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官製再編による“日の丸原発’はプラスかマイナスか

燃料事業統合が「良くも悪くもアリの一穴になる」
官製再編による“日の丸原発’はプラスかマイナスか

左から三菱重工・宮永社長、東芝・綱川社長、日立・東原社長

 日立製作所東芝三菱重工業の国内原子力発電機器メーカーを巡る再編が動き出す。3社が傘下の燃料事業会社を統合する方向で調整に入ったことが、29日わかった。年内にも合意し、早ければ2017年春にも統合する見通し。ただ業界では燃料事業の再編は“序章”との見方が強く、今後は3社が本丸の原子炉事業の統合へと歩を進めるのかが焦点となる。行方を占う上での注目点の一つは東芝の動向だ。

「経営状況は非常に厳しい」(三菱重工首脳)


 「国内の原発がほとんど稼働していない現在、(燃料事業会社の)経営状況は非常に厳しい。踏み込んだ手当が必要なのは間違いない」―。日立、東芝、三菱重工の3社による原発燃料会社の統合計画が明らかになった29日朝、三菱重工首脳はこう話した。

 3社は3分の1ずつ出資する持ち株会社を新設し、その傘下にそれぞれの燃料会社を収める案を検討している。将来は1社に統合することも視野に入れている模様だ。

 国内の原発燃料会社は、日立系のグローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン(GNF―J、神奈川県横須賀市)、東芝系の原子燃料工業(東京都品川区)、三菱重工系の三菱原子燃料(茨城県東海村)の3社しかなく、統合が実現すれば製造拠点や間接部門の統廃合、原料の調達費の低減といった効果が期待できる。

 11年の福島第一原子力発電所の事故の影響で、国内の原発の再稼働は遅れている。当然の結果として原発燃料需要が極端に少ない状況が続いており、燃料3社の経営は厳しい状況が続いていた。

 日本国内では原発の新設は難しい状況だが、海外では市場拡大が見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)によると世界の原発設備容量は2040年には13年比約1・6倍の6億1400万キロワットまで伸びる見通し。中国、インドなど新興国のほか、米国、英国など先進国でも新設計画が進む。

 東芝は米ウエスチングハウス(WH)を含むグループとして沸騰水型原子炉(BWR)、加圧水型原子炉(PWR)の両方式に対応できる。中国やインドで受注を重ね、30年度までに45基以上の受注目標を掲げる。

海外展開へまず国内事業の安定を


 日立は米GEと組み海外で成長、収益向上を図る方針を掲げる。傘下の英原発事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを通じ、英国西部のウィルヴァ・ニューウィッドに原発2基を建設する計画を進め、リトアニアでも受注獲得も目指す。

 三菱重工は仏原子力設備大手アレバグループと提携しており、6月にはフランス電力会社(EDF)と原発事業で協業する覚書に調印。EDFとの関係強化で新型炉事業を加速するとともに、原子力発電プラント輸出で海外市場を深耕していく。両社で共同開発中の新型PWRを武器にトルコでの受注を目指している。

 一方、原発は事故や故障などの際に生じるコストが膨大で、ハイリスクのビジネスといえる。また原発運営ノウハウが乏しい新興国では、原子炉メーカーに現地の電力会社に対する出資を求めるケースも多く、受注を有利に進めるためには資金力も重要になる。競争も激化しており、海外では中国、韓国、ロシアの原子炉メーカーが攻勢を強めている。

 日本の原子炉メーカー3社が海外での競争力を維持するために何をすべきか、国内事業を安定化させるために何が必要か―。原子力産業の生き残りが国を挙げての課題となるなか、有効策の一つとして3社を統合させる案が経済産業省などで議論されてきた。

 さらに15年春に発覚した不適切会計問題により東芝が経営危機に陥ったことで、一気に議論が加速。同社社外取締役の一人は「原発ビジネスは国策という側面が多い。日立、三菱重工、東芝の3社を合わせてやるべきだ」と話す。

(国内で現在稼働中の原発は四国電力の伊方3号機<左>と九州電力の川内1・2号機)

カギ握る東芝の動向


 ただ統合は一筋縄ではいかない。東芝は経営危機を乗り切るため白物家電や医療機器事業を売却し、原発などのエネルギー、昇降機などの社会インフラ、NAND型フラッシュメモリーの三つを経営の柱に据えた。巨額の設備投資を必要とするNAND型フラッシュメモリーを巡っては「分社し上場させる案が検討されている」(業界関係者)。

 さらに原発事業が切り出された場合、柱は社会インフラしか残らず経営再建が頓挫するリスクが高まる。このため少なくとも社会インフラ事業の収益性が向上し、経営が安定化するまでは原発事業を切り出すことは難しいとの見方がある。

 次善策としてまず3社の国内原子炉事業のみを統合する案、東芝が海外に強い米WHだけを残しBWR事業は日立と統合する案などが想定される。

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日刊工業新聞2016年9月30日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
2011年3月の事故以来、原発に関して事故や故障などの際に生じるコストが膨大で、ハイリスクのビジネスとの見方が広まった。「2030年の電源構成に占める原発の割合は20~22%」を政府が本気で考えているのか疑問視する声すら出ている。電力が自由化されたいま、原発に関して、将来の廃炉費用などを勘案すれば発電コストをどう予測するかが困難な状態だ。このままでは電力会社は原発に及び腰にならざるを得ないし、今回の日立・東芝・三菱重工傘下の原発燃料会社統合の動きは、国の方針が不透明ななか、経営上、当然の帰結だ。この動きは日本の原子力事業会社の一本化への道筋を開いたものといえる。政府は世論の動向を気にせず、エネルギーセキュリティの観点から、国策として原発事業を当分継続するという方針を明確にし、原子力技術者を継続確保し技術の温存と技術開発を図り、その成果をもとに日本の技術を世界に広めるよう後押しすべきだ。

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