エプソンの紙リサイクル機は森林破壊に一石を投じるか
いよいよ月内に投入。「コスト削減ありきの売り方はしない」(碓井社長)
セイコーエプソンがオフィスで再生紙を作れる製紙機を月内に投入する。印刷した紙を3分で白い紙へ戻し、繰り返し利用できる。紙の新しいリサイクル方法として提案する。一方、世界的な紙需要の増加を背景に、森林破壊に歯止めがかからず、違法伐採による人権問題や健康被害が起きている。日本で紙の節約や古紙リサイクルは定着したが、紙をめぐる環境問題は解決されていないようだ。
セイコーエプソンは、オフィス内で紙をリサイクルできる「ペーパーラボ A―8000」の出荷を開始し、紙の利用に一石を投じる。環境意識が高まる中、紙の利用は悪者にされがちだ。ペーパーレス化も進められているが、紙の使い勝手の良さもあり、完全にゼロにはできない。
30日に都内で開かれた製品発表会で、エプソン販売の佐伯直幸社長は「紙の未来を変えたい」と熱い思いを語った。
ペーパーラボは、紙のリサイクルに不可欠な水を使わないことが最大の技術革新だ。通常は、紙を水でふやかして繊維にし、水を含んだまま形を整え、水分を飛ばして繊維を結合させる。一方、ペーパーラボは詳細を明らかにしていないが、機械的に紙を繊維に戻し、幅約3メートルの本体内を移動させながら結合素材と混ぜ、成形・加圧して紙にする。この技術があるからこそ、「従来の設備から装置のレベルまで小型化できた」(佐伯社長)。
これにより、オフィス内で資源を循環できる。紙1枚当たりに必要なコップ1杯分の水と、輸送によって発生する二酸化炭素(CO2)を減らせる。
A3やA4の使用済みコピー用紙を投入すると、A3、A4同の紙に再生。名刺用の厚紙、色紙にもできる。A4で毎時約720枚を生産する。
ただ、普及には課題が多い。価格は2000万円台前半と高い。安価に購入できる紙をリサイクルするためにどこまで負担できるのか。セイコーエプソンの碓井稔社長はこれまでも「コスト削減ありきの売り方はしない」と繰り返し言ってきたが、紙の購入コストの削減を期待される場合もある。
ペーパーラボのランニングコストはA41枚当たり0・45円と、紙の価格とほぼ同等。厚紙や色紙に再生すると、紙の市場価格よりも低コストになる。ただ、7年の耐用年数で回収するのは難しいところだろう。
そこで、注目されるのは、機密文書を社外に出さずに繊維レベルまで完全に抹消する情報セキュリティー対策としての利用だ。ペーパーラボは、シュレッダーによる裁断よりも細かくできる上、裁断後は繊維が短くてできなかったリサイクルもできる。セイコーエプソンの市川和弘ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長は、「マイナンバーなど機密書類を多く扱う自治体などにメリットがある」とみる。
環境対応や情報セキュリティーといった数字にならないものを認めてもらうことが、普及のカギ。エプソンは発売直後から導入する顧客をプレミアムパートナーとし、一緒に価値づくりに取り組む。
プレミアムパートナーには、長野県塩尻市や八十二銀行、カネカ、住友理工などが名乗りをあげた。小口利幸塩尻市長は、「機密書類の処理に使う。再生後の紙は折り紙などにして子どもの環境教育につなげたい」と話す。
ペーパーラボにとって発売はスタート地点。どんな価値をつくれるか注目される。
<次のページ、ソニーもコンソーシアムのメンバー>
セイコーエプソンは、オフィス内で紙をリサイクルできる「ペーパーラボ A―8000」の出荷を開始し、紙の利用に一石を投じる。環境意識が高まる中、紙の利用は悪者にされがちだ。ペーパーレス化も進められているが、紙の使い勝手の良さもあり、完全にゼロにはできない。
30日に都内で開かれた製品発表会で、エプソン販売の佐伯直幸社長は「紙の未来を変えたい」と熱い思いを語った。
ペーパーラボは、紙のリサイクルに不可欠な水を使わないことが最大の技術革新だ。通常は、紙を水でふやかして繊維にし、水を含んだまま形を整え、水分を飛ばして繊維を結合させる。一方、ペーパーラボは詳細を明らかにしていないが、機械的に紙を繊維に戻し、幅約3メートルの本体内を移動させながら結合素材と混ぜ、成形・加圧して紙にする。この技術があるからこそ、「従来の設備から装置のレベルまで小型化できた」(佐伯社長)。
これにより、オフィス内で資源を循環できる。紙1枚当たりに必要なコップ1杯分の水と、輸送によって発生する二酸化炭素(CO2)を減らせる。
A3やA4の使用済みコピー用紙を投入すると、A3、A4同の紙に再生。名刺用の厚紙、色紙にもできる。A4で毎時約720枚を生産する。
価格が課題
ただ、普及には課題が多い。価格は2000万円台前半と高い。安価に購入できる紙をリサイクルするためにどこまで負担できるのか。セイコーエプソンの碓井稔社長はこれまでも「コスト削減ありきの売り方はしない」と繰り返し言ってきたが、紙の購入コストの削減を期待される場合もある。
ペーパーラボのランニングコストはA41枚当たり0・45円と、紙の価格とほぼ同等。厚紙や色紙に再生すると、紙の市場価格よりも低コストになる。ただ、7年の耐用年数で回収するのは難しいところだろう。
そこで、注目されるのは、機密文書を社外に出さずに繊維レベルまで完全に抹消する情報セキュリティー対策としての利用だ。ペーパーラボは、シュレッダーによる裁断よりも細かくできる上、裁断後は繊維が短くてできなかったリサイクルもできる。セイコーエプソンの市川和弘ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長は、「マイナンバーなど機密書類を多く扱う自治体などにメリットがある」とみる。
環境対応や情報セキュリティーといった数字にならないものを認めてもらうことが、普及のカギ。エプソンは発売直後から導入する顧客をプレミアムパートナーとし、一緒に価値づくりに取り組む。
プレミアムパートナーには、長野県塩尻市や八十二銀行、カネカ、住友理工などが名乗りをあげた。小口利幸塩尻市長は、「機密書類の処理に使う。再生後の紙は折り紙などにして子どもの環境教育につなげたい」と話す。
ペーパーラボにとって発売はスタート地点。どんな価値をつくれるか注目される。
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日刊工業新聞2016年12月1日