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米国のモノづくり現場を歩いてみた。繁閑の差から透ける景気

日系の工作機械メーカー存在感も、活気と停滞が混在
米国のモノづくり現場を歩いてみた。繁閑の差から透ける景気

広大な工場でエンジン部品をクレーンで吊り上げるエレクトロ・モーティブの現場

 成長の足踏みが続く米国の製造業。その裾野を支える工場をのぞくと、切削音を響かせる日本メーカーの工作機械が随所に映り、この地に日本の工作機械業界が深く根ざしている様が見て取れる。同時に、機械ごとやライン間に生じる繁閑の差から、まだら模様の米国経済の全景も透ける。その浮沈が日系工作機械メーカーの業績も左右する米国のモノづくり。活気と停滞が混在する現場を訪れ、当地の景気の行方と今後の設備投資の動向を占うサインを探った。

「MORI」「OKUMA」「TOYODA」―豪壮な光景


 米キャタピラーの子会社で、中西部のイリノイ州に工場を立地するエレクトロ・モーティブ。鉄道用エンジンの部品加工から組み立てまでを網羅する現場を歩くと、大柄のシリンダーブロックを天井クレーンでつり上げて運ぶ豪壮な光景にまず圧倒される。かたや、顔を下げて周囲に視線を向けると、日本国内の工場でもおなじみのロゴを機体に光らせた工作機械が至る所に目に付く。

 ここでのモノづくりには高性能の日系工作機械は欠かせない。例えば、ターボチャージャーのハウジング製造を担うのは、ジェイテクト製の大型マシニングセンター(MC)「FH1250」。パレットサイズが1250ミリメートル四方で、同社では機械の大きさは2番目。

 米国の現地法人の要請で開発したもので、日本より米国の方が売れ行きのいい製品だ。作るのはクランプする際に生じるひずみも許されないほどの平たん度が必要な部品。これをクランプしては加工を繰り返す細心の工夫を凝らしながら、機械を駆使し、高精度を実現していた。

 もっとも、工場全体の雰囲気は元気とは言いがたい。「残念ながら、稼働率は低く、仕事は忙しくない」とカール・M・アーウィンマネージャーは漏らす。昨今の売り上げも不振という。

 同社の得意先である米国の鉄道業界は、エネルギー変革の奔流に揺れる。「2―3年前まで米国の石炭利用は多かったが、地球温暖化対策で天然ガスに置き換える動きが進み、石炭の鉄道輸送が減った」(関係者)。

 さらに、景気低迷で中国からの輸入貨物や米国発の輸出貨物も減少し、物流の需要減に拍車をかけた。その余波が鉄道生産の現場にも及んでいるというわけだ。


大統領選後、市場上向くか


 「11月8日の大統領選挙が設備投資を抑えている」との見方もある。次期大統領の政策を見極められるまで、大きな動きを控えようという様子見ムードも投資意欲を一時的に沈滞させる。

 「大統領選が終われば業績は良くなる?」と水を向けると、アーウィンマネージャーは苦い笑みを浮かべながら「そう願っている」と応じた。

 かたや「良くなる」と力強く答えるモノづくり企業もある。イリノイ州の隣のウィスコンシン州でジョブショップ(中小製造業)を営むストロウィグ・インダストリーズ。部品加工やダイカスト、樹脂の金型を設計から生産、検査まで一貫して請け負う。

 「中小製造業」といっても日本の町工場とはケタ違いの規模。面積が約2万平方メートルにも及ぶ工場内には高さが6―7メートルはあろうかというイタリア製のフライス盤がそびえ立ち、周囲に切り粉を飛ばしながら円形の巨大な金属塊を削っていた。加工をいったん止めた作業員が通路に散らばった切り粉をもろともせずに踏みつぶしながら機械を離れる姿には、豪放磊落(らいらく)な国民性を感じた。

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日刊工業新聞2016年10月27日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
工作機械とロボットの連携がさらに進みそう。米国は日本よりもずっと以前からロボットが活用されている。作業者の質、工場のゆったりとした広さなどが背景にある。小さいロボットが数百万円レベルになってきて活用しやすくなり、「コンパクトロボット付き工作機械」など、あらかじめロボットを組み込むことを前提に設計した工作機械も出始めている。協働ロボットも増え、より柔軟でコンパクトなシステムが出てくるだろう。米はインテグレーションシステムも日本に比べ先を行く。ERPとつなぐビジネスが広がる。工作機械のユーザーが工場管理などのベンチャー企業をつくった例もある。

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