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米国のモノづくり現場を歩いてみた。繁閑の差から透ける景気

日系の工作機械メーカー存在感も、活気と停滞が混在
米国のモノづくり現場を歩いてみた。繁閑の差から透ける景気

広大な工場でエンジン部品をクレーンで吊り上げるエレクトロ・モーティブの現場


自動車、航空機向け堅調


 無論、日系の工作機械も数多く見られる。FH1250はここにもあった。この大型MCを7台も導入し、シェールガス採掘に用いる設備のバルブボディーを作っていた。それでも工場内のスペースは随所に余裕がある。

 自動車部品のほか、ごみ箱や医療器具などの金型も手がけ、ジョブショップらしく多様な産業に関わるストロウィグ。おのおのの工作機械の稼働状況は加工物の納品先の懐具合も暗示する。

 「建設機械や農業機械の調子が良くないので、これらの機械は今、動いていない」とリッチ・バウアーマネージャーは止めている機械を示して肩をすくめた。

 その一方で、「調子がいいのは鉱山機械」とも。地元のウィスコンシン州は鉱員をなぞらえた「あなぐま州」の愛称を持つほど鉱山業とゆかりが深く、鉱山機械産業が根付く。資源価格の暴落で落ち目だった同産業だが、2016年が底打ちとの予測もある。その兆しが生産現場に表れているのかもしれない。

 ただ、直近のストロウィグの業績は芳しくはない。売り上げは15年に約6000万ドル(約60億円)だったが、16年は落ち込む見通しだ。もっとも、その理由は「大統領選の年はいつも落ちる」(バウアーマネージャー)ため。

(活発な航空機生産が米国の工作機械需要を支えている=ボーイング提供)

 ゆえに先行きに悲壮感はない。伸び盛りの航空機産業の開拓にも取り組み始めている。新大統領が決まり、経済政策の方向性が定まれば設備投資が再び活性化し、17年以降は「良くなる」というのがバウアーマネージャーの見立てだ。

 日本の工作機械業界にとって、米国は最大の海外市場で、近年は受注高の約15―20%を占める。日本工作機械工業会の調べによると、日系の米国受注は14年で2489億円に達し、15年は前年比8・8%減の2271億円とやや落ちた。

16年は1―9月の累計で1515億円と15年の1割減のペース。いまだ力強さを欠いている。原油安や建設不況、低調な農家所得のあおりを受け、エネルギーや建機・農機向けの需要が落ち込み、堅調な自動車や生産活動が活発な航空機向けが下支えする構図だ。

米国のモノづくりの現場はダイナミズムにあふれつつ、連なる産業の現況と先行きを示すサインが潜んでいた。今はおぼろげだが、大統領選後、鮮明な輪郭を帯びていくだろう。

それを読み取り、ニーズと趨勢(すうせい)を捉えた提案をいかにするかが、踊り場にある米国工作機械市場の勝負を分ける。
(文=名古屋・江刈内雅史)
日刊工業新聞2016年10月27日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
工作機械とロボットの連携がさらに進みそう。米国は日本よりもずっと以前からロボットが活用されている。作業者の質、工場のゆったりとした広さなどが背景にある。小さいロボットが数百万円レベルになってきて活用しやすくなり、「コンパクトロボット付き工作機械」など、あらかじめロボットを組み込むことを前提に設計した工作機械も出始めている。協働ロボットも増え、より柔軟でコンパクトなシステムが出てくるだろう。米はインテグレーションシステムも日本に比べ先を行く。ERPとつなぐビジネスが広がる。工作機械のユーザーが工場管理などのベンチャー企業をつくった例もある。

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