上司と部下のコミュニケーションに使える“アート”で観察力を鍛える技法
<情報工場 「読学」のススメ#20>『観察力を磨く 名画読解』(エイミー・E・ハーマン 著)
**細かいことが気になる「わるいクセ」を身につける
「細かいことが気になるのが僕のわるいクセ」とは、ご存じテレビ朝日系列の人気ドラマ『相棒』の主人公・杉下右京のお決まりのセリフだ。警視庁特命係の警部である彼は、事件現場に残された、誰も気づかないような些細な証拠に目をつけたり、関係者への聞き込みでどうでもいいような事実を確かめたりする。その後に怪訝な顔をする相手や周囲の人に対して言うのが、冒頭のセリフだ。たいていの回では、この「わるいクセ」が功を奏し、事件解決に結びつくことになる。
米国では、この「わるいクセ」を身につけるためのセミナーが好評のようだ。そこで用いられる「知覚の技法」と名づけられたメソッドは、絵画、写真、彫刻などの「アート」を「見る」ことで観察力、分析力、洞察力、伝達力などを磨くというものだ。セミナーは、FBIやCIA、ニューヨーク市警、米軍、さまざまな業種の大手企業で行われている。『観察力を磨く 名画読解』(早川書房)は、その技法の開発者でありセミナーの講師を務める、美術史家で弁護士のエイミー・E・ハーマンさんが自ら具体的方法と効果について解説している。
「知覚の技法」の具体的方法は、いたってシンプルだ。一点のアート作品を見て、そこに何が表現されているかを見つけていく。絵画であれば何が描かれているか、写真なら何が写っているか、彫刻であれば何を作ろうとしたのか。時間をかけて細部まで観察し、発見したことを書き出したり、話し合ったりする。この最初の段階では、作品のタイトルや作者、製作時期などは伏せられる。
そして、観察して見つけたことからわかる「事実」を挙げていく。本書で例として紹介されているケースでは、ある絵画に描かれている二人の人物の関係性を、服装や髪型、表情・視線、しぐさ、人物間の距離、立っているか座っているか、などから探っていく。このあたりはきっと推理ドラマに匹敵する面白さがあるのだろう。
アートを使うメリットは、まず「答え合わせ」が簡単にできることだという。先の例の二人の人物の関係性でいえば、絵画のタイトルを見れば答えがすぐにわかる。ヨハネス・フェルメールの『婦人と召使』だからだ。街角の人物観察では、こうはいかない。通行人を呼び止めたり、喫茶店でコーヒーを飲んでいる人に話しかけるのには抵抗のある人が大半だろう。
ある程度歴史があり、世に知られているアート作品であれば、さまざまな資料やこれまでの鑑賞者、批評家たちの評価や発見を知ることもできる。アートに限らず物事には、10人いれば10通りの「見方」がある。そうした複数の視点を知ることで、よりいっそう観察力に磨きをかけられる。
<次のページ、主観を極力排して物事を捉え伝達するスキルが重要>
「細かいことが気になるのが僕のわるいクセ」とは、ご存じテレビ朝日系列の人気ドラマ『相棒』の主人公・杉下右京のお決まりのセリフだ。警視庁特命係の警部である彼は、事件現場に残された、誰も気づかないような些細な証拠に目をつけたり、関係者への聞き込みでどうでもいいような事実を確かめたりする。その後に怪訝な顔をする相手や周囲の人に対して言うのが、冒頭のセリフだ。たいていの回では、この「わるいクセ」が功を奏し、事件解決に結びつくことになる。
米国では、この「わるいクセ」を身につけるためのセミナーが好評のようだ。そこで用いられる「知覚の技法」と名づけられたメソッドは、絵画、写真、彫刻などの「アート」を「見る」ことで観察力、分析力、洞察力、伝達力などを磨くというものだ。セミナーは、FBIやCIA、ニューヨーク市警、米軍、さまざまな業種の大手企業で行われている。『観察力を磨く 名画読解』(早川書房)は、その技法の開発者でありセミナーの講師を務める、美術史家で弁護士のエイミー・E・ハーマンさんが自ら具体的方法と効果について解説している。
「知覚の技法」の具体的方法は、いたってシンプルだ。一点のアート作品を見て、そこに何が表現されているかを見つけていく。絵画であれば何が描かれているか、写真なら何が写っているか、彫刻であれば何を作ろうとしたのか。時間をかけて細部まで観察し、発見したことを書き出したり、話し合ったりする。この最初の段階では、作品のタイトルや作者、製作時期などは伏せられる。
そして、観察して見つけたことからわかる「事実」を挙げていく。本書で例として紹介されているケースでは、ある絵画に描かれている二人の人物の関係性を、服装や髪型、表情・視線、しぐさ、人物間の距離、立っているか座っているか、などから探っていく。このあたりはきっと推理ドラマに匹敵する面白さがあるのだろう。
アートを使うメリットは、まず「答え合わせ」が簡単にできることだという。先の例の二人の人物の関係性でいえば、絵画のタイトルを見れば答えがすぐにわかる。ヨハネス・フェルメールの『婦人と召使』だからだ。街角の人物観察では、こうはいかない。通行人を呼び止めたり、喫茶店でコーヒーを飲んでいる人に話しかけるのには抵抗のある人が大半だろう。
ある程度歴史があり、世に知られているアート作品であれば、さまざまな資料やこれまでの鑑賞者、批評家たちの評価や発見を知ることもできる。アートに限らず物事には、10人いれば10通りの「見方」がある。そうした複数の視点を知ることで、よりいっそう観察力に磨きをかけられる。
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