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アイシン精機「試練の半年」 見えてきた真の実力

地震と事故で短い間に得た多くの教訓を強さに
アイシン精機「試練の半年」 見えてきた真の実力

ドア開閉制御部品「ドアチェック」組み立てライン(17日に報道陣に公開)


地震からの立て直し中に思わぬ事態


 熊本地震で大きな被害を受けたアイシン九州(熊本市南区)には、地震直後に親会社のアイシン精機グループのほか、トヨタ自動車や日産自動車マツダからも支援部隊が飛んだ。連日、アイシン九州と子会社のアイシン九州キャスティング(同)が約400人、自動車メーカーなどから約250人、アイシングループから約350人の合計1000人体制で復旧を急いだ。

 生産移管先を決め、4月下旬から5月初めにかけて「前代未聞の代替生産」(伊原保守アイシン精機社長)を迅速に進めた。しかし、熊本地震からの立て直しに力を注いでいたさなか、思わぬ事態が発生する。

 5月30日。グループ会社で自動車用ブレーキ大手のアドヴィックス(愛知県刈谷市)の刈谷工場(同)の塗装工程で爆発事故が起きた。

 事故を起こした工程以外は同日に順次、稼働したが事故工程の再稼働は8月10日。海外からの輸入や代替生産でしのいだものの、事故直後はトヨタやスズキが車両組み立てラインを一時止めた。

 さらに、表面処理を手がけるグループの愛知技研(同)でも7月6日にガス発生事故が起き、工場外にもガスが流出。アイシンの伊原社長が同21日に愛知県の大村秀章知事を訪ねて謝罪し、再発防止策を発表した。

 だが、8月21日には再び愛知技研の別の生産ラインで火災が発生。愛知技研はどちらの事故も生産復旧や在庫により、取引先への悪影響を防いだ。愛知技研のガス発生事故について伊原社長は「増産で忙しくなり、作業者がタンクの掃除もかけ持ちして操作を間違えた」と説明する。

 アイシンの2016年4―6月期連結決算は売上高と全利益段階で過去最高を更新した。シロキ工業を完全子会社化した影響があるとはいえ、仕事量は確実に増えている。

 そのため、国内のグループ73社で安全や地震、コンプライアンス(法令順守)の対策を再確認。安全については現場任せにせず、管理者層が現場に出向いて困りごとの聞き取りなどを徹底し、事故の再発防止策を講じている。

 アイシンは4月13日、偶然だが熊本地震の前日に大規模地震対策委員会を開き、三矢誠副社長をCRO(最高リスク管理責任者)に、岡部均副社長を対策本部長に指名した。自宅から本社に歩いて通える岡部副社長を戦略的に対策本部長に据えたため、初動が早かった。地震と事故で短い間に得た多くの教訓は、企業力の強さにつなげなければならない。
(文=名古屋・今村博之)
日刊工業新聞2016年10月18日19日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「岡部さんにしておいたことが最大のヒット」と伊原保守社長は強調する。伊原社長はトヨタ自動車が実践している「対策本部長は会社に歩いてこられる人」という体制を導入し、岡田均副社長を指名した。有事の際に権限委譲ができないと、初動が遅れる恐れがあるためだ。しかも、地震前日というタイミングで対策委員会を開き、遅れていた事業継続計画(BCP)を強化したばかりだった。事故については普段していないことや、これぐらいは良いとルールに沿わなかった行動が危険と把握している。アイシンの一連の出来事は、多くの企業で他人事ではない。 (日刊工業新聞名古屋支社・今村博之)

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