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リンダ・グラットン教授が語る「100歳社会へのライフ・シフト」

《富士通 経営者フォーラム》 経営者が今、なすべきことは何か
リンダ・グラットン教授が語る「100歳社会へのライフ・シフト」

リンダ・グラットン教授


「企業が変革すべきこととは何か?」


 パネル・ディスカッションには、グラットン教授に加えて、一橋大学の野中郁次郎名誉教授、富士通の松本端午・執行役員常務が登壇しました。

 「100歳社会を迎えるにあたって、企業にとってどのような戦略が重要になっていくのか」そして、「人工知能やロボット技術が急速に進歩する中で、企業はどのような戦略をとるべきなのか」という2つのテーマの下で、活発な議論が展開されました。
パネルディスカッションの様子


 野中名誉教授は、「『ライフタイム・コミットメント』ということが日本の企業経営の基盤になっている」と述べて、議論をスタートしました。ライフタイム・コミットメントとは、1958年に『日本の経営』を著したジェームズ・アベグレン氏が、日本的経営の強みの1つとして掲げたものです。

 これは、野中名誉教授によると、「働く人と職場共同体との間に生涯にわたる強い結びつきがある」状態を意味します。「従業員が会社を自己成長の場と認識して働くことによって、組織として持続的に知が創出・蓄積されるようになり、これが競争優位の源泉になります」と説明します。

 「日本的経営の本質は、知を蓄積するためのコミュニティであり、ライフタイム・コミットメントに値する企業体を創ることが、まさにこれからの100歳社会において企業のリーダーが果たすべき最も重要な使命ではないか」と主張します。

 これに対して、グラットン教授は、「日本企業において、ライフタイム・コミットメントが持続可能な知の創造につながっていることは、とても素晴らしいことです」と評しました。同時に、「欧米では、ひとつの会社で働きあげるという、結婚のようなことは想定しにくい」と述べました。

 「欧米では、ひとつの会社に継続して勤務するのは、せいぜい4年位でしかありません。そのような環境下では、従業員の発展は誰の責任なのかという議論もあります。

 一方で、マッキンゼーのようなコンサルティング会社では、在籍時にスキルを高める、と同時に退職後も元社員としてのつながりや、クライアントとのネットワークを構築できるという場を提供しています。違った形での関係作りの場といえ、双方にプラスがあるような関係性で、こういったスタイルが欧米にはあります」と述べました。
野中郁次郎名誉教授

 野中名誉教授は、「ライフタイム・コミットメントは、ライフタイム・エンプロイメント(終身雇用)ではなく、会社を辞めることも自由」と説明しました。「しかし、会社に入った後は、その会社にコミットします。そして、転職していっても良い会社だったなと思えるような普遍的価値を追求することが重要です」と述べました。

 このような会社が、ハイクオリティな知を提供し、人間を絶えず育成していくのです。「企業を去った後もいつでもつながりを持てるような、オープンなコミュニティを作り上げ、知を共有していくことが、企業に求められる」と語りました。グラットン教授も「そのとおりですね」とうなづきます。

 このテーマの議論の最後に、松本氏は「リアルな場におけるコミュニケーションが最も重要ですが、デジタル技術を活用すれば、時間と空間を超えて知を伝承することが可能になります。デジタル技術が、知を蓄積し、それを次の世代へ受け継いで、人々の創造性をエンパワーしてくれるのです。

 ひとつの形で、みんなで共有できるようになることがデジタル化の一番のメリットではないでしょうか」とコメントしました。ここから、議論のテーマが、「人工知能とロボット技術が進化する時代の経営戦略」に移っていきます。

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2016年12月5日 公開
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
今回の議論を前にして頭に浮かんだのは「長寿リスク」という言葉です。第一生命ホールディングスの斎藤勝利会長は「世界有数の長寿国である日本では、本来喜ばしいことである長寿を手放しでは喜べないのが現状」と指摘し、社会保障制度改革を急ぐよう警鐘を鳴らしています。「100歳社会」に挑むには、税や社会保障制度改革はもとより、働き方改革、テクノロジーの活用などさまざまなアプローチがあることを実感させられます。

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