トランプは迷っている!?勝利演説をスピーチライターが分析
8年前のオバマとの相違点。決め台詞なし、全体を貫くコンセプトもなし
自信をもって次期大統領としてコメントできない
ところが、トランプの原稿には、全体を貫くコンセプトが見当たりません。つまり、 “MAKE AMERICA GREAT AGAIN” というコンセプトを捨ててしまったために、原稿にまとまりがなくなってしまっています。
予備選挙の勝利演説の原稿では、このコンセプトに従って、治安、経済、外交と、それぞれの分野で偉大になろうと訴えかける構成になっていました。
また、オバマのクーパーさんに代わる人物として、不法入国者に殺害された女性を紹介し、強い怒りを喚起することにも抜かりはありませんでした。とても良い原稿です。
ということは、スピーチライターが無能なのではなく、7月にはできていた仕事を今回はさせてもらえなかったか、その能力が抑制されているということです。
ですので、スピーチの出来が悪いのはスピーチライターのせいではなく、トランプの戦略変更が直前に行われたためだろうと予想します。
既に別人となったトランプ
さらに話し方にも注目したいのですが、ぜんぜん元気がありませんでした。もっと意気揚々と、勝利の美酒を支持者と共に分かち合うようなスピーチになって構わないはずです。
しかし、そういう話し方ではなく、どこか不安そうでした。これは原稿の出来と関連しているように見えます。まだ、自信をもって次期大統領としてコメントしきれないということの現れなのかもしれません。
ということで、トランプ次期大統領は、いま大いに迷っているように見えます。これだけ迷っているということは、これまでのトランプとこれからのトランプは全くの別人になる可能性があります。というより、既に別人となったトランプが勝利演説を行ったと言えるのかもしれません。
1月には就任演説が行われます。そこで今迷いに迷っているトランプは一体どんな人物へと変身するのか、期待と不安を抱えつつ見守りたいと思います。
(文=蔭山洋介)
<略歴>
スピーチライター、ブランドディレクター、演出家。 パブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略を裏から支えるブレインとして活躍。クライアントには一部上場企業、外資系企業、中小ベンチャー企業の経営者や管理職、政治家、NPO 代表、公益法人理事長、講師などのリーダー層が多い。著書に「スピーチライター 言葉で世界を変える仕事」(角川Oneテーマ21)など。>
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