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オバマ退任演説とトランプ会見の比較から見えてく米国の精神

気鋭のスピーチライターが分析。オバマ演説は、民主主義に対する信仰だった
オバマ退任演説とトランプ会見の比較から見えてく米国の精神

オバマ大統領とトランプ次期大統領


「私がすごい」トランプ、「私たちがすごい」オバマ


 トランプの会見は荒れましたが、その理由となる言葉は次の一文に集約されています。
 「私は神が創造した最大の雇用創出者になる」

 創造主である神は、トランプに偉大な力を与えて最大の雇用創出者にしてくれるはずだというのです。もちろん、実際はトランプ自身が頑張るということだろうと思いますが、この裏にあるのは、「私がすごい」ことを伝えたいという思いです。自分を権威付けしようというのが、この会見を開いた意図でありキーメッセージでしょう。

 しかし、このキーメッセージは米国ではなかなか通用しません。特に、権力を監視することを使命とするジャーナリストの前でそんな態度取ったら、荒れない方がおかしいです。米国は、建国以来「偉いやつ」を引きずり降ろすことに情熱を燃やし続ける文化があります。それがまさに「神の下での平等」を掲げるアメリカ民主主義です。

 一方で、オバマは「私がすごい」という言葉は使いません。オバマのレトリックは一貫していて、「私たちがすごい」と言います。政治は誰か一人のリーダーがやるものではなく、民主主義によって「私たち」で自治するものであると言います。凄いのは「私たち」であって、この8年で成し遂げた全ての実績は「私たち」によって達成されたと言います。

 「私がすごい」トランプと「私たちがすごい」オバマという二人の戦略の違いは、そのまま民主主義の重要性についての認識の違いとも言えるでしょう。

なぜ民主主義は守られるべきなのか?


 オバマは、民主主義について次のように語っています。
 「我々の歴史のなかで、団結力が脅かされた時が何度かありました。今世紀の初めに起こったこともその1つです。縮んでいく世界、格差の拡大、人口構造の変化、テロリズム。これらの脅威は、我々の安全と繁栄を試しただけでなく、民主主義も試しています。米国の民主主義は、それがあって当然のものだと思った瞬間に、危機にさらされるのです」

 オバマは、このように述べ、それでも民主主義は守るべきだと力説します。では、その根拠は何だといっているのでしょうか?

 それは、民主主義が繁栄をもたらすからだとも一部言っているのですが、やはり決定的なものは、先に触れた信仰だろうと思います。そう解釈しなければ、民主主義が“試される”理由にならないからです。

 より良い政治体制があることを前提にするのではなく、民主主義という方法がまずあって、それが機能しない時は試されていると解釈するのは、まさに信仰です。

 オバマ退任演説は、信仰を最も底辺の土台に置いて、歴史や利益に言及しながら民主主義を擁護した、非常に優れた歴史的な演説だったと思います。
(文=蔭山洋介)
<略歴>
蔭山 洋介(かげやま ようすけ)
スピーチライター、ブランドディレクター、演出家。 パブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略を裏から支えるブレインとして活躍。クライアントには一部上場企業、外資系企業、中小ベンチャー企業の経営者や管理職、政治家、NPO 代表、公益法人理事長、講師などのリーダー層が多い。著書に「スピーチライター 言葉で世界を変える仕事」(角川Oneテーマ21)など。

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
以前、蔭山さんにスティーブ・ジョブズのプレゼンの凄さを聞いたところ、「一番は単純に声。声がでかいこととスピーチのうまさは関係はない。無視できる声と無視できない声、気になる声と気にならない声があって、そこは結構重要。おそらくジョブズの場合、彼の声を作っているのは、『自分は神の力をも自由に扱っているんだ』というぐらいに錯覚するほど強力な確信からきていると思う」と話していた。トランプが「私は神が創造した最大の雇用創出者になる」を語っても、残念ながら彼の声からは本当の確信が伝わってこない。

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