう会社で何を目指すべきか、どうあるべきかというところを考え、それを形にしていく作業だった。
それがイメージとして現れるロゴもウェブサイトも重要である。由紀精密の強みは何か? それを伝えるためにはどうあるべきか? ここが固められたことでその後の航空宇宙・医療機器業界へのチャレンジを諦めずに続けられた。
仕事の価値とは何だろう。人によりさまざまな解があるとは思うが、仕事を通じて誰かの役に立ちたい、社会が良くなるようにしたい、という気持ちは多かれ少なかれ共通する意見であろう。
部品加工業から始まった由紀精密は、過去には自社の生み出したものが製品のどこに使われるかもわからないままお客さまの要求に応えている状況もあった。
これが、関わった製品が宇宙に飛び出したり、医療機器として困っている人を助けたりと、形が見えるようになるとぐっとモチベーションも上がる。
そのために必要な各自の役割も、30人の会社では3万人の会社に比べて千倍大きいことになる。私の方針として、新人社員でも社内でこれは自分が1番という分野を持ってもらおうとしている。
ある測定器であったり、ウェブサイト作成であったり、何であれ、その分野では任されているという自信が成長につながる。
もう一点、企業の継続性をとても重視している。由紀精密は現在創業66年目。あと34年、筆者が75歳になる時に100年を迎える。企業のサイクルは30年と言われるが、3周目に差しかかった。
日本企業にとって、人口減少を筆頭とした暗い未来を語る論調が多い中ではあるが、由紀精密は100年ビジョンを掲げ、将来、日本が傾くほどのことが起こったとしても会社は継続することをコミットしている。
近年、大企業に入れば安泰という事実も大きく揺らいでいる中で、大企業よりも将来確実な会社と思われることを目指している。そのためにも世界に通用する技術を磨くことは必須であり、製造、販売含めたグローバル化も当然重要である。
CI、社会貢献、継続性の三つの話をしたが、これらの活動の元になっている企業理念の中に「幸せ」というキーワードがある。社員の幸せ、お客さまの幸せ、そして由紀精密が作るものが幸せな社会をつくり出す。
経営者としてどんな会社をつくりたいか? その答えと採用に関する冒頭の質問の答えとは非常に近いものと感じている。
自社で設計・製造した小型ロケットエンジンの模型を前に、皇太子さまは「部品のどこに技術的課題がありましたか」と質問され、大坪社長は「細い穴を斜めに開ける点です」と答えていた。
由紀精密と提携関係にある、シンガポールを拠点とするアストロスケールの岡田光信最高経営責任者(CEO)が、由紀精密の部品を搭載したスペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測衛星と除去衛星について説明。皇太子さまは「どのくらい小さなデブリまで検知できますか」など質問された。
加工現場では女性社員のきめ細かな作業に関心を示されていた。大坪社長は「とても興味深くご覧になっていただいた」と語った。
日刊工業新聞2017年3月9
30人という小さい会社に採用希望者が集まるシンプルな答え
由紀精密社長・大坪正人
日本は中小企業が支えていると言われている。しかし、新聞やテレビを見ても企業名は大きい会社のものばかり。当然学生の就職先として検討に挙がるのは大企業が中心となる。企業数でいくと、国内の全法人の中の99・7%が中小企業だ。
しかし、わずか0・3%の大企業は従業員数で見ると30%、製造業付加価値額でいくと50%を占める。大きな付加価値を生むということは給与も高く設定できることになる。〝人財〟不足に悩む中小企業には、知名度も採用条件も不利となり分が悪い。
最近、由紀精密に対する質問でとても多いものが、人財採用のためにどのようなことをしているのかということだ。確かに、30人という小さい会社であるがここ数年間は多くの採用希望者に恵まれている。この質問に対する答えは至ってシンプルで、魅力的な会社になるように努力を続けている、ということになる。
どういう会社で何を目指すべきかを形に
どんな会社が魅力的なのだろうか。誰もが知っている有名な会社は魅力的であろう。誰もがうらやむ高い報酬も魅力的に違いない。もちろん、この両方を目指すことも重要なことだが、多くの中小企業にとってすぐにできるものではない。我々は何をしてきたか。
10年前の2006年、筆者が由紀精密に入社して真っ先に取りかかったことの一つに、コーポレートアイデンティティー(CI)の確立がある。これはかっこいいロゴとかウェブサイトが欲しい、というよりもむしろ、自社とはどういう会社で何を目指すべきか、どうあるべきかというところを考え、それを形にしていく作業だった。
それがイメージとして現れるロゴもウェブサイトも重要である。由紀精密の強みは何か? それを伝えるためにはどうあるべきか? ここが固められたことでその後の航空宇宙・医療機器業界へのチャレンジを諦めずに続けられた。
仕事の価値とは何だろう。人によりさまざまな解があるとは思うが、仕事を通じて誰かの役に立ちたい、社会が良くなるようにしたい、という気持ちは多かれ少なかれ共通する意見であろう。
部品加工業から始まった由紀精密は、過去には自社の生み出したものが製品のどこに使われるかもわからないままお客さまの要求に応えている状況もあった。
これが、関わった製品が宇宙に飛び出したり、医療機器として困っている人を助けたりと、形が見えるようになるとぐっとモチベーションも上がる。
新人社員でも社内で1番の分野を持つ
そのために必要な各自の役割も、30人の会社では3万人の会社に比べて千倍大きいことになる。私の方針として、新人社員でも社内でこれは自分が1番という分野を持ってもらおうとしている。
ある測定器であったり、ウェブサイト作成であったり、何であれ、その分野では任されているという自信が成長につながる。
もう一点、企業の継続性をとても重視している。由紀精密は現在創業66年目。あと34年、筆者が75歳になる時に100年を迎える。企業のサイクルは30年と言われるが、3周目に差しかかった。
日本企業にとって、人口減少を筆頭とした暗い未来を語る論調が多い中ではあるが、由紀精密は100年ビジョンを掲げ、将来、日本が傾くほどのことが起こったとしても会社は継続することをコミットしている。
キーワードは「幸せ」
近年、大企業に入れば安泰という事実も大きく揺らいでいる中で、大企業よりも将来確実な会社と思われることを目指している。そのためにも世界に通用する技術を磨くことは必須であり、製造、販売含めたグローバル化も当然重要である。
CI、社会貢献、継続性の三つの話をしたが、これらの活動の元になっている企業理念の中に「幸せ」というキーワードがある。社員の幸せ、お客さまの幸せ、そして由紀精密が作るものが幸せな社会をつくり出す。
経営者としてどんな会社をつくりたいか? その答えと採用に関する冒頭の質問の答えとは非常に近いものと感じている。
日刊工業新聞2016年9月5日