破綻寸前からの再起。満身創痍の金型メーカーが営業利益率10%へ至るまで
IBUKI(山形県) 生産性、働き方、取引条件、地方創生「改革の連続性」
将来への布石はAI
将来の種まきも進む。一つが金型見積もりへの人工知能(AI)導入。見積もりは取締役工場長が一手に引き受けているが、ベテランの暗黙知を形式値化する。過去の実績を基に学習を重ねて精度を高め、不具合の未然防止にもつなげる。
二つ目がオープンイノベーション。開発ではIBUKIの微細加工技術と外部の光学技術を組み合わせ、映り込み防止ミラーの開発に挑戦。スマートフォンなどに使う反射防止膜(ARコーティング)を不要にする技術開発にもめどをつけた。いずれも大きな市場性が期待できる。
生産では同業と手を組む。「プレス、鋳造、鍛造など異なる製法の金型トップ級と提携し、例えばどこかが海外に進出したらそこで完結できる体制をつくれないか。資産を最小化し、設計ノウハウが集まれば新しい製法が生まれるはずだ」と水面下で話を進める。
改革の連続性が成功に結びつく
日本の素形材産業の生産額は07年に5兆円を超えるも、15年は約4兆円にとどまり、これは国内の自動車生産台数にリンクする。少子高齢化で内需縮小は避けられない。
IBUKIは一連の改革により16年度の売上高で8億円(前年度7億円)を見込み、営業利益率は2ケタに達する可能性が高い。設備投資はIT化を含めて約1億円だ。「O2としてIBUKIの株式売却は考えていない。21世紀型のモノづくりができれば株式上場もあり得る」と松本社長は前を見据える。
山形工場の来訪者は毎日1―2組。出張者が地元に落とす金額も月数百万円にのぼる。「山形の伝道師」を自称し、さくらんぼや西洋ナシ「ラ・フランス」のBツーB(企業間)販売にも乗り出した。社員のやる気を引き出し、生産性を高め、働き方、取引条件を変え、地方創生に貢献する。改革の連続性が成功に結びついている。
(文=鈴木真央)
日刊工業新聞2016年11月29日