ニュースイッチ

「ポケモンGO」大学の研究者に刺激。位置情報ゲームで社会課題に向き合う

社会がGPSをオフからオンに。健康増進や防災教育などにデータ活用広がる
「ポケモンGO」大学の研究者に刺激。位置情報ゲームで社会課題に向き合う

右は野間立命館大教授らが開発した滋賀県長浜市のウオーキングイベントのアプリイメージ(立命館大提供)


流行を可視化、地域ごとの音楽流れる


 新しい世界観を作る試みもある。明治大学の宮下芳明教授らの開発した「ノラ音漏れ」はGPS連動型音楽アプリだ。1曲聴くとその曲が音楽モンスターとなって地図上に現れ、徘徊(はいかい)し、他のアプリ利用者は遠くのモンスターが歌う楽曲が聞こえるようになる。

 その音楽を気に入れば、そのモンスターを捕獲し自分のプレーリストに加える。同じ音楽モンスターに出会えば子を産んで増殖。その地域でよく聞かれている楽曲が自然に増える。

 小学校の近くでは生徒の間で流行しているアニメソング、海水浴場では夏の定番ソング、図書館ではクラシックといった具合だ。もともと、ご当地アイドルや企業のCMソングなど、地域には地域ごとの音楽が流れている。宮下教授は「東京の音楽業界大手によるランキングに縛られない流行を体感できる」と説明する。

 宮下教授は「これまでプライバシーを気にして、スマホのGPSをオフにする人が多かった。ポケモンGOはGPSをオンにし、他のアプリもデータが使えるようになった。これだけでも功績は大きい」という。地図上でサイバー(電子)とリアル(現実)が融合する環境が整った。
(文=小寺貴之)
【用語】
 位置情報ゲーム=位置情報を利用したゲーム。GPSやビーコンなどで携帯端末の場所を特定し、コンテンツを配信する。現実にある場所とコンテンツを結びつけてゲームの世界観を作る。
 ポケモンGOでは地域ごとに出現するモンスターが変化する。モンスターを拡張現実(AR)技術でその場にいるかのように端末画面に表示し、旅先でその地域ごとのモンスターに出会えるように演出した。
 前作で位置情報の登録をユーザー参加型で進め、世界に遊び場を広げた。ウィキペディアのようにスポットのトリビアをユーザーが書き込め、観光や防災などへの2二次利用が広がりつつある。

記者ファシリテーターの見方


 私は温泉街で「●●旅館の二代目はマスオさん」「■■旅館の三代目は二代目のこさえた借金を返済中。8割方返済したところで信用金庫から新しい融資と投資策を提案され思案中」などと紹介されると、とても応援したくなってしまいます。

 数年後に訪ねて経過を聞くために仲良くならねばと思ってしまいます。設備や料理だけでなく、お店が持つ歴史や物語は魅力になります。地域の文化や歴史を知るだけでも面白いですが、現在進行形で地域活性化や防災に試行錯誤している地元の人たちと交歓できると深い観光ができます。

 そこには積み重ねや発見があり、自分の将来を考えるきっかけになるはずです。これこそが成熟社会の観光の魅力だと思います。ツアーに行ってもこんな経験はなかなかできません。位置情報ゲームが地理と情報、コミュニティーをつないでくれれば、地方創生にも貢献できると思います。
(日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)
日刊工業新聞2016年9月20日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
決して新しい技術ではない位置情報ゲームが、ポケモンGOという一つのソフトで一気にブレイク。災害対策、健康作り、老人の見守りなど様々な用途に使えるようになるといい。

編集部のおすすめ