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東芝の損失が膨張する米原発“契約”の中身

超過コストをすべて負担する「固定価格オプション」はなぜ生まれた?
東芝の損失が膨張する米原発“契約”の中身

米スキャナ電力のVCサマー発電所


VCサマー、1日約4300人の作業者を動員


 もう一方のVCサマープロジェクトの状況も楽観視できない。スキャナ電力が16年9月に公表した四半期リポートによると、S&Wを買収した後、WHが建設工事を発注した米フルアーが、16年7―9月に毎月約150人の新人を雇用したと報告し、それに伴う訓練を実施しているとの報告がある。

 米国での原発建設は30年超ぶり。業界関係者は「人材や教育関連のコストも膨らんでいる」と説明する。

 同プロジェクトでの各工程の遅れも見逃せない。例えば「2号機でのクレーン設置」が、作業完了予定の16年12月から10カ月遅れるとの見通しを示している。「クレーンがボトルネックになり、遅延が各種機器の据え付けに波及するリスクがある」(ファンド関係者)と指摘する。

 16年末、巨額損失リスクの発覚を受けて東芝が開いた会見。畠澤守執行役常務原子力事業部長は「今後、(建設コストが)際限なく伸びるということはない」と説明した。
ボーグル発電所©2017 Georgia Power Company

S&W買収メリットをリスクが上回る


 しかしプロジェクト現場は、VCサマーの場合で1日に約4300人の作業者が動員されるというケタ違いの大きさ。各プロジェクトの1日当たりのコストについて最低500万ドル超との指摘がある。

 仮に100日の遅れが生じると5億ドル×2プロジェクト分で10億ドルの追加となる。この試算が正しければ、日々の工事遅延が東芝・WHを蝕んでいく状況だ。

 S&Wを買収した理由について東芝の綱川智社長は「あの時は、リスクを上回るメリットがあったと判断した」と話した。しかし現実にはS&W買収によって電力会社から引き出した建設コスト上乗せと完工延期という二つのメリットを、固定価格を超える超過コスト発生というリスクが上回っている。

 東芝・WHの損失はどこまで膨れあがるのか。
(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年2月8日「深層断面}
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
海外のインフラは、コンストラクションが一番リスクが高いのはよく知られていること。だからGEも機器売りと保守といううまみのある部分に徹している。米国の原発建設は長く途絶えていただけに、さらにリスクが高くなるのは仕方がない。契約はケースバイケースなので、内容よりもむしろ東芝側の意思決定が健全に機能していたかだろう。ちょうど不正会計問題で本社側は混乱し、WHの案件はロデリックCEOを中心に米国に任せっきりでコントロールできていなかった可能性が高い。また不正会計問題を終息させにも「原発」を成長事業から外すことはできなかった。 不正会計は別として、海外のインフラプロジェクトにおいて日本企業は常にこのようなリスクがつきまとう。他社もさまざまケーススタディーを学びながら、社内にタフな交渉ができる人材を育て、権限と責任を明確化し、ストップや軌道修正を図れるプロジェクトマネジメント体制を築く必要がある。

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